オリジナルの記事について音声での説明をしています。

追記分

この記事を書いてからも状況は変化し続けていますので都度追記をしています。

令和3年1月25日の時点(追記)

東京都を初め複数の都道府県で緊急事態宣言が発令されました。
東京都については2度目となります。
期間は、令和3年1月8日から2月7日と設定されていますが、状況に応じて延長もあり得ます。

私は東京都を拠点としていますので東京都について見てみますと次のとおりとなっています。これは1月24日までのデータで日毎のものですが本日1月25日(月)の感染者数は618人と減少しています。

東京都新型コロナウイルス感染者数20210125
https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/

新型コロナウイルス感染症についてはまったくの素人ではありますが、この棒グラフの推移を見ているとこのまま感染者数は減少していきそうです。
2度目の緊急事態宣言で緊張感が高まらず効果が疑問視されていましたが、一応の効果があったようですね。

これは私自身の感覚なのですが、感染者数が完全に収まっておらず緊急事態宣言が解除されていない中で会食をしたり遊びに出掛けたりして新型コロナウイルスに感染すると、家族や仕事関係者への言い訳が立たないと思っています。
例えば仲の良い友人と遊びに出掛けて2人とも感染したら、その後2人とも無事に回復したとしてもその友人家族からの信頼を失って今後遊び辛くなるというところまで考えています。

こうした感覚は、会社の従業員に対する安全配慮義務とは方向性が異なるのですが、ある程度参考になるのかなとも思っています。
政府の言うこと(緊急事態宣言)に従うかはそれが罰せられるかも含めて個人の自由ではありますが、客観的に見て感染を拡大させるような行動は責められても仕方がありません。

ワクチン接種と安全配慮義務

いま製薬工場では唸りを挙げて新型コロナウイルスのワクチンが生産されています。
相当数が生産されているようですが、医療従事者、高齢者、基礎疾患を持つ者、高齢者施設従事者が優先されるようですのでそれ以外の我々のような20代から50代の者に行き渡るのは今秋以降でしょう。

どういう流れでワクチンを接種することになるか未定ですが、おそらく行政ベースで通知がされある程度の期間が定められて接種することになるのでしょう。

詳細は、「新型コロナワクチンの接種についてのお知らせ」(厚生労働省)をご確認ください。

ワクチン接種を希望する従業員について

ワクチン接種を希望する場合、半休を取るなどして病院等に行くことになります。
会社の立場からは、可能な限り従業員の希望日に休ませてあげましょう。
もちろんどうしても外せない案件があるなら他の日に行ってもらうことになりますが、例えば9月10日の接種を希望して会社が9月25日に行くよう指定した場合に9月20日に新型コロナウイルスに感染したら、その従業員は会社に不信感を抱くことになるでしょう。
これだけで直ちに安全配慮義務違反とはなりませんが、ひと揉めする可能性はあります。
逆にこのことからすると接種日を前倒しさせることについては問題が生じないと言えます。

ワクチン接種のスケジュールはギリギリなものとなることが予測できます。
一般的には皆できるだけ早く打ちたいでしょうし、もしスケジュールを変更するとなれば数ヶ月先になってしまう可能性もあります。
この場合は相当期間接種が遅くなりますので、ワクチン接種前に新型コロナウイルスに感染したら会社の安全配慮義務違反が問われる可能性が生じます。
この場合の安全配慮義務違反の基準は、スケジュール変更の必要性次第で変わります。

ワクチン接種を拒否する従業員について

ワクチンというのは異物をあえて身体に入れることから拒否する者も一定数存在します。
従業員の中にもそうしてワクチン接種を拒否する者もいるかもしれません。

この場合、会社の安全配慮義務との関係で言いますと、そのワクチン接種を拒否する者以外の者たちへの安全配慮義務が問題となります。
会社内にワクチンを接種しない者がいると感染リスクが上がり、せっかくワクチンを接種したのに新型コロナウイルスに感染したとすると、会社の安全配慮義務を問う声も上がるでしょう。

では会社として従業員全体への安全配慮義務に基づきワクチン接種を命じることができるか。
残念ながらそのような命令を発することはできません。
ワクチン接種はメリットが大きくはありますが副作用がないわけではありません。
いわゆるアナフィラキシーショックが起こり死亡する可能性もあります。
例えばファイザー社のワクチンはRNAタイプですがそれでも10万分の1の確率でアナフィラキシーショックが生じるとされています。
このようにワクチン接種により死亡する可能性がある以上、会社が従業員に対して接種せよと命令を発することはできないのです。

もしかすると、ワクチン接種を拒否する者に対してイジメのようなことが起こるかも知れませんが、会社としてはそのようなイジメは防止するようにしなければなりません。

したがって、会社の安全配慮義務に基づき従業員に対してワクチン接種を命じることができませんので、もしワクチン接種を拒否する者がいるとしてその者から会社内で新型コロナウイルスの感染が拡大したとしてもそれだけで会社の安全配慮義務違反とされることはないということになります。

令和2年11月19日の時点(追記)

東京都における感染者数が過去最多の493人になり警戒レベル3(感染が拡大しつつあると思われる)から警戒レベル4(感染が拡大していると思われる)に引き上げることが検討されています。
警戒レベル4に上がったからといって都心のオフィスに出勤させることが直ちに安全配慮義務に反することにはなりませんが、会社の忘年会を強制したり接待をさせたりすると「警戒レベル4なのに新型コロナウイルス感染の危険が大きな行為を強制した」として安全配慮義務に反したとみられるおそれがあります。
「夜の街で感染が拡大している」と「夜の街」が強調されていてそのことは一般の社会人であれば知っているとされます。
「夜の街」とは隠語であり、キャバクラやその他女性による接待がされる店舗及び性風俗店のことですが、最広義では居酒屋での飲み会も含まれることがあります。
この「夜の街」の危険性を知っていれば少なくとも「従業員を新型コロナウイルスに感染させたこと」についての過失が認められる可能性が高いので、忘年会や接待などの強制は特に慎むべきです。

令和2年4月24日時点では…(追記)

既に緊急事態宣言が出されています。
東京都では新型インフルエンザ特措法24条に基づき営業休止の要請が出されています。
さらに同法45条2項に基づく営業休止の要請が出される可能性も高まっています。
同項に基づく営業休止の要請が出されてそれに従わないと同条3項に基づき「指示」が出される可能性があります。
その指示が出された場合には必ず公表されるので、要請・指示とはいえ強制力があるといえるでしょう。
これほどの行政指導が出されている以上、要請・指示に反して営業して従業員がコロナウイルスに感染したら、安全配慮義務違反が問われてしまう可能性があります(義務違反の確定ではありません)。
したがって、1ヶ月前よりもより従業員の安全に配慮して新型コロナウイルスに感染しないよう注意するべきです。

令和2年3月27日時点では…(追記)

東京都内にはコロナウイルスが拡がりつつあるようです。
また、本日イギリスのボリス・ジョンソン首相も陽性であることが発表され、どこか普通ではないという雰囲気になりつつあります。

このような状況ですが、会社としては従業員ができるだけコロナに感染しないよう配慮しましょう。

オリジナルの記事は次からですので是非お読みください。

会社には従業員に対する安全配慮義務がある

最高裁は次のように述べ、会社には従業員に対する安全配慮義務があるとしました。

「雇傭契約は、労働者の労務提供と使用者の報酬支払をその基本内容とする双務有償契約であるが、通常の場合、労働者は、使用者の指定した場所に配置され、使用者の供給する設備、器具等を用いて労務の提供を行うものであるから、使用者は、右の報酬支払義務にとどまらず、労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負つているものと解するのが相当である。
 もとより、使用者の右の安全配慮義務の具体的内容は、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によつて異なるべきものであることはいうまでもないが、これを本件の場合に即してみれば、上告会社は、A一人に対し昭和五三年八月一三日午前九時から二四時間の宿直勤務を命じ、宿直勤務の場所を本件社屋内、就寝場所を同社屋一階商品陳列場と指示したのであるから、宿直勤務の場所である本件社屋内に、宿直勤務中に盗賊等が容易に侵入できないような物的設備を施し、かつ、万一盗賊が侵入した場合は盗賊から加えられるかも知れない危害を免れることができるような物的施設を設けるとともに、これら物的施設等を十分に整備することが困難であるときは、宿直員を増員するとか宿直員に対する安全教育を十分に行うなどし、もつて右物的施設等と相まつて労働者たるAの生命、身体等に危険が及ばないように配慮する義務があつたものと解すべきである。」

雇用契約は、建前としては労働者と使用者は対等であるものの、労働者は使用者の指揮命令下に置かれ、指示通りの場所で使用者の供給する設備等を用いて労務を提供するものです。
そうした労働者には行動の選択権がないことを踏まえると、使用者には、労働者の生命・身体を危険から保護するよう配慮すべき義務があるとしました。
これを「安全配慮義務」と言います。

時差出勤と時差退勤

最近は時差出勤と時差退勤が話題になっています。
これには色々な目的がありますが、ここは安全配慮義務の一環として考えましょう。

これを安全配慮義務として考えるということは、労働者ができるだけコロナウイルスに感染しないように配慮するということです。
そこで、満員電車になりやすい時間帯を避けて出退勤するように指示を出すというのが良いと思います。
特に東京都心、大阪都心では効果が大きいでしょう。

具体的な運用ですが、注意すべきは労働者の同意を得ずに時短にして給与を減額しないことです。
出勤時刻を1時間遅らせて退勤時刻をいつもと同じにしてしまうとそうなってしまいます。
給与の減額は不利益変更ですので労働者の同意がない限り無効です。

一律1時間遅れ、1時間30分遅れというのも良いですが、各自に希望を聞いてそれぞれできるだけ希望通りにするというのもより配慮があるといえます。

体調不良の申告があったら

・ 風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く場合(解熱剤を飲み続けなければならないときを含みます)
・ 強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある場合

厚生労働省- 新型コロナウイルスに関するQ&Aより

これが厚生労働省が発表しているコロナウイルスに感染したときの症状です。
そうすると、会社としては体調不良の申告があれば、この症状を念頭に置いて、「風邪の症状」、「体温」、「倦怠感」、「息苦しさ」について簡単にでも聴き取りをすると良いでしょう。
医者でもなく検査ができるわけでもないので、コロナと他の疾患との切り分けはできませんが、相当程度コロナに感染している疑いがある状態で出勤を命じることは避けましょう。

令和2年5月1日追記
厚生労働大臣が答弁で「これは誤解だ」と述べたそうですが、誤解も何も厚労省のQ&Aに記載されていたのでそれはおかしいですよね。
それはともかく、その誤解というのが4日以上続くという点なのであれば、丸1日続いたらコロナウイルスに感染した疑いが濃厚であると見るのが無難ですね。

実際に従業員がコロナに感染したら…

その従業員には治療に専念してもらいましょう。
そして、コロナウイルスに感染してから何日か出勤していた場合には、周りの従業員にも感染の疑いが生じます。
それらの従業員の生命・身体に関わりますので、直ぐにそのことを知らせましょう。

特定の従業員がコロナに感染したことはその従業員のプライバシーに関わりますが、その他の従業員の生命・身体を保護する限りでそのプライバシーは解除されます。
コロナウイルスと従業員のプライバシーについては、「プライバシー – 従業員がコロナに感染したら」で詳しく説明しています。

出勤しようとする労働者を止めて出勤させなかったときの賃金

コロナに感染したか、感染していないか分からない状態で、会社が、出勤しようとする労働者を止めて出勤させなかった場合には、原則は通常の60%の賃金を支払わなければなりません。

ノーワークノーペイと言って、働かざるもの食うべかざるというのが原則ですが、コロナに感染しているかが分からない状態で会社が出勤停止を命じた場合は、労働基準法26条の「会社の責任において出勤停止をさせた場合」に当たり60%以上の賃金支払いが義務付けられているのです。

緊急事態宣言に基づき営業休止の要請が出された場合の賃金・休業手当の支給については、「緊急事態宣言での休業について、会社は賃金を支払わなければならないか」で説明しています。

実際に従業員がコロナに感染してしまったときの賃金

この場合、国か都道府県が法・条例に基づいて入院、隔離するので、会社の責任で出勤停止をさせた場合には当たらず、賃金を支払う義務は発生しません。

これは感染者予防法に基づく入院、隔離ですが、同法による強制について「感染症予防法と一般市民との関係 – 就業制限など」で説明しています。

従業員からのリモートワークの求めに応じなければならないか

この下の記事で説明しています。

従業員から新型コロナウイルス感染症その他に関連して安全配慮義務を求められるなどして、その対処方法が分からないという場合には、下記のフォームより法律相談をお申し込みください。
1時間、2時間の法律相談だけで解決することもあります。
1ヶ月単位での継続的なコンサルティングもお受けしていますのでお気軽にご相談ください。

弁護士 芦原修一