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経営不振でリストラをして立て直しを図ろうとしている会社にとって、この記事は有益です。
どういう事情があれば整理解雇が有効と認められるかが良く分かります。
この記事は力作ですがそれだけにボリュームがありますので、サーッと斜め読みで必要な部分をしっかり読むというのが良いかもしれません。
インターネット上で整理解雇を説明しているサイトの中ではベスト3に入るページです。
もちろん、整理解雇のことを完璧に理解したいとお考えであれば、すべてしっかりとお読みください。
整理解雇とは
実は整理解雇という言葉は法律に書かれておらず、裁判例の積み重ねにより作り上げられたものです。
整理解雇とは次のとおりです。
・使用者が経営不振に陥ったので
・従業員数を削減する必要に迫られ
・一定数の労働者を余剰人員として解雇すること
これを裏から見ると、能力不足や勤務態度不良など従業員に落ち度がある場合の普通解雇とは異なる、従業員に落ち度はない場合の解雇であるとも言えます。
従業員には落ち度がありませんのでそれを踏まえた要件を満たすことが必要です。
一般的な用語としては「リストラ」とも言いますね。
整理解雇の4要件(要素)とは
多くの裁判例の積み重ねと最高裁判例により次の4つがポイントとなることについては異論がありません。
つまりこれが整理解雇の解雇条件です。
- 人員削減の必要性
- 解雇回避努力義務
- 人員選定の合理性
- 手続の相当性
この4要件(要素)について、次のとおりに①人員削減の必要性を軸として相関的に②③④について検討して総合判断すると明言している裁判例があります。
そして、最近の裁判例ではこれに沿って、①人員削減の必要性が高ければ②③④は緩く判断され、逆に①が低ければ②③④は厳しく判断されます。
整理解雇が有効であるために必要とされる①人員削減の必要性,②解雇回避努力,③人選の合理性,④手続の相当性は,整理解雇について解雇権濫用法理の適否を総合判断するための評価根拠事実と評価障害事実とを類型化した要素と解すべきであり,①の人員削減の必要性の程度に応じ,当該企業の目的,従業員の数・構成,資産・負債,売上規模,組合の有無等の諸事情に照らして,②から④の各要素の充足の有無及び程度を検討し,当該整理解雇の効力について判断すべきであると解する。
東京地裁平成24年12月13日判決
4要素の具体的説明
以上のとおり4要素のうち、①人員削減の必要性がもっとも重要です。
次に重要なのが④手続の相当性です。
多くの裁判例を見ていると②解雇回避努力義務、と③人員選定の合理性が勝敗の分かれ目になったものは皆無に近いです。
- 人員削減の必要性
- 解雇回避努力義務
- 人員選定の合理性
- 手続の相当性
① 人員削減の必要性
この人員削減の必要性が4要素の1つである限り、「人員削減の必要性とは何か」と定義付けなくても「必要性が高い」、「必要性が低い」と評価すればそれで足ります。
ただし、4要素の1つとして他の要素と相関関係にありますので、必要性が低ければ他の要素について高度の充足性が要求される、つまりハードルが上がります。
もう少し説明いたしますと、明日にも倒産するほど人員削減の必要性が究極的に高まれば、②解雇回避を検討している場合ではなく、③かなりの数の従業員を解雇しなければならず、④手続きも簡素化しなければ倒産を免れません。
つまり、分かりやすく並列的に4要素としていますが、①人員削減の必要性は鍵となる要素であり、もっとも重要な要素なのです。
特に経営が悪化していなくてもスリム化のために人件費を削減するという目標を立てた時点でも、「人員削減の必要性」が生じます。
しかし、このような攻撃的又は戦略的な雇用調整(リストラ)については、仮に「人員削減の必要性」が認められたとしてもそれは低い必要性ではあります。
もっとも、下の肯定例の初めに挙げる裁判例では出向の解消をきっかけとする経営政策上の人員削減の必要性を認めたうえで整理解雇を有効としていますので、必ずしも経営悪化を理由としなければ人員削減の必要性が認められないわけではありません。
つまり、倒産回避型の整理解雇だけが有効とされるわけではなく、危険予防型、さらには攻撃的又は戦略的な整理解雇であっても有効とされる余地があります。
否定例
東京地裁平成15年8月27日判決
売上が年々下がっていてこそ、将来的に経営危機に陥ることを示せるのですが、この裁判例での会社の売上は横ばいか微増でした。
これで人件費を削減する必要性は相当低いです。
次に、以前に掲げた人員削減目標も達成してしまっており、これ以上の人員削減が必要とは言いにくいです。
そして、この会社は4名を整理解雇したのですが、その後に派遣社員を4名補充していて、当該部署の総数は変わらないままでした。
そうすると、そもそも整理解雇した4名の人員は必要であったといえます。
以上により、人員削減の必要性が否定されました。
詳しくは、「東京の半導体輸入販売会社における整理解雇 – 裁判例⑱(東京地裁平成15年8月27日判決)」をお読みください。
大阪地裁平成29年9月21日判決
この裁判例での会社の営業利益は黒字続きでした。
次に、会社は整理解雇した従業員をほとんど休みなく働かせていて、人員削減の必要性どころか働かせる必要性が高かったと言えるほどでした。
そして、これらの事情を覆せるほどの事情がなかったことから、人員削減の必要性が否定されました。
詳しくは、「大阪の水道管配管工事会社の整理解雇 – 裁判例⑰(大阪地裁平成29年9月21日判決)」をお読みください。
東京地裁平成31年3月8日判決
この裁判例は判決だけ読んでもピンと来ないものでした。
数年間赤字が続いていて、つまり営業損失が計上され続けていたのですが、「それだけでは人員削減の必要性は認められない」と裁判官に一刀両断されたのです。
この裁判例にケチを付けることは簡単ですが、それでは後のためにはなりませんのであえて考えますと、営業損失が計上され続けていると主張するだけではダメだということを肝に銘じます。
裁判では従業員側が「…具体的な経営危機の状況や人員削減の合理性について主張立証しない。被告は,人員削減の必要性を主張しながら,ホームページ上で新規採用の募集をしている…」と主張していて、ここがポイントだったと推察します。
つまり、営業損失が続いたという事実だけではなく、営業損失が続いているからこのままだと今後も続く可能性が高く、人件費が販管費の~%を占めていてこれにメスをいれなければならない、ということを丁寧に主張しなければならなかったのでしょう。
詳しくは、「東京のソフト・ハード製造販売会社の整理解雇 – 裁判例⑯(東京地裁平成31年3月8日判決)」をお読みください。
横浜地裁平成23年1月25日判決
この裁判例の会社においては、売上と売上総利益がが減少しています。
そして関連会社が事業を廃止したことも人員削減の必要性を基礎付けました。
しかし、平成20年度決算のみが赤字であり、本件解雇以後にも求人を出し、さらには退職者を復職させていました。
そして、会社が主張する貸倒金22億円以上について貸借対照表と損益計算書が提出されておらず、真実とは認められませんでした。
以上により、会社には切迫した人員削減の必要性があったとは認められませんでした。
人員削減が必要としながら解雇後に求人を出していれば人員削減の必要性は低いと評価されても仕方がありません。
詳しくは、「神奈川県の人材派遣会社の整理解雇 – 裁判例⑭(横浜地裁平成23年1月25日判決)」をお読みください。
肯定例
東京地裁平成30年10月31日判決
この裁判例には大変興味深い点が2点あります。
経営悪化による人員削減の必要性ではなかった
一言で言うと、経営政策上の必要性により人員削減の必要性が生じました。
元々、この裁判例の従業員は子会社の社員であって、MR(製薬会社における営業担当)として親会社に出向していたところ、子会社においてMR部門がなくなりました。
そして出向が解消されたところ、子会社においてこの従業員がMRとして就くべき業務がありませんでした。
このような状況下ではMRに対してその保有する資格やキャリアに見合った役職や業務を提供することは困難であり、これらの余剰人員を削減する合理的必要性があったとされたのです。
財務状況の悪化による人員削減ではないので解雇回避努力義務についてハードルが上がった
整理解雇の有効性は4要素により判断され、それは人員削減の必要性を鍵として相関的に判断すると申し上げてきました。
この裁判例でも人員削減の必要性は認めるものの通常よりは低いから、それなりの解雇回避努力を尽くさなければ整理解雇を有効と認めない、としました。
もっとも、この裁判例では解雇回避努力も認められ、整理解雇は有効であるとされました。
以上の検討によれば,本件解雇につき人員を削減する必要性は認められる。もっとも,上記のとおり,本件解雇が被告の財務状況が悪化によるものではなく、経営政策上の必要性によるものであることに鑑みると,本件解雇につき客観的に合理的な理由があるというためには,それ相応の解雇回避努力が尽くされる必要があるというべきである。
東京地裁平成30年10月31日判決
大阪地裁平成28年2月4日判決
この裁判例の会社は、売上が1000万円未満で販管費が1500万円以上であり、営業損失が500万円以上でした。
繰越損失は2400万円に達していて、資産は現預金100万円程度しかありません。
そうすると1年以内に経営破綻することが必至の状況です。
これにより裁判所は、人員削減の高度の必要性を認めました。
東京地裁平成24年12月13日判決
この裁判例の会社の売上高は、直前期にはその前年度の30%に落ち込みました。
売上高から売上原価を差し引いた売上総利益は、直前期には前年度から半減しました。
売上総利益から販管費を差し引いた営業利益及び経常利益は5年連続赤字でした。
このように損益計算書(PL)を見ると先行きに希望が持てない数字です。
また、負債は直前期には1億7000万円以上に膨れ上がっています。
この状況は今にも経営破綻してもおかしくないほどであって、裁判所は人員削減の高度な必要性を認めました。
まとめ(人員削減の必要性)
- 黒字が続いていては話にならない。
- 赤字が続いているというだけでは認められない。
- 当然だが決算書など根拠を示さなければ認められない。
- 今にも経営破綻するほどなら問題なく認められる。
- 経営悪化でなくてもある程度やむを得ない経営政策上の必要性でも認められる。
裁判(訴訟・労働審判)で争いになったときに提出するべき証拠
- 複数年度の決算書
- 損益計算書及びその内訳書(売上高、売上総利益、営業利益、経常利益)
- 役員給与等の内訳書
- 貸借対照表
- 預貯金等の内訳書
- 株主資本等変動計算書(株主配当)
- 法人事業概況説明書(従業員数)
- 雇用調整の計画書
- 業務改善計画
- 他社との業務提携計画
- 希望退職者制度
決算書が代表的な証拠になります。
裁判所への見せ方ですが、損益計算書の中の売上と営業利益(損失)の推移を示して、これ以上続けても黒字回復する見込みがないことを示します。
また、例えば新型コロナウイルスの影響についてですが、2020年に入ってからの売上等の落ち込みは決算書には反映されていませんので、月次決算書を示すことになります。
急激な売上の落ち込みと売掛金の不良債権化など経営に打撃を与えたことを示す数字を見せ、前年比を示します。
これにより、前年度以前の損益計算書における営業損失のカーブがより角度を付けて落ちていくことが予測されると主張します。
なお、経営政策上の必要性により整理解雇をする場合には赤字続きという事実は決定的な要素ではなく、合理的な雇用調整計画を示すことになります。
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