業務指示・業務命令に従わないのは逆パワハラとも言える

上司が「A社さんに電話をしておいてください。」と指示をしても「はい、はい」と言うだけで従わない。
資料を人数分揃えておいてと頼んでも会議までに用意をしない。
挙句の果てには「指示がおかしいんじゃないですか。」とせせら笑う。

こんな協調性に欠けた従業員が居ては会社としてはたまりません。
このような態度はもはや従業員から上司に対するパワハラ(逆パワハラ)とも言えます。
このような従業員を野放しにしていては、その上司もいずれは病んで会社を辞めてしまいます。
そうするとその従業員(問題社員)だけが会社に残り益々業務の効率が落ち、社内の人間関係も悪化します。

こうした状況に気が付いたら早めに手を打ちましょう。
対策を打った過程でその問題社員が改心してくれればそれで良し、信頼関係が再構築できたことになります。
しかし、そうでなければ最終的には普通解雇、場合によっては懲戒解雇をして会社を正常化させるのです。

解雇するための手順

「解雇するための手順」
こう書きましたが必ず解雇しなければならないとは限りません。
解雇すると弁護士が付いて争われやすいのであくまでも最終手段です。

最悪、後に弁護士が付いて争われても仕方ないと思うくらい、その問題社員が会社にとってマイナスの存在であるときに初めて解雇を選択しましょう。

そのためには、解雇ありきでその問題社員に向き合うのではなく、信頼関係の再構築を試みることです。
信頼関係の再構築を試みても一向に態度が改まらなければ、そのときには解雇を正当化する材料が揃っているはずです。

いきなりの解雇は後に無効とされることもある

理不尽ですが、いきなりの解雇は後に争われたときに無効とされることがあります。
解雇というのは最終手段ですので、解雇を回避できた可能性があった場合、その解雇が無効とされることがあるのです。

問題社員を解雇する場合には勤務態度が不良で職務を行う能力や適格性を欠いていることを主張します。
そして、その不良な勤務態度が会社の業務遂行に支障を生じ、解雇しなければならないほどに程度が高いこと、その期間・回数、改善の余地がないこと、注意・警告をしたり反省の機会を与えたりしたこと、を具体的に主張して争います。

これが訴訟上で争点になることが多いのですが、この中で「改善の余地がないこと」、「注意・警告をしたり反省の機会を与えたりしたこと」という点が結構重視されます。

問題社員と会話をするのは不快です。
そこで、不快な会話、接触を避け続けて、どうにもならなくなって解雇するという会社が多いです。
しかし、そのような形で普通解雇をしてしまうと後に争われたときに「注意・警告をしたり反省の機会を与えたりしなかった」ということで普通解雇が無効と判断されやすくなってしまうのです。

このように、注意・警告をする以前に、単に会社幹部の主観で「あいつは問題社員だから解雇しよう」にはリスクがあるのでご注意ください。

労働契約を継続することができないほどに重大な支障が生じているか

 確かに,各解雇事由,すなわち,所在不明,協力関係不構築,執筆スピードの遅さ,記事本数の少なさ及び記事内容の質の低さのそれぞれについて,会社側の使用者としての主観的評価として,この従業員の職務能力が不十分であるとしていたことは認められる。
 しかし,この従業員は,改善プログラムにおいて具体的な数値によって設定された課題をほぼ達成している上…会社が,客観的にこの従業員に求められる職務能力を立証するために提出した証拠は適切なものであったとは言い難いこと等からすれば,会社による主観的評価以上に,客観的に認められるこの従業員に求められている職務能力に照らして,被控訴人の職務能力の低下が,この従業員と会社との間の労働契約を継続することができないほどに重大なものであることを認めるに足りる証拠はない。

東京高裁平成24年4月24日判決

 雇用契約において普通解雇権を行使することは,継続的契約関係を使用者側の一方的意思表示によって解消することであって,常に相手方当事者である労働者に大きな人的・経済的不利益を与える危険性を有するものであるから,かかる普通解雇権の行使が認められるのは,勤務態度不良というその内容や回数が,使用者の業務遂行に,容易には対応しがたい具体的支障を生じさせる程に重大な程度に達しており,かつ,使用者による注意指導や改善の機会提供にもかかわらず,今後ともかかる勤務態度の改善の見込みがなく,他に解雇を回避する相当な手段がない場合の最終的手段として用いられる場合に限り,解雇についての客観的合理的な理由となり得るものというべきである。
 したがって,被告の就業規則76条(3)所定の「勤務態度が著しく不良で,学園の職員として勤務するには不適当」という解雇事由もまた,上記のような基準に該当する限りにおいて,有効な解雇事由となり得るものである。

さいたま地裁平成29年4月6日判決(第1審)

上の東京高裁の裁判例では「労働契約を継続することができないほどに重大なもの」という規範が使われています。
抽象的な規範ですが、それだけあらゆる普通解雇の事例に適用できます。
具体的な検討で行き詰った場合には、この抽象的な規範に立ち返り検討しましょう。

これを具体化したのが下のさいたま地裁の裁判例です。
不良な勤務態度は会社にとってマイナスですが、単に周囲がその問題社員の勤務態度が不良で不快だと感じるだけでは普通解雇は有効と判断されません。
「業務遂行に、容易には対応しがたい具体的支障を生じさせる程に重大な程度に達しており…」ということが「労働契約を継続することができないほどに重大なもの」を具体化したものであることはお分かり頂けると思います。
したがって、後に争われることを想定しつつ普通解雇をする必要がありますが、その際には単に問題社員の勤務態度そのものだけではなく、その不良な勤務態度によりいかに会社の業務遂行に支障が生じているかを整理して、本当に普通解雇をしても大丈夫かを検討しましょう。

改善や是正の余地があるかがポイント

上の2つの裁判例をまとめたとも言える裁判例が次の東京高裁の裁判例です。
常に注意・警告をしなければならないかというと、そうではなさそうです。

解雇は,使用者による雇用契約の一方的解約であって,労働者に大きな人的,経済的不利益を与えるものであるから,客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合は,解雇権を濫用したものとして無効とされる(労働契約法16条)。

そして,解雇事由の客観的合理性は,解雇事由の程度やその反復継続性のほか,当該労働者に改善や是正の余地があるか,雇用契約の継続が困難か否か等について,過去の義務違反行為の態様や,これに対する労働者自身の対応等を総合的に勘案し,客観的な見地からこれを判断すべきであり(争点1),

解雇の社会的相当性は,客観的に合理的な解雇事由があることを前提として,本人の情状や使用者側の対応等に照らして解雇が過酷に失するか否かという見地からこれを判断すべきである(争点2)。

東京高裁平成29年10月18日判決(控訴審)

この裁判例を見てみると分かることがあります。
それは、普通解雇の有効性の判断は二段階でなされるということです。
一段目は、客観的に合理的な解雇事由があること、
二段目は、その解雇事由に比した社会的相当性があること、になります。

この一段目と二段目は検討順序でもありますし、相関関係もあります。
つまり一段目の解雇事由として労働契約を継続することができないほどに重大であればあるほど、二段目の社会的相当性は緩やかに判断されます。
それとは逆に、一段目の重大性がそれほど大きくなければ、二段目は厳しく判断されるでしょう。

さらに具体的に言い換えますと、一段目で問題社員に改善や是正の余地がないと判断されれば最終手段としての解雇を選択せざるを得ないので、注意・警告を繰り返ししてなくても二段目で社会的相当性があると判断されやすくなります。
逆もまたしかりですね。

この裁判例における社会的相当性の認定は次のとおりです。

 入職後の早い段階から言動に対する注意,指導が繰り返されてきたにもかかわらず,2年4か月にわたって改善がみられなかったこと,教師という職種上,学校内で事務職等に配転して雇用を継続することは現実的ではないこと等に鑑みれば,学校が,この教師の個々の問題行動に対し何らかの懲戒処分を行ったことはないことを勘案しても,解雇が過酷に失するとはいえず,本件解雇には社会的相当性があると認められる。

東京高裁平成29年10月18日判決(控訴審)

2年4ヶ月もよく辛抱したと思います。
実際にはそこまで長期に渡り我慢しなくても良いでしょう。
相当辛抱強く注意・指導を繰り返したことが伺えます。
これだけ注意・指導をしていれば「もはや改善や是正の余地はない。」と裁判所が認定するということです。

多くの場合は改善や是正の余地がないと裁判所は見ない

残念ながら多くの裁判官は労使紛争における労働者について性善説に立ちます。
注意・指導をしていない場合に改善や是正の余地がないと言い切ってくれる裁判官は多くありません。
もちろん、結果論で「改善や是正の余地はない。」とされれば解雇が有効となりやすいので、そのときはその判断を歓迎すれば良いのですが、ワーストケースを想定しておいて備えなければなりません。

したがって、普通解雇をする場合には、問題社員に対して注意・警告又は指導をし、嫌なくらい改善や是正の機会を与えてください。
その過程で、軽めの処分である戒告処分をするのも一つです。
それらをしたことについては書面で証拠にしておきましょう。

それで万が一改心してくれればそれはそれで会社にとってプラスですし、もし改心しなければそのときには最終手段として普通解雇をすれば良いです。

会社が覚えておくべきこと

・いきなり普通解雇をすることは止めておく。
・普通解雇の前には問題社員に対して嫌なくらい改善や是正の機会を与える。

・その改善や是正の機会を与えたことは書面で証拠として残しておく。

弁護士 芦原修一