結論
解雇無効とされました。
本事例の整理解雇の要件
「本件解雇は、いわゆる整理解雇に該当するところ、整理解雇は、労働者の私傷病や非違行為など労働者の責めに帰すべき事由による解雇ではなく、使用者の経営上の理由による解雇であって、その有効性については、厳格に判断するのが相当である。そして、整理解雇の有効性の判断に当たっては、人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性及び手続の相当性という四要素を考慮するのが相当であり、以下このような観点から本件解雇の有効性について検討する。」
本件でも一般的な整理解雇におけて検討される4要素が挙げられています。
4要素であり4要件ではありません。
それぞれの要件は要素的に検討されるのであり、別個独立の要件として判断されるわけではないのです。
もっと言いますと、人員削減の必要性が高ければ他の要件のハードルは低くなります。
裁判所の検討
1)人員削減の必要性はなかった
「前記第三・一(2)ア及びウの認定事実によれば、平成二〇年度における被告の売上げ及び売上総利益がいずれも平成一九年度より減少していたこと、平成二一年三月末までに派遣契約解消のため待機社員となる技術社員が四九四名、同年四月の待機社員が四二〇名(待機率一七・一パーセント)に上っていたことが、それぞれ認められ、こうした待機社員の増加が、派遣事業を目的とする被告の経営に影響を及ぼすことは否定できない。また、第三・一(3)のとおり、ラディアグループの中核会社であった株式会社グッドウィルが、平成二〇年一月一一日に労働者派遣事業停止命令等を受けたことを経て同年七月三一日に労働者派遣事業を廃止するに至ったこと及びラディアホールディングスの業績悪化は、グループ会社である被告の信用力等に一定の影響を与えたと推認される。
しかしながら、第三・一(2)アのとおり、被告は、平成二〇年五月度に経常利益が赤字に陥った以外、本件整理解雇以前の少なくとも過去数年間は一貫して黒字であり、本件整理解雇にあたって被告における人員削減の目標を定めていたか否かも明らかでない。また、第三・一(2)イ(エ)のとおり、被告は、本件解雇予告通知日から約一〇か月後の平成二二年一月からは求人を行うとともに、退職者に声をかけて復職させている。そして、被告は、平成二〇年度決算(同年七月から平成二一年六月まで)で二二億円を超える貸倒引当金を計上したと主張するが、原告が提出を求めている貸借対照表及び損益計算書等の客観的な経営資料を提出しておらず、貸倒引当金について、その裏付けとなる経営資料等が提出されないため、かかる事実を認めることはできない。加えて、第三・一(2)エのとおり、被告は平成二〇年四月ころまでにラディアホールディングスに対して二〇億六五〇〇万円を貸し付け、平成二一年一一月三〇日にはその貸付金及び未払利息二三四一万二二七五円の合計金二〇億八八四一万二二七五円もの債権放棄をする一方で、前記貸付金と相殺することもなく、平成二〇年初頭から指導料として毎月約五〇〇〇万円もの支払を続けていたのであって、この点も、被告における人員削減の必要性を考えるに当たって消極的に判断すべき要素というべきである。
そして、これらの事情を総合すれば、被告の経営状態は好ましくない方向に推移していたものと認められるものの、本件整理解雇にあたり、その時点で、被告に切迫した人員削減の必要性があったとまでは認めるに足りない。」
まず人員削減の必要性を認める方向の事実として売上と売上総利益がが減少しています。
そして関連会社の事業廃止等によりグループ会社全体として信用力が下がったことも指摘しています。
しかし、平成20年度決算のみが赤字で、その他は黒字であったこと。
本件解雇以後にも求人を出していたこと。
さらには退職者を復職させていたこと。
会社が主張する貸倒金22億円以上について貸借対照表と損益計算書が提出されていないこと。
別会社に20億円以上も貸し付けておきながら債権放棄し、それと相殺することなく指導料名目で毎月5000万円の支払いを続けていたこと。
以上により、会社には切迫した人員削減の必要性があったとは認められませんでした。
ここで注目するのは、当たり前ですが人員削減の必要性があるというためには、近年の決算書の開示が必要だということです。
貸倒金があれば内訳書にその記載があるはずですが、おそらく記載していなかったのでしょう。
人員削減の必要性がないとなればもはや他の要件を検討するまでもなく解雇は無効です。
解雇回避努力義務もなかった
「前記第三・一(2)イのとおり、被告は、リバイバルプラン若しくは追加措置に基づき、平成二〇年七月以降、支店・本社の部署を統廃合等して賃料及び人件費を削減したこと、役員報酬及び間接社員の給与の減額をしたこと、平成二一年入社予定の新卒採用人数を抑制し平成二二年入社予定の新卒採用は中止したこと、間接社員を対象として希望退職者の募集を実施して合計一二一名が退職したこと、待機期間四五日ないし一二〇日以上の技術社員に対して退職勧奨を行って合計三九三名が退職したこと、待機社員四名をラディアグループ内の他社ヘ転籍させたこと、一部の待機社員の一時帰休を実施したことが、それぞれ認められ、解雇を回避するために、一定の措置を講じたといえる。
しかし、先に判示したとおり、被告が本件整理解雇当時に人員削減の目標を定めていたかも明らかではなく、また、第三・一(3)及び(4)記載のとおり、被告は、技術社員に対する希望退職者の募集を一切行わないまま、平成二一年三月末時点の待機社員の人数が四九四名に上るとの予測を受けて、直ちに原告を含めた待機社員三五一名にも及ぶ本件整理解雇を実施することを決定し、その解雇通知を行っている。こうした事情によれば、人員削減の手段として整理解雇を行うことを回避するため、希望退職の募集など他の手段により本件整理解雇を回避する努力を十分に尽くしたとは認められない。」
それなりに解雇回避努力をしたことは認められています。
しかし、恐らくですが、人員削減の必要性が認められない以上、解雇回避努力が認められるはずがなく、否定のための当てはめをしています。
繰り返しになりますが人員削減の必要性が認められなければそれで解雇は無効です。
人選の合理性
裁判例では事細かに認定していますが意味がありません。
なぜなら人員削減の必要性が認められない以上、検討しても無意味だからです。
手続の相当性
この要件の検討も無意味です。
この裁判例の結論
以上により、この解雇は無効とされました。
内定取消しへの応用
この裁判は既存社員の解雇ですので内定者と同じには考えらえません。
しかし、この裁判から学べるのは、経営悪化を理由として労働契約を破棄するには、人員削減の必要性が認められなければ話にならないということです。
整理解雇事例は2パターンあり、余裕はなくはないけど経営的観点から人件費を削減しようというのと、このままだと経営破綻するというのがあります。
本件は前者のパターンの中でも全然余裕があるとされた事案であり、整理解雇するにも話にならない状況といえます。
翻って内定取消しに関して考えても、この程度で内定取消しをしてもおそらく内定取消し無効とされるでしょう。
内定取消しをしている会社にとっても参考になる事案です。
弁護士 芦原修一