この裁判例⑥は既存社員の解雇の事案です。そして内定取消しにも応用できますので整理して紹介します。

結論

解雇は無効とされました。

裁判例⑥の清算手続きに伴う解雇の要件

裁判例⑥の裁判所はまず次のように示します。

「解散に伴う全員解雇が整理解雇と全く同列に論じられないことは言うまでもないが、いわゆる解雇権濫用法理の適用において、その趣旨を斟酌することができないわけではない。」

解散に伴う解雇は整理解雇類似の要件で検討するとしています。
そこで次のように述べています。

「解散に伴う解雇を考える場合に、整理解雇の判断基準として一般に論じられているところの四要件のうち、人員整理の必要性は、会社が解散される以上、原則としてその必要性は肯定されるから、これを問題とすることは少ないであろう。また解雇回避努力についても、それをせねばならない理由は原則としてないものと考える。しかし、整理基準及び適用の合理性とか、整理解雇手続の相当性・合理性の要件については、企業廃止に伴う全員解雇の場合においては、解雇条件の内容の公正さ又は適用の平等、解雇手続の適正さとして、考慮されるべき判断基準となるものと解される。
 したがって、本件解雇においても、その具体的事情の如何によっては、右要件に反し、解雇権濫用として無効とされる余地はありうるものと考えられる。」

本件の基準は他の裁判例と異なり、人員整理の必要性は原則肯定されるとしています。
確かに他の裁判例でここが否定されることはないので検討の効率上、このようにしたのかも知れません。
ここが否定されるということは偽装解散と見られるのと同じなので、そうしたケースではないということです。

手続の相当性については他の裁判例と同じように要件として求められています。

手続きは不相当であった

「債務者は同族会社であり、一族によるワンマン経営、個人企業的経営を行い、また、その独自の営業形態ゆえに、販売を業としながらも製造中心でのみ経営をなせば足り、品質の高さゆえに、これまで安定した黒字経営状態を保つことができ、今日に至ったものである。
 他方、債務者の従業員のほとんどは、菓子の製造に従事し、職人とも言うべき社員やパートで構成されていたもので、商品や会社の信用も彼らの努力に負うところは大きく、ときには、彼らに無理を言って働いてもらい、利益を上げていた面も全く否定できないところである。
 債務者にはこれまで労働組合は存在せず、先代の社長のころからの、経営者側と従業員間の人間的なつながりをもって社内の労務管理がなされてきたのが実状である。従業員らは、これまでほとんど経営者らに逆らうことなく、会社の方針に従って仕事をしてきているもので、債務者による終身雇用、継続的営業を期待していたものであった。職場環境、労働条件その他について従業員らの意向を経営者側に十分伝えるといったこともなかった。このように、経営者側は従業員に対して、常に優位な立場にあったものと認められる。」

債務者は会社のことです。
会社経営はこれまで順調であったが、それは決して待遇の良いとは言えない従業員らに支えられていて、雇用条件については会社の言うままに決められていて不服を言うことすらなかったと認定されました。

これに加えて、事業廃止の必要性はあるもののそれほど経営が逼迫していたわけではなく高い必要性はなかったとしています。

これらを併せると、すぐにでも解散をしないといけない状況ではなかったので、会社はじっくりと従業員の納得を得られるように協議・説明をするべきであったとしています。
それが従業員に対する恩返しということです。

そうであるのに会社は手続き的配慮に欠けたということで、手続きは不相当であったと認定されました。

この裁判例の結論

以上により、この解雇は無効とされました。

重要な事情

事前の交渉

まず工場閉鎖の提案をしたあとに、2ヶ月間で団体交渉8回。
これはかなり多い交渉回数ですが、それでも手続きは不相当とされました。

考えるに、事業廃止の必要性がそれほど高くなかったので相対的に手続きの相当性のハードルが高くなってしまったのだと推測します。

解雇の通知

11月8日解散決議、同月18日操業停止、直後に解雇通知。

事後の説明

なし。

再就職のあっせん

なし。

経済的手当て

なし。

内定取消し事例への応用

この裁判は既存社員の解雇ですので内定者と同じには考えらえませんが、経営悪化に伴う清算手続きにおいて自身には落ち度がない労働者との関係を解消するという点では共通しています。

重要なのはコロナウイルスの影響で経営悪化したことを客観的に示すことです。
ただ、本件では事業廃止の必要性がそれほど高くなかったと認定されてしまいました。
このことが解雇無効の結論に繋がってしまいました。

もし私が本件で会社側の代理人に就いたならば、手続きをさらに丁寧に行なうこと、再就職のあっせんをし、退職金を割り増して支給するなど、従業員にもっと配慮するよう会社に伝えます。

内定取消しについて言いますと、他の会社で採用してもらえないか、解決金としていくらかを支給できないか、説明は丁寧にする、といったことをするよう会社に伝えます。

おわりに

本件では、長年働いて会社に貢献した従業員の解雇の案件ですので、内定取消しにそのまま応用できる事例ではありません。

しかし、手続の相当性の要件についてはきちんと丁寧にやらなければ、清算手続きに伴う解散における内定取消しであっても内定取消し無効とされるおそれが少しはあります。

清算手続きに進むという苦しい状況でも内定取消しについては内定者への手続き的配慮が必要だということです。

弁護士 芦原修一