この裁判例④は既存社員の解雇の事案です。そして内定取消しにも応用できますので判決を整理して紹介します。

結論

解雇は有効とされました。

裁判例④の清算手続きに伴う解雇の要件

裁判例④の裁判所は次の要件を前提としています。

1)解雇に合理的な理由があること
2)手続が相当であること

簡潔ですが、1)では清算手続きに伴う解散の必要性を検討しており、他の裁判例と同じです。

解雇は合理的であった

「A社(被告会社の親会社)においては,平成20年のいわゆるリーマン・ショック後の景気後退の影響で,貨物の輸送量や運賃が下落し,翌平成21年には,極東と欧州間のコンテナ事業から撤退した。
 その後も,アジア間の取引で得られる運送料等の収入が被告の事業を維持できる程度に達することはなく,被告における平成23年4月1日から同年10月31日までの7か月間の売上高は,2049万6269円である一方,同期間の販売費及び一般管理費は1億0404万2311円にのぼった。被告は,A社に支払うべき海上運賃の支払を猶予してもらい,従業員への給与の支払を行うなどしたが,経営状況は改善せず,結局,同年10月31日時点において,被告は,3億8837万7776円の債務超過に陥っていた。」

このとおり、7ヶ月間の営業損失は約8350万円にのぼり、約3億9000万円の債務超過状態でした。
つまり、これ以上営業を続けても赤字が解消する見込みはないということです。

これは主に決算書と月次決算書を基に主張立証します。
損益計算書から数字を引っ張り、赤字が継続していることを示すのです。
そして、債務超過についてはバランスシートと内訳書により返済猶予が打ち切られたら直ぐにでも実質的な債務超過に陥ることを示します。

「本件解雇は,このとおり,被告の業績が悪化し回復の見込みがないことから,単独株主であるA社の意向を踏まえて解散するに至ったことに伴うものであり,被告の経営状況に鑑みれば,解散及びそれに伴う原告らの解雇はやむを得ないものというべきであり,解雇について合理的な理由があったものと認められる。」

このとおり、解雇については合理的であると認められました。

手続きも妥当であった

裁判所は次のとおり手続きの妥当性も認定しました。

「本件解雇は,前述のとおり本件解散と同時に原告らに説明されたものであるところ,長期間にわたり経営状況が低迷し,改善の兆しの見えない被告の事業について,これをいつ廃止するべきかという問題は,基本的には被告側の経営判断により決定されるべきものであって(したがって,被告の事業廃止が,平成22年末には実質的に決定されていたとの原告らの主張は,採用の限りでない。),本件通知義務を被告が負っていない本件においては,本件解雇の通知が解雇の1か月前であること(労働基準法20条1項本文の要求する予告期間は遵守されている。)をもって,原告らに時間的余裕を与えなかったということはできないし,被告が本件組合との団体交渉に応じ,本件組合の要求に対し検討の上回答している(前記認定事実(7))ことなどからすれば,被告において原告らの就職活動を援助する措置を取らなければならない根拠も格別見いだすことができない。」

細かい点については以下に記します。

この裁判例の結論

以上により、この解雇は有効とされました。

重要な事情

事前の交渉

なし。
事前の交渉なく解雇の有効性が認められたのは珍しいです。
なぜかを考えると、事業廃止の必要性が非常に高く、倒産必至の状況であると認定されたからではないかと推測します。

解雇の通知

10月26日に解散決議、同月31日に解散、同日に解雇通知(11月末日解雇)という流れです。

従業員側は解散と同じ日に解雇通知するのは急過ぎると主張しましたが、裁判所は「解散するかどうかは会社の専権事項である」として事前の通知義務を認めませんでした。

事後の説明

11月4日と同月15日に団体交渉。
組合は過度の補償を求めたが、会社側は応じる義務はないとしてゼロ回答。

再就職のあっせん

なし。
これは下の経済的手当てとも関わりますが、再就職のあっせんをせず経済的手当てを支給しなくても良いとする理由として、解雇1ヶ月前の通知をして説明・交渉にも応じていることが挙げられています。

逆に言うと、手続きに丁寧さが欠けていれば再就職のあっせんをするか、経済的手当てを支給するかなどしなければ、手続きが不相当であるとされるおそれがあります。

経済的手当て

なし。

内定取消しへの応用

この裁判は既存社員の解雇ですので内定者と同じには考えらえませんが、経営悪化に伴う清算手続きにおいて自身には落ち度がない労働者との関係を解消するという点では共通しています。

重要なのはコロナウイルスの影響で経営悪化したことを客観的に示すことです。
本件では、営業損失が続き、巨額の債務超過に陥っていたことが決算書から分かりました。

本件では事前の説明・交渉はなくても解雇の有効性が認められました。
ただし、他の裁判例を見ていると、事前の説明・交渉はそれなりに重視されているので、しておくに越したことはありません。
そうすることで内定者の気持ちに配慮していると認められます。

本件では再就職のあっせんをしていませんが、それはともかく、内定者に対してはあっせんは難しいので必須とまでは言えません。

経済的手当てですが、これは急に就職先を失う内定者に対してはいくらかの手当てを渡すことが手続きの妥当性にプラスに働きます。
本件では支給していませんが、それはそれ、これはこれです。

おわりに

本件の会社は清算手続きをとっていますが、実質的には倒産です。
事業廃止の必要性が非常に高いので、他の要件についてはそれほど高い水準が求められませんでした。
ここで解雇が無効だと言ったところで払えるお金はもうなかったと思います。

これをお読みの会社が同じくらいの経営状況であれば同じようにしても整理解雇や内定取消しが認められますが、そうでなければ本件よりはもう少し手続き的な配慮をするべきと考えます。
これは争いになったときに裁判で勝つためです。

弁護士 芦原修一