この裁判例⑮は既存社員の解雇の事案です。そして内定取消しにも応用できますので判決を整理して紹介します。

2019年の新しい裁判であり法人の清算手続きにおける解散に伴う解雇の場合には、整理解雇の一般的な4要件(要素)ではなく、1)事業廃止の必要性、2)解雇手続の妥当性(手続の相当性と言われることも多い)、の2要件で検討されることが固まっていることを示す裁判例とも言えます。

結論

解雇有効とされました。

解雇の有効性の判断要素は2要件(要素)

裁判所は、本件の解雇について、一般的な整理解雇の4要件(要素)で判断するべきか否かについてこう述べています。

「本件のように使用者が運営していた指定就労継続支援A型事業所を閉鎖し,障害福祉サービス事業を終了するのに伴って利用者及びスタッフの解雇がされた場合においては,事業を終了することに伴って解雇が行われるのであるから,①人員削減の必要性については,直截的に「事業廃止の必要性」として,障害福祉サービス事業を終了する必要性を問題とすべきである。また,本件において,被告ネオユニットが障害福祉サービス事業のほかに塗装業を行っていたのかについては判然としないものの,障害福祉サービス事業に従事していたスタッフや利用者が塗装業に従事するという事態は通常考え難いことからすれば,障害福祉サービス事業を終了する必要性が認められる以上,障害福祉サービス事業に従事する者について,整理解雇を行う必要性(②人員削減の手段として整理解雇を選択することの必要性)が,当然に認められるものと考えられる。さらに,③被解雇者選定の妥当性についても,障害福祉サービス事業を終了することの必要性が認められる以上は,これを別途検討する必要はないと考えられる。これに対し,④解雇手続の妥当性については,使用者が事業の終了を決定し,労働者がこれに関与する余地はほとんどないのが一般的である一方,労働者は解雇されると生計を維持する手段を失うことからすれば,労働者の納得を得るため可能な限りの努力をする信義則上の義務を使用者は負っているものと考えられるから,事業の終了による解雇の場合であっても,この点についての検討を要するというべきである。
 そうすると,本件においては,上記の4つの事項によって解雇の有効性を判断するのではなく,I事業廃止の必要性Ⅱ解雇手続の妥当性の双方を総合的に考慮すべきである。そして,Ⅱ解雇手続の妥当性については,事業廃止の必要性が認められる場合において,事業廃止を決定してから,実際に事業を廃止するまでには時間的制約があることから,労働者に対して解雇の必要性・合理性について納得を得るための説明等をしたり,労働者に再就職先などの手配をしたかなど,できる限り努力を尽くしたものと認めることができれば足りるとものというべきである。」

このとおり、本件の解雇要件(要素)は、1)事業廃止の必要性、2)解雇手続の妥当性、であるとされました。
さらに、1)事業廃止の必要性が認められれば、事業廃止のための時間的制約があるのでその時間の限りで、丁寧な説明をし再就職のあっせんをしようとしていればそれで足りるとも示しています。

注目すべきは2)解雇手続の妥当性についてさらに細かく要素を示している点と、「~足りる」と締めている点です。
特に後者の「~足りる」という言葉は日本語としては「最低限で足りる」というような文章になりやすく、具体的な成果は不要で不誠実でさえなければそれで良いと示しているのです。

具体的な検討

事業廃止の必要性はあった

「被告ネオユニットの経営状態を検討するところ,被告ネオユニットの決算報告書には,第1期,第2期,第3期のいずれも営業損失,経常損失,純損失を計上していることが記載されている(認定事実(1)ア)。これについて,原告らは,被告ネオユニットの決算報告書は粉飾決算である旨を主張する。しかし,被告ネオユニットの決算報告書の中で,明らかに真実と反すると認められるのは,被告B1の役員報酬とB2の賃金が実際には全く支給されていないのに,一定額が支給されていたとの部分のみであって(証人B2〔20頁〕,被告B1〔1,22頁〕),それ以外に原告らが主張する被告ネオユニットの決算報告書内の販売費及び一般管理費内訳書の記載が虚偽であるとかC1の売上がB2の塗装業に流用されていることを裏付ける的確な証拠はない。そして,被告B1の役員報酬とB2の賃金の合計は,第1期についてはB2が受領した賃金が判然としないものの最大でも453万8930円(190万円+263万8930円),第2期が222万4000円(112万4000円+110万円),第3期が134万4000円(74万4000円+60万円)であり(認定事実(1)エ(ア)~(ウ)),これらの全額を被告ネオユニットの決算報告書に記載されている純損失(第1期は1023万2290円,第2期は328万9686円,第3期は145万3045円)から差し引いたとしても,第1期から第3期において純損失を計上する状態であった(そもそも,経営者である被告B1が3期に渡って全く報酬を得られなかったこと自体,被告ネオユニットの経営状態が正常なものではなかったことを裏付けるものである。)。
 また,被告ネオユニットは,収入の多くを自立支援給付としての訓練等給付費などの給付金や補助金に依存していたところ(認定事実(1)イ,ウ),C2が,平成29年3月末に被告ネオユニットを退職することになる結果として,被告ネオユニットが同年4月から受け取ることができる自立支援給付としての訓練等給付費が月額約20万円減額され(認定事実(1)カ),また,平成29年4月からは改正された本件基準が施行され,原則として自立支援給付を利用者の賃金に充てることができない状況になっていた(前提事実(4))。これについて,原告らは,経営改善計画を提出すれば,経営改善期間中は自立支援給付を利用者の賃金に充てることができる制度となっていることを主張するが,この制度は今後経営状態が改善していくことを前提に一時的に自立支援給付を利用者の賃金に充てることを許すものにすぎず(甲60〔31頁〕),被告ネオユニットの経営状態の悪化を根本的に止めることができるものとはいえない
 さらに,被告ネオユニットは,平成28年10月19日,札幌東年金事務所から,社会保険料を滞納したことを理由として,預金66万0306円を差し押えられていた(認定事実(1)オ)。
 以上の事実に鑑みれば,被告ネオユニットは設立当初から赤字経営だったのであり,さらに被告B1が,C1を閉鎖して,障害福祉サービス事業を終了することを決意した平成29年3月28日以降さらに悪化していく状況であったことが認められる。」

まず、3期連続の営業損失、経常損失、純損失が計上されています。
本件ではこのようにいずれの部分でも損失が計上されていますが、事業廃止の必要性の中では営業損失がもっとも重視されます。
なぜなら、営業を継続すればするほど赤字が続くとなると経営破綻が目に見えて近付くからです。
経常損失と純損失が他の要素に影響されやすいのに対し、営業損失は経営を根本的に改善しなければ解消されません。

また従業員からの「粉飾決算だ」との反論がありましたが、役員報酬が得られていないのに控除されているというものでした。
しかし、裁判所は、役員報酬の控除がなかったとしても赤字続きに変わりはなく、そもそも役員報酬が得られていないこと自体が経営状態が正常でなかったことを示すものだと反論を退けました。

「次に,C1の人員体制について検討するところ,原告A9は,被告B1に対し,本件発言①を述べ,また,原告A9は,B2に対し,本件発言②を述べ,B2は,本件発言②を被告B1に伝えている(認定事実(3)ア)。これらの事実からすれば,被告B1は,C1のスタッフ及び利用者のうち,利用者1名を除いて全員退職すると認識したものと認められるところ,新規スタッフを募集したものの見つけることができなかったこと(認定事実(3)イ),被告B1自身は,C1において,生活支援員などの立場で利用者と関わったことがないこと(被告B1〔26~27頁〕)に鑑みれば,被告B1がC1の閉鎖を決意した平成29年3月28日以降,人員体制の点においても,C1の運営が苦境に陥ることは明らかであったといえる。」

事業を継続するには、人員が十分であることが必要ですが、本件では人員体制についても不足が決定的であったとしています。

このように、経営状態と人員体制の2点から、障害福祉サービス事業を終了することを決意したことは合理的でやむを得ないものであるとして、裁判所は事業廃止の必要性を認めました

解雇手続の妥当性もあった

「被告ネオユニットは,本件解雇の1か月前に,本件解雇予告通知書を利用者とスタッフに配布しており(認定事実(4)ア),また,弁護士ともに,利用者とスタッフに向けて,本件説明会を開催し,質疑応答の機会を設けている(認定事実(4)イ)。さらに,札幌市障がい福祉課の担当者にC1の閉鎖の手続を相談しており,札幌市障がい福祉課の担当者からの指示を受け,利用者の受入先となる指定就労継続支援A型事業所を,実際のC1の利用者数である15人を上回る約30人分確保している(前提事実(5)エ,認定事実(5))。そうすると,被告ネオユニットは,労働者である利用者やスタッフに対して,解雇の必要性・合理性について納得を得るための説明等を行う努力を果たし,かつ労働者の再就職先を手配したといえるのであって,被告B1が事業の終了を決意した時点からC1を閉鎖するまでの約1か月間で(認定事実(3)イ,(6)),できる限り努力を尽したものと認めることができる。」

手続きについては、ここで書かれているとおり丁寧にすることが原則です。
それに加えて再就職のあっせんもしっかりとしていることで、解雇手続きの妥当性が認められました。

以上により、この解雇は有効とされました。

重要な事情

解雇の1ヶ月前に解雇予告通知書を配布したこと

他の裁判例では特別にはこの点について重視されていませんが、法が解雇1ヶ月前の予告を定めていることから「今日通知して明日解雇」というのは解雇手続の妥当性の観点からはマイナスです。

質疑応答を含めた説明会の開催

最低限、解雇に至る事情の説明をすれば良いのですが、解雇される従業員の納得を得るためには質疑応答を含めると解雇手続の妥当性の観点からプラスです。

再就職のあっせん

従業員にとってみるとそのまま同じ会社で働き続けるのが一番でしょうが、生活の糧としての給料の支給が途切れないのが最低限必要です。
そこで本件のように再就職のあっせんをするというのは手続き的配慮がなされているといえます。

内定取消しへの応用

この裁判は既存社員の解雇ですので内定者と同じには考えらえませんが、内定取消しへの応用をしてみますと、「可能な限り早期に内定取消しを知らせる」、「一回は直接の説明会を開いて質問も受け付ける」、「可能であれば他の会社への就職のあっせんをする」、ということで手続きの妥当性が認められやすくなるでしょう。

おわりに

コロナウイルスの影響により法人を解散させるという苦しいときに整理解雇をした場合、以上のように手続き的な配慮をしておくことで後の裁判などで勝つことができます。

弁護士 芦原修一