結論

解雇無効とされました。

整理解雇の有効要件(要素)

整理解雇の要件については、そもそも独立別個の要件かそれとも要素かについて争いがあり、また会社と労働者の主張立証責任がどちらにあるかについても争いがあります。
この裁判例では、会社が主張立証する1)人員削減の必要性、2)解雇回避努力義務、3)人員選定の合理性、を総合的に考慮し、4)手続きの相当性については労働者に主張立証責任を負わせました。
つまり、会社は3要素を主張立証すれば良く、手続きの相当性については労働者が反論として主張立証するべきとしています。

「被告において人員を削減する必要があったのか、被告の解雇回避努力の有無、人選の合理性諸要素を総合して判断するのが相当である。」

解雇された従業員の特殊事情

「原告は月額三九万円余の賃金を得ている従業員てあるところ、原告の行っている業務は出荷伝票等の作成が主であり、英語力、PC能力の不足、会社への貢献度等を考えると、経営者である被告においてこの際原告を解雇しようとする意図にはそれなりの合理性がないわけではない。しかし、原告は前記(3)イ(ア)で認定したとおり入社時には英語力、PC能力を持っていることは要件とされていなかったのであり、入社以来二〇年間以上問題もなく被告に勤務していたものであり、このような従業員を解雇するためには、真に、人員削減の必要性があり、解雇回避努力も尽くした上での解雇でなければ、解雇は有効とはなり得ない。」

整理解雇の有効性を検討するときにはいきなり「人員削減の必要性」の検討から入るものですが、本件ではこうした従業員の要保護性が高いことをあえて指摘して、「人員削減の必要性」と「解雇回避努力義務」のハードルを上げています。
著名な裁判例であるグリン製菓事件でも似た配慮が従業員に対してされています(「清算手続きにおける解雇 – 裁判例⑥(グリン製菓事件 – 1998年)」)。

人員削減の必要性はなかった

「被告は人員削減の必要性を主張するが、前記認定事実によれば、
(1)被告の平成一三年五月から現在に至るまで売り上げは横ばいか、若干微増の状況が続いており、平成一三年度の当期未処分利益剰余金は六億一〇〇〇万円もあり、これは同年度の給与手当一億七〇二三万円の約三年半分に相当する額であること、また、同一四年度上半期の未処分利益剰余金も依然として五億五〇二〇万円を計上していること(前記(3)エ(ア))、

(2)被告の従業員の推移をみると、本件解雇前月までの従業員数はAインクが発表した平成一二年末の従業員数を二三%削減するという目標を達成した数字であること、また、被告において、平成一三年末の正社員数を五名削減する必要があったというのであれば、本件解雇前月まてに五名退職しており原告を解雇しなくても既に目標を達成していること(前記(3)カ(イ))、

(3)被告の従業員のうちカスタマーサポート業務に従事している者は、平成一三年五月一日時点で、正規従業員が原告を含めると六名、有期契約社員二名、派遣社員一名の合計九名であるところ、本件解雇後の平成一四年七月時点でも、正規従業員二名、有期契約社員二名、派遣社員五名の合計九名と総数はまったく同じであること(前記(3)カ(ウ))などが認められ、

そうだとすると、就業規則第四六条(6)にいうところの「会社業務の都合により剰員を生じたとき」、換言すれば人員を削減する必要があったか否かは疑問であり、未だこの点の立証がされているとはいえない。」

(1)を見ると、売上自体は減っておらず利益剰余金も潤沢にあるようです。
(2)を見ると、人員削減目標も既に達成されています。
(3)を見ると、当該従業員の従事する業務と同じ業務に従事する者の人数はこの1年間で変わらず減っていません。

そうすると人員削減の必要性はとても認められないということになります。

解雇回避努力もなかった

「被告は過去における解雇回避努力を主張するが、これをもって、本件解雇の際の解雇回避努力の事実ということはできず、前記(4)イで認定した事実によれば、被告は、本件解雇に際しては、何らの解雇回避努力を尽くしていないといえる。」

あっさりとですが解雇回避努力はなかったとされました。

人員選定の合理性は検討されなかった

人員選定の合理性は検討されませんでしたが、これは人員削減の必要性と解雇回避努力が余りにも不足しているので、検討するまでもなく解雇無効と判断されたからでしょう。

結論 – 解雇は無効

整理解雇は無効とされました。

最後に

整理解雇の要件は、4要件か4要素か、3要件か3要素か、というところについては争いがありますが、この裁判例も含めて多くの類似裁判例を検討した結果、私は3要素だと考えています。

このあたりは専門的な話になりますし重要なのはいかなる事実かですので、一般の方々は深入りするところでもないでしょう。
私なりにもう少し述べますと、その3要素のうちもっとも重要視されるのは人員削減の必要性です。
ここの必要性が高ければ他の要素は低くても何とか解雇は有効になりますが、ここの必要性が低ければほぼ救いようがありません。

経営悪化に伴う内定取消しの場合でも同じで、人員削減の必要性がどれだけ高いかを可能な限りアピールしなければならないのです。

弁護士 芦原修一