この事例は会社の解散が偽装解散かが争われたものです。
解散に伴う解雇の要件は、1)事業廃止の必要性、2)手続の相当性ですが、偽装解散ということは事業廃止の必要性がないとされたということです。
結論
解雇は無効とされました。
事案の概要
この事例は大阪の小さな町工場が舞台です。
従業員は5人ほどであり、今回解雇された従業員Xもその1人です。
社長のYを中心として段ボールの裁断機の部品製造を行っていました。
他に従業員Aがいましたが、従業員Xと折り合いが悪く、社長Yに対して自分を取るかXを取るかどちらがを選ぶよう迫りました。
困った社長YはAを取ることし、社長YとX以外の従業員はAが借りた別の工場に会社の設備を持ち出してA精機工業所として新たに製造業を始めたのです。
そして、その後に社長YはXとAを含む従業員全員に対して会社を廃業することを伝えました。
ところが、A精機工業所の取引先は会社の創業以来の取引先そのままでした。
裁判所が示した論理
「認定事実からXが債務者廃業を決めた理由として、AがXとは一緒に働けないという以外には見当たらない。
債務者とA精機工業所の実態を比較しても、従業員としてX及び小林が抜けて、新人が入っただけでほとんど変わりがなく、特に会社の営業及び会計事務という重要な仕事は、Yと同人の妻がしており、主要な受注先、仕入先も債務者から南精機工業所がそのまま引き継いでいる。
乙三の陳述書では、AとXの仲が決定的に悪くなり、Aに辞められては他にAの仕事が出来る人はいないし、新規採用も困難であるから会社が続けられないので廃業を決意した旨の記載があるが、Aは、債務者従業員の時にはボール盤を扱っていたが、A精機工業所では債権者のしていた汎用フライス盤を扱い、新人が南の扱っていたボール盤を扱っている。
債務者がAに主要な製造機械をすべて貸していると主張するが契約書もなく、あいまいなところが多く真実賃貸借があったか疑わしい。」
債務者は会社のことです。
通常は、廃業するというときには経営の悪化など事業廃止の必要があるのですが、本件ではAとXの不仲だけが原因とされました。
このような個人関係の不仲だけが理由ですと、事業廃止の必要性がないと言っても過言ではありません。
次に会社とA精機工業所を比べると、実態としては同一体とみて良いでしょう。
また、Aの代わりはおらず辞めると言い出したため廃業したという会社の主張についても、A精機工業所においてこれまで会社でAがしていた作業を新人がしていることから、Aは誰でも代わりが務まる作業しかしていなかったと断じています。
「以上総合すると、Yは、AとXの仲が悪く、Aから自分を取るか、Xを取るか迫られた結果、Aを取ってXを追い出すために、廃業の名で債権者との雇用関係を否定しているに過ぎず、かような目的の企業廃止は著しく不正義な無効なもので、右企業廃止に伴う債務者の債権者に対する解雇の意思表示は解雇権濫用にあたり無効であるといわざるを得ない。」
以上により会社の解散は偽装解散と認定されました。
清算手続きにおける解散に伴う解雇の場合と異なり、今回は偽装解散を認定してそれだけで解雇無効としました。
それは当然で、本来解散に伴う解雇の場合には、1)事業廃止の必要性、2)手続の相当性が要件ですが、そもそも偽装解散であれば1)事業廃止の必要性はまったくないからです。
この裁判例の結論
以上により、この解雇は無効とされました。
内定取消しへの応用
この裁判は既存社員の解雇ですので内定者と同じには考えらえませんし、内定取消しをするために偽装解散をする会社が多いとは思えませんが、万が一ですが偽装的に会社を解散させて内定取消しをしようと考えているならそれは止めなければなりません。
このように解雇無効とされて却って多額の慰謝料を支払う羽目になります。
もちろん、コロナウイルスの影響で経営が悪化している場合には、事情に応じて解散するのは経営者の自由ですし、解散しなくても経営悪化を理由として内定取消しをすることも検討されるべきです。
おわりに
万が一にもいま偽装的な解散をして解雇、内定取消しをしようとして清算手続きを進めてしまっていれば、今からでも遅くないのでそれを一旦止めて私までご相談ください。
弁護士 芦原修一