② 解雇回避努力義務

人員削減の必要性が認められたとしても、直ちに整理解雇が認められるわけではなく整理解雇を可能な限り回避したことが必要です。
もっとも、次に引用する裁判例のように、人員削減の必要性が低ければ、解雇回避努力義務は高い水準を要求されます。

 以上の検討によれば,本件解雇につき人員を削減する必要性は認められる。もっとも,上記のとおり,本件解雇が被告の財務状況が悪化によるものではなく、経営政策上の必要性によるものであることに鑑みると,本件解雇につき客観的に合理的な理由があるというためには,それ相応の解雇回避努力が尽くされる必要があるというべきである。

東京地裁平成30年10月31日判決

繰り返しになりますが、整理解雇の4要素はそれぞれ独立別個に検討されるわけではなく事案ごとに伸び縮みします。
特に、人員削減の必要性の要素を鍵として必要性が高ければ他の要素は低くても良いですし、逆もまたしかりです。

解雇回避の方法

  • 新規・中途採用の中止
  • 派遣社員、アルバイト・パート社員、契約社員の削減の実施
  • 残業削減・労働時間の短縮
  • 希望退職者の募集の実施
  • 他の職種への配転可能性
  • 他社への出向
  • 再就職支援

具体的には整理解雇の前に、上に挙げた手段をとって人件費を削減し、整理解雇を回避する真摯な努力を行っておくことが考えられます。

ただし、これらの環境整備のうち何をとるべきかは事情によって異なりますし、解雇回避努力の内容を画一的に決めることはできません。

さらに言いますと、人員削減の必要性において主張する経営危機の程度が悪いほど、これらの環境整備をしても余剰人員を雇用し続けるする余裕などないと考えます。
極端な例で言いますと、あと3ヶ月で現預金が枯渇するほど切迫していれば解雇回避を努力する余地などないでしょう。

したがって、理論的にはこれらの環境整備が考えられるものの、コロナウイルスの影響により整理解雇を余儀なくされた会社にとっては、解雇回避努力としてできることは限られているのではないかと考えます。

もっとも、整理解雇と直接の関係はなくても、経営改善の一環としてこれらの環境整備に着手したのであれば、それは「人員削減の必要性」を強く支える事実になりますし、同時期に行われているならこの「解雇回避努力」の要件の認定にプラスになります。

裁判例(解雇回避努力義務)

なお,被告においては,賃金の減額交渉や配置転換,希望退職の募集等の努力はしていない。しかし,配置転換や希望退職の募集については,被告の企業実体に照らせば,取り得る選択肢ではないし,賃金の減額交渉についても,原告が応じるかどうかは不明である。解雇回避努力にも様々な態様が考えられ,その企業の実情や状況に応じて選択すべきものであり,本件において,賃金の減額交渉や配置転換,希望退職の募集等をしなかったからといって,被告が解雇回避努力をしなかったとは評価できない

大阪地裁平成28年2月4日判決

ア 各項末尾に掲記した疎明資料によれば,以下の事実が疎明される。
(ア) 抗告人は,平成20年8月以降,土曜日の搬送業務が減少したことから,就業規則を改正し,同年12月以降,隔週の土曜日を休日として勤務日数を292日から269日に縮減した。(〈証拠略〉)
(イ) 抗告人は,平成21年1月分(平成20年12月16日から平成21年1月15日までの分)の給与を運転部門の従業員について平均2万3170円,事務部門の従業員について平均2万9990円減額した。(〈証拠略〉)
(ウ) 抗告人は,全従業員について,平成20年夏季賞与と比べ,同年冬季賞与の基礎額を一律2万円減額した。(〈証拠略〉)
(エ) 抗告人は,平成20年12月5日の臨時株主総会において,平成21年1月分から役員報酬を平均で1割強削減することを決定し,同月分から削減した額で支給した。(〈証拠略〉)
(オ) 抗告人は,本件組合と協定を結んだ上で,一時帰休を実施し(〈証拠略〉),また,休業による中小企業緊急雇用安定助成金を受給し(〈証拠略〉),派遣事務員の残業及び休日出勤の抑止による派遣料金の節減,点呼管理を委託している契約社員についての給与日額の減額(〈証拠略〉)を実施した。
(カ) 抗告人は,平成20年9月1日には台車4台を合計129万0660円で,平成21年2月17日トラクター2台を合計380万円で,それぞれ売却した(〈証拠略〉)ほか,平成20年9月22日及び同年10月20日にK鋼鐵の株式各1万株を売却して,550万2822円及び513万5013円を得た(〈証拠略〉)。他にも,抗告人は,平成20年8月ころ以降,節電や事務用品代及び再生タイヤの導入によるタイヤ購入代金の節減等を実施し,同年9月以降は緊急を要しない設備投資を見送った(〈証拠略〉)。
イ 上記アの各措置は,解雇回避努力に当たるというべきである。
(中略)
ウ 希望退職者の募集についても,前記2で疎明されたとおりであって,抗告人は,運転資金の枯渇が予想される平成21年6月が迫る中,募集期間を延長し,あるいは優遇措置を設ける等して,努力を尽くしたということができる。
 事務部門に関しては,運行管理等の事務量にかんがみ,大幅な削減をすることができない状態にあったことから,募集対象者を運転部門に限定したことは合理的なものと評価することができ,さらに,本件整理解雇に伴う事務処理が終了した平成21年5月1日には同部門から1名を運転部門へ配置転換するとともに,同月末日をもって派遣社員3名のうち1名を契約期間満了により雇い止めとしている。

東京地裁平成22年5月21日決定

 この点,原告は,整理解雇に当たっては希望退職者の募集が不可欠であると主張するが,整理解雇に当たっての解雇回避努力の履行として希望退職者の募集が不可欠であるとまでいうことはできないし,本件解雇の時点において,被告の従業員は4名にすぎず,必要最小限の人員態勢の下で業務を遂行していたことがうかがわれるから,希望退職者を募集することが現実的な選択肢として有り得たということができるか相当に疑問である
 また,原告は,そのほかにも,ワークシェアリング,再就職支援等の措置を取るべきであったと主張するが,本件解雇の時点における人員削減の高度の必要性のほか,被告の企業規模に照らした場合,被告が原告主張の解雇回避措置を取ることは,およそ現実的ではなかったといわざるを得ない。

東京地裁平成24年12月13日判決

③ 人員選定の合理性

  • 勤務成績・貢献度
  • 勤務年数
  • 過去の勤怠状況
  • 経済的打撃の程度
  • アルバイト社員 < パート社員 < 契約社員 < 正社員

人員削減の必要性があり、解雇回避努力を尽くしたとしても、客観的で合理的な基準により解雇対象の従業員を選定します。
裁判例で挙げられる客観的で合理的な基準は上に挙げたとおりです。

勤務成績・貢献度は客観的で定量的(数値で比較しやすい基準)であれば合理的と認められることが多いです。

勤務年数については会社の状況によって合理的かは分かれます。若年齢者を解雇する場合にも高年齢者を解雇する場合にも経済的打撃の程度が問われやすいです。

過去の勤怠状況は客観的で定量的ではありますが、細かい差でもって解雇対象を区別することは不合理だと見られやすいです。

経済的打撃の程度は、扶養家族の有無・数、再就職の可能性、新たな収入を得られる可能性などを考慮して判断されます。これは独立した基準というよりも上の3つの基準を機械的に当てはめたら余りにも酷だという場合に補助的に使われます。

また、雇用継続への期待が高い従業員を保護するべきすので、アルバイト社員 < パート社員 < 契約社員 < 正社員 という順に解雇対象者を選定することも合理的です。

裁判例(人員選定の合理性)

 しかし、右臨時員の雇用関係は比較的簡易な採用手続で締結された短期的有期契約を前提とするものである以上、雇止めの効力を判断すべき基準は、いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結しているいわゆる本工を解雇する場合とはおのずから合理的な差異があるべきである。(3)したがつて、後記のとおり独立採算制がとられている被上告人の柏工場において、事業上やむを得ない理由により人員削減をする必要があり、その余剰人員を他の事業部門へ配置転換する余地もなく、臨時員全員の雇止めが必要であると判断される場合には、これに先立ち、期間の定めなく雇用されている従業員につき希望退職者募集の方法による人員削減を図らなかつたとしても、それをもつて不当・不合理であるということはできず、右希望退職者の募集に先立ち臨時員の雇止めが行われてもやむを得ないというべきである。

日立メディコ事件 – 最高裁昭和61年12月4日判決

4.手続の相当性

会社が整理解雇をする場合、①人員削減の必要性、②解雇回避の方法、③人員選定の基準を整理解雇対象者に対して説明し、その納得を得るために協議を行わなければなりません。

もっとも、①人員削減の必要性、②解雇回避の努力、③合理的な人員制定が実質的な相当性判断の要件であるのに対し、手続の相当性はあくまでも手続きの要件なので、極めて不誠実な対応で配慮に著しく欠ける事情がない限りは、丁寧に説明さえすれば認められやすいといえます。

大切なのは丁寧に説明するという点であり、整理解雇を告げることが後ろめたいということで書面の送付だけで済ませてしまうと、手続の相当性が認められないでしょう。

また、裁判例の多くは、この手続の相当性についての立証責任を労働者側に負わせています。
これがどういうことかと言うと、労働者側が「手続きが相当性に欠ける」と立証しなければならず、それはそれでハードルが高いのです。
これまで私が見てきた整理解雇の裁判例で、清算手続きの場合を除き、①人員削減の必要性、②解雇回避努力義務、③人員選定の合理性、について充足すると認められたときに、この④手続の相当性が否定されるというケースはありません。

清算手続きにおける整理解雇の要件

新型コロナウイルス又はその他の影響により経営が悪化した場合、経営継続を諦めて清算手続きにより会社を解散させるということも考えられます。
会社が解散すれば消滅しますが、従業員を放置することはできず、きちんと整理解雇をしなければなりません。

もっとも、経営を継続する場合とは異なりますので、この場合の整理解雇の要件は次の2つになります。

  • 人員削減の必要性 ⇒ 事業廃止の必要性
  • 手続の相当性

この場合は解散して事業を廃止しますので、人員削減の必要性を事業廃止の必要性と読み替えます。

弁護士 芦原修一

1 2