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そもそも不当解雇とは何か
労働者側は解雇をされるとすぐに「不当解雇だ!」と訴えますが、そもそも不当解雇とは何でしょうか。
解雇が不当であること、つまり違法であることです。
違法な解雇とは法に反した解雇であり、解雇権を濫用した解雇(労働契約法16条)または懲戒権を濫用した解雇(同法15条)のことです。
つまり労働者側が「不当解雇だ!」と訴える場合、「この解雇は解雇権を濫用して無効だ!」、「この解雇は懲戒権を濫用して無効だ!」と訴えているのです。
これに対して会社側としては、「解雇は正当であった。」と主張し、「解雇権は濫用していないから解雇は有効である。」、「懲戒権は濫用していないから解雇は有効である。」と具体的に反論します。
次の項では、その具体的な反論方法を解説します。
この記事では普通解雇と懲戒解雇における反論方法を解説します
(元)従業員から「不当解雇だ!」と訴えられる局面は次の3つです。
- 内容証明による交渉開始
- 労働審判の申立て
- 民事訴訟(裁判)の提起
交渉、労働審判、民事訴訟(裁判)とそれぞれ独自のテクニックは必要ですが、いずれの局面でも中心となるのは会社側からの「解雇は正当である!」との反論です。この反論をいかに効果的に行なうかで勝敗が決まります。
そこで、この記事ではその反論方法を解説します。解雇には、普通解雇、懲戒解雇、整理解雇がありますが、この記事では普通解雇と懲戒解雇の場合について11個の反論方法を解説します。上の図で見ると、「従業員に責任がある場合」の青色で示した部分です。責任がある、というのは「不祥事を起こした」、「勤務態度が悪い」、「業務をこなす能力が不足している」ということです。
なお、整理解雇の場合の反論方法については次の記事で詳しく解説しています。
普通解雇について – 一般論
解雇理由として主張できる事実 – 制約なし
基本的には解雇通知書又は解雇理由証明書に記載した解雇理由を軸として、解雇権濫用(労働契約法16条)ではないと主張立証します。
もっとも、普通解雇をした時点で存在していた事実であれば解雇理由証明書に記載していない事実も解雇理由として追加できます。
なお、懲戒解雇ではこのような追加はできません。
普通解雇が有効となる要件
普通解雇の理由は様々ですが、その理由により求められる有効要件が異なります。
大きな枠組みでは「解雇権濫用ではない」(労働契約法16条)が有効要件ですが、解雇理由によっては「事前に注意指導をして反省・改善の機会を与えたこと」が要件として付加されます。
また、解雇理由が「懲戒事由に当たる行為がなされたこと」であれば、懲戒解雇類似の解雇として「会社秩序を乱したこと」が要件として付加されます。
これらは労働基準法や労働契約法で定められているわけではなく多くの裁判例で積み重ねられてきたものです。
詳しくは、それぞれの解雇理由の箇所でご確認ください。
懲戒事由に当たる行為で普通解雇とする
懲戒事由というのは広く、無断欠勤、規律違反、業務命令違反も含まれます。しかし、次のとおり懲戒解雇にせずに普通解雇にする場合もあります。
- 会社に対する実害が少なく懲戒解雇として有効と見るのは難しい
- 本来は懲戒解雇に相当するが温情を掛けて普通解雇とする
大阪地裁平成30年9月20日判決は、懲戒事由に当たる行為があればそれに基づいて普通解雇にすることができるとしているので、そうした措置は可能です。
また、懲戒解雇というのは業務に関わる犯罪(窃盗、横領、他の従業員への暴力など)であれば有効と認められ易いですが、それ以外はかなり難しいです。したがって、懲戒事由に当たったとしても懲戒解雇ではなく普通解雇に留めるのが無難です。
仮に懲戒解雇をしてそれに対して「不当解雇だ!」と争われたとしても、訴訟が開始した後でさえ予備的に普通解雇を追加することができます(東京地裁平成30年11月29日判決、東京地裁平成2年7月27日判決その他)。裁判所で懲戒解雇の有効性を争うときには予備的に普通解雇を追加するのが無難です。
懲戒事由に当たる行為に基づいて普通解雇をする場合の有効要件は次のとおりです。
- 懲戒事由に当たる行為があったこと
- その行為により会社秩序を乱したこと
懲戒事由というのは軽重が幅広く、犯罪行為もあれば就業規則違反も含まれます。前者の犯罪行為を主張立証するときはそれがそのまま会社秩序を乱したことを主張立証していることになりますが、後者の場合は懲戒事由に当たる行為があったことに加えて、いかに会社秩序を乱したかを主張立証しなければなりません。これは普通解雇の場合でも懲戒解雇の場合でも同じです。
懲戒解雇について – 一般論
解雇理由として主張できる事実 – 制約あり
解雇通知書又は解雇理由証明書に記載した解雇理由を軸として、懲戒権濫用(労働契約法15条)ではないと主張立証します。
懲戒解雇をしたときに会社が認識していない事実を主張することはできません。
つまり、懲戒解雇をした後で何か気付いたとしてもそれを解雇理由としては主張できないということです。
前提として就業規則等に懲戒事由を定めて、それを従業員に周知していなければならない
普通解雇と異なる点ですが、会社における懲戒解雇は社会における刑事処分と同じであり、刑法で罰すると定めていない行為について刑事処分ができないのと同じとされています。
つまり、懲戒解雇をする前提として就業規則等に懲戒事由を定めて、懲戒事由を定めている就業規則等を従業員に周知しておかなければなりません。紙ベースで渡す必要まではなく、会社サーバーにおいていつでも閲覧できるようにしておけば十分ですし、入社時にメールでデータファイルを1回送るというのでも良いです。
ただし、懲戒事由の定めと言っても細かく具体的に記載しておかなければならないというほどではなく、末尾の号で「その他、前各号に準ずる理由」と定めておけば裁判所から「懲戒事由に該当しない」と言われることはまずありません。
懲戒解雇が有効とされる要件
懲戒解雇の有効要件は次のとおりです。
- 懲戒事由に当たる行為があったこと
- その行為により会社秩序を乱したこと
- (2⃣の秩序の乱れが大きいものでなければ)初回の懲戒処分ではないこと
つまり単に懲戒事由に当たる行為があったことだけでは足りず、その行為がいかに会社秩序を乱したかを主張立証しなければなりません。
そして、それが初回の懲戒処分なら会社秩序を大きく乱していなければ懲戒解雇は無効とされやすいのです。
裁判例では「…原告が採用されて以降、長年にわたり勤務し、この間特段の懲戒処分を受けたこともなかった事情を踏まえると、上記懲戒事由をもって懲戒解雇処分を行うのは重きに失する…。」などと示されることが多いです。
図で示すと次のとおりとなります。
ここまでお読みになられても解決の道が見えず、解雇をした元従業員からの請求についてお悩みの方は是非ご相談ください。お話を伺ったうえで今できることをすべてお話しいたします。
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