この東京地裁の裁判例②は既存社員の解雇の事案です。そして内定取消しにも応用できますので判決を整理して紹介します。
結論から言うと、本件解雇については会社側の全面勝訴、控訴審の東京高裁でも全面勝訴判決が出て確定しています。
裁判例②の清算手続きに伴う解雇の要件
裁判例②の裁判所が示した解雇の要件は次のとおりです。
1)解散の判断が不合理でないこと
2)手続が不相当でないこと
ここで注目するべきは、2つの要件はともに二重否定である点です。
「合理的であること」、「相当であること」ではありません。
特に1)については「会社の解散は,原則として,企業主(株主)の自由な意思に基づいて行うことができるものであり,その前提としての廃業も,経営者ないし企業主の自由な意思に基づいて行うことができるのが原則と解するのが相当である。」とされており、原則は合理的であることとされているものと考えます。
そして従業員側が「不合理であること」を立証しなければならないので、1)の要件については清算手続きにおいては問題になりにくいです。
2)についても裁判所は「不相当でないこと」としているので、会社側がある程度手続の相当性を示せばあとは従業員側が「不相当であること」を立証しなければなりません。
これは弁護士以外の方には分かりづらいと思いますが、かなり会社側が解雇しやすい要件です。
解散の判断は不合理ではない
裁判所は解散の判断の合理性について次のとおり示しました。
「被告の営業損益は,平成19年9月期が約1105万円の利益,平成20年9月期が約678万円の損失,平成21年9月期が約178万円の利益,平成22年9月期が約3472万円の損失,平成23年9月期が約5886万円の損失である。」
「このとおり、被告の経営状態については,平成23年9月期まで,営業損失が増大傾向にあり,平成24年9月期に至っても営業損失が約3207万円であって,回復の基調もうかがわれなかったというのであるから,被告の廃業の判断に不合理性は認められない。」
ここから分かることは、解散の判断の合理性を証明するには直近3、4年の決算書が必要だということです。
そして、損益計算書で営業損失が直近2年続くことで翌年度も営業損失が生じるだろうと推測されます。これが「回復の基調もうかがわれなかった」という評価につながります。
手続きも不相当ではない
裁判所は手続の相当性について次のとおり示しました。
「被告は,その経営状況の概況については希望退職募集に関する従業員説明会や団体交渉等を通じて,従業員ないし本件労組に対して説明等をしてきたこと,前記前提となる事実によれば,本件解雇は,被告の従業員全員に対して行われたものであることに照らせば,本件解雇に至る手続において特段不相当と認めるべき事情も見当たらない。」
この裁判例の結論
以上により、この解雇は有効とされました。
重要な事情
事前の交渉
賃金カットの申し入れ、2度の希望退職者募集、
解雇の通知
平成23年7月12日に解散決議をしたあと、10月7日に整理解雇が免れらない旨の通知、 以降4回の団体交渉、12月1日に第1回の解雇(本件は第2回)、
平成25年5月8日に廃業説明会、以降2回の団体交渉、5月22日に本件解雇。
その後6月27日に解散決議。
事後の説明
なし。
事後の説明はあまり重視されていないようです。
再就職のあっせん
なし。
これでも解雇は有効とされました。
ただ、あっせんしていればさらにプラスに働いたでしょう。
経済的手当て
なし。
経済的手当てが解雇の正当性を基礎付けるため不可欠ではないことを示しています。
ただ、手当てがあればさらにプラスに働いたでしょう。
内定取消しへの応用
この裁判は既存社員の解雇ですので内定者と同じには考えらえませんが、経営悪化に伴う清算手続きにおいて自身には落ち度がない労働者との関係を解消するという点では共通しています。
重要なのはコロナウイルスの影響で経営悪化したことを客観的に示すことです。
これはコロナウイルスの影響単体だけでなくても良く、これまでも悪化しつつあったとしてそれと併せての悪化であると示しても構いません。
要は現在から将来に向けて会社の存続は赤字続きで危ぶまれることを示すのが必要なのです。
次に、いきなり解散、内定取消しの通知をするのではなく、事前の丁寧な説明は一度は必要です。
また、可能であれば別会社への就職のあっせんをしておけば手続き的に配慮したといえます。
そして、不可欠ではないものの幾らかの経済的手当てを出すことによっても手続き的に配慮したといえます。
おわりに
細かく分析しましたが、もっとも印象に残ったのは、説明・交渉の数の多さです。
本件は既存社員の解雇ですので、内定者向けであればここまで多く説明・交渉をすることは必要ありませんが、丁寧に手続きを進めることは必要です。
そうすることで、こうした事後的な裁判において負けることはなくなります。
弁護士 芦原修一