結論

解雇無効とされました。

本事例の整理解雇の要件

1)人員削減の必要性、2)人選の合理性、3)解雇回避努力、4)解雇手続の相当性、の4要件です。
通常は2)と3)は逆ですが、本件ではこのような順序で検討されています。

裁判所の検討

1)人員削減の必要性はなかった

「被告は,赤字であり,経営の合理化のため人員削減の必要があると主張し,認定事実によれば平成25年以降赤字が続いていており,経営の合理化をする必要があったことや被告代表者の報酬の減額をして,人件費の削減をしたことが認められる。しかしながら,それらの事実のみでは,人員削減の必要性が高いとは認めがたい。」

この判断は理解できません。
5年ほど営業損失が続いていていることだけでは人員削減の必要性がなかったとされると、何をもって証明すれば良いかが分かりません。
あくまでもこの事例限りの判断だと思いたいです。

2)人選の合理性はあった

「人選の合理性についてみるに,認定事実に記載された被告の社員構成からすれば,被告の派遣社員ではない従業員は原告のみであり,解雇の対象は原告しかいないため,人選の合理性は一応あるといえる。」

ここで注目するべきは、「社員構成」による区別です。
整理解雇の対象を選定する場合には、全従業員を等しく扱わなくても合理性が認められるということです。
例えば、内定者と既存社員とを区別して、内定取消しだけをするとしても人員選定の合理性が認められるということです。

3)解雇回避努力をしていない

「被告が原告の解雇を回避するための努力をしたという点については,被告従業員の配置先は営業職のみであることから,原告の配置転換の可能性は乏しく,その検討をしていないとしてもやむを得ない。しかしながら,被告は,原告に対して割増退職金の支払や再就職支援の実施等をしてはいないことを踏まえると,被告が解雇回避のための努力を尽くしたということはできない。」

個人的には経済的手当ての支給と再就職のあっせんは、手続きの相当性で判断するべきだと考えています。
なぜなら、それらをしたところで解雇を回避できないからです。

解雇手続の相当性

「解雇手続の相当性についてみるに,被告は,給与の見直しや雇用契約から業務委託契約への変更を原告に断られた後,人員削減の必要性や解雇回避義務を尽くしたことの十分な説明をすることなく,原告を即日解雇しており,原告と解雇について協議をしたということはできない。」

十分な説明をしていないということで誠実でなかったと見られたのでしょう。
また即日解雇というのはマズイです。

この裁判例の結論

以上により、この解雇は無効とされました。

重要な事実

解雇の対象者を選定する際に社員構成の区別により選別しても合理性が認められる

即日解雇は手続き上マイナスと評価される

他の多くの裁判例も、1ヶ月又は2ヶ月の猶予を設けて解雇通知を出していることを手続き上プラスに評価しています。

内定取消しへの応用

この裁判は既存社員の解雇ですので内定者と同じには考えらえません。
もっとも、社員構成の区別により整理解雇の対象者を選定しても人員選定の合理性が認められるという点は参考になります。
つまり、内定者は、どの既存社員と比べても要保護性が弱く、経営が悪化した場合の内定取消しが既存社員の整理解雇より認められやすいといことだからです。

おわりに

5年も営業損失が続いているのに「人員削減の必要性」が認められなかったというのは相当な特殊な事情があったか、代理人弁護士の主張があまり上手くなかったか、裁判官の判断がおかしいか、のいずれかです。
裁判官の判断がおかしければ訴訟ではどうすることもできませんが、私なら最低限「人員削減の必要性」が認められるよう手を尽くしたと思います。

弁護士 芦原修一