音声でこの記事を解説しました。
この記事は3ページあります。
1ページ目はじっくりとお読みください。パワハラ加害者への懲戒処分の判断基準とどのような懲戒処分をするべきかを説明していて、必ず役に立ちます。
2ページ目と3ページ目は、1ページ目で示した懲戒処分の判断基準に沿って裁判例を細かく解説しています。ただし、かなり長いので参考にしたい裁判例を中心に読んでそれ以外は読み飛ばすか斜め読みでも良いと思います。
もちろん、しっかりとパワハラ加害者に対する懲戒処分についての相場観を身に付けたい方はじっくりとお読みください。
それでも「どういう懲戒処分をすれば良いのだろう」と悩まれる場合にはご遠慮なくお問い合わせください。
会社とパワハラ加害者とは懲戒処分で対立する
パワハラがされたときの法律関係は少々複雑です。
誰が誰に対してどのような請求をするかという点を押さえないと法律関係を把握することができません。
従業員が他の従業員又は取引先等の第三者にパワハラをしたとき、一般的にはその被害者がパワハラをした加害者に対して損害賠償請求をします。
それに対してその加害者は、「パワハラはなかった」、「パワハラの程度は低かった」など反論して自分を守ります。
しかし、会社がパワハラを理由としてその加害者に対して懲戒処分をした場合、「懲戒処分は懲戒権濫用で無効だ!」として会社に対して懲戒処分無効請求又は損害賠償請求をして攻撃します。
その際に加害者は、「パワハラはなかった」、「パワハラはあったが懲戒処分をするほどではなかった」などと主張するのです。
上の図で言いますと、会社から加害者への懲戒処分の部分ですね。
この記事では、どのようなパワハラなら懲戒処分が有効とされるかを見極めたいと思います。
つまり、裁判においてパワハラの事実があったと認定された裁判例を見て、懲戒処分が有効とされたのか、無効とされたのかを分類することにより、どのようなパワハラなら懲戒処分をしても大丈夫かが見えてきます。
懲戒処分が無効とされれば不当な懲戒処分として従業員側が会社を訴えて、ときには訴訟上で1,000万円もの損害賠償金を支払う羽目になることもありますので、パワハラがあったからといって直ぐに懲戒処分をすることのないようにしてください。
当然のことながら懲戒処分には軽いものから重いものまであり、軽い懲戒処分(戒告処分やけん責処分)は有効になりやすく、重い懲戒処分(懲戒解雇など)は無効になりやすいです。
大雑把な枠組みは次のとおりです。特に懲戒処分の有効性を争われる事案では①と②まででパワハラ認定までは問題ないのですが、③の相当性で結論が分かれます。
① どういう行為がされたか
② ①で認定された事実はパワハラか
③ ②で認定されたパワハラをしたことに対してした懲戒処分は相当か(重過ぎないか)
懲戒処分の有効・無効を分ける判断基準
各判断要素とポイント計算
パワハラ加害者に対する懲戒処分の有効性が争われた裁判例を分析した結果、有効・無効を分ける判断要素は次のとおりです。次の表のポイントを計算して妥当な懲戒処分の内容を割り出します。
要素 | 備考 | ポイント |
---|---|---|
明確な犯罪行為 | 傷害を伴う暴行など | ★★★★~★★★★★★★★★★★(ベースは★8) |
傷害を伴わない暴行 | 肩を小突く | ★★★ |
要素 | 備考 | ポイント |
---|---|---|
侮辱的な人格否定 | 「今まで何も考えてこなかった」など | ★★~★★★ |
退職の強要 | 無理な目標の不達成 | ★★ |
改善点を述べず失敗点だけを執拗に指摘する | 一見正当な指摘も継続すればパワハラ | ★ |
要素 | 備考 | ポイント |
---|---|---|
被害者が2人~4人 | ★ | |
被害者が5人以上 | 10人を超える場合は適宜星を加算 | ★★★ |
長時間 | ★~★★ | |
長期間・継続的 | ★★~★★★ | |
経営者又はそれに準じた地位 | 取締役・役員補佐・執行役員・部長 | ★~★★ |
会社が全社的にパワハラ防止を謳っている | 会社の方針に完全に逆行 | ★~★★ |
(暴言の場合)大声で怒鳴りつける | ★~★★ | |
(暴言または傷害を伴わない暴行の場合)机を叩くなど荒々しい動きを伴う | 加害者の領域 | ★★ |
(暴言または傷害伴わない暴行の場合)相手の持ち物を壊すなど荒々しい動きを伴う | 被害者の領域 | ★★★ |
身体的に劣位の者に対する暴行 | 男と女、若者と老人、20センチの身長差、20キロの体重差 | ★ |
一度注意を受けたのにパワハラを繰り返した | 懲戒処分でなくても良い | ★★★★ |
業務上の必要性が一応感じられる | 減点要素(同情の余地あり)限定的に適用 | ☆ |
真摯に謝罪した | 減点要素(今後改善の余地あり) | ☆ |
懲戒処分歴がないこと並びに会社への貢献度高い | 減点要素(パワハラだけが加害者にとって突出した不祥事)限定的に適用 | ☆ |
実際に被害者からパワハラの相談を受けた場合には、以上の要素について聞き取って、パワハラの存否を認定したうえで、悪質性を評価してください。
そのうえでポイントの計算をしてください。
表1と表2のうち最もポイントの高いものを計上します。
なお、明確な犯罪行為は解雇を検討しても良いです。
計上されたポイントに表3のポイントを差し引きします。
そのうえで以下の表に当てはめてどういった懲戒処分を検討するべきかの目安を割り出してください。
表1と表2のなかからは1つだけを選びます。
複数の行為があっても1つです。
被害者が多かったり長期間・継続的にパワハラをしたことは表3の加減ポイントで加算します。
表3については例えば被害者の人数が10人を超える場合などは適宜裁量で星を加算してください。
経営者側に準じた地位と会社が全社的にパワハラ防止を謳っていることが両方当たれば両方とも星2つとしてください。
減点要素ですが、これらのうち業務上の必要性についてはそもそも必要性が認められることはパワハラ性の否定になりますので限定的に適用してください。
衆人の前でのパワハラなら被害者にとって屈辱的である一方、会議室での1vs1なら恐怖です。
つまりいずれの状況でも悪質性そのものには差がないのでこれらの状況への評価はパワハラ行為そのものに含まれています。
もっとも、それを超えて例えば衆人の前で「靴を舐めろ」と言い実際に舐めさせたら屈辱の極みですし、会議室で1vs1で「俺にはヤクザの知り合いがいるからどうなるか分からないぞ」などと脅迫すれば迫真性が増します。これらの悪質性については別途評価するべきです。
パワハラに対する懲戒処分の相場
懲戒処分には軽いものから順に、戒告処分、けん責処分、減給処分、出勤停止、降格処分、諭旨解雇、懲戒解雇があります。
以下の表では、星の数に応じて検討すべき懲戒処分を挙げています。これはあくまでも目安です。
表に表れていない事情によりこの目安よりも軽い処分、重い処分を検討しても構いません。
また、ここでは記載のない諭旨退職および普通解雇を検討しても良いでしょう。
諭旨退職とは、懲戒解雇相当な場合でも温情で自主退職をすることを促して退職させる処分です。諭旨退職は退職勧奨のようなものなので退職者はそれを拒否できますが、拒否した場合には懲戒解雇とするのが通例です。いきなりの懲戒解雇よりも緩い処分と言えます。
普通解雇は懲戒処分の一種ではありませんが、会社秩序を乱したということで普通解雇にすることもできます。会社からの一方的な労働契約の解約でありその点では従業員に厳しい処分ですが、退職金は満額もらえますし転職の際に解雇されたことを明らかにする必要がないので懲戒解雇よりも緩い処分です。
これら諭旨退職及び普通解雇をするメリットは、懲戒解雇が有効とされるのにはハードルが高いのに対しこれらの処分は懲戒解雇のそれよりもハードルが低いところにあります。
もちろん諭旨退職であれ普通解雇であれ簡単に有効だと認められるわけではありませんが、懲戒解雇よりは随分とマシです。
別記事の「懲戒解雇をしたいときでも同時に普通解雇をしておくべき」は懲戒解雇を検討している会社にとって必読です。
星の数 | 検討対象の懲戒処分 |
---|---|
★2~★3 | 戒告処分またはけん責処分 |
★4~★5 | 戒告処分~減給処分 |
★6~★7 | 減給処分~降格処分 |
★8~ | 降格処分~懲戒解雇 ※諭旨退職または普通解雇 |
実際の裁判例ではこのように単純には判断されませんが、相場観を身に付けるためにもこうしたデジタル化は有益です。
以下の裁判例でもこのポイント計算をして裁判所がした判断の妥当性をチェックします。
ここまでお読みになられても解決の道が見えず、懲戒処分その他を含めたパワハラ加害者への対応についてお悩みであればは是非ご相談ください。お話を伺ったうえで今できることをすべてお話しいたします。
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