裁判例⑦では、中途採用の事例において、内定という言葉がなくても内定、すなわち始期付き・解約権留保付き労働契約が成立したと認められました。

口頭だけで中途採用をしようとしていた人がいるとして、コロナウイルスの影響で採用を止めようとした場合、例え書面で内定を確認していなくても内定が成立しているとされることがあり得るという事例です。

内定で労働契約が成立する

意外に思われるかもしれませんが、内定で労働契約は成立します。
ただし、入社前だと未だ就業していないので「〇月〇日から働き始める」という始期が付いて、「内定取消し事由に該当する行為が発覚したら内定を取り消す」という解約権が留保された労働契約、つまり始期付き・解約権留保付きの労働契約です。

具体的には…

「乙山所長は,原告に対してインターネットを通じて証券会社が展開できるビジネスの可能性を問い,被告においてこれを立ち上げたいので原告にぜひ来て欲しいと持ちかけ,その後乙山所長あるいは丙川CFOと原告との間で事業の形態,雇用の問題等について話し合いを重ねる中で,原告の雇用条件を詰めるために4月3日の会合が開かれるに至り,同日の会合において原告から希望する年俸額として1500万円プラスアルファを提示され,乙山所長が概ねこれを了承し,被告における勤務開始日についても8月1日と合意したこと,その後も被告内部においてここでの発言を前提に事を進めたことが認められるのであって,代表取締役からここまで具体的な話があった以上,これを内定,すなわち始期付解約権留保付雇用契約の締結と認めて妨げないというべきである。」

この丙川社長と乙山所長は個人的に会社で新規事業を展開しようとしてこの原告を誘ったようです。
所長だけならともかく社長まで直々に出向いて原告と話をしているのですから、原告としても採用されて働くことになると当然に期待したでしょう。
そこで裁判所も、内定という言葉はありませんでしたが、内定の成立を認めました。

実は内定取消しは、社長が新規事業の展開について役員会の了承を得られなかったことにあります。
新規事業を前提に原告を採用しようとしていたので、それが頓挫したから内定取消しをしたということです。

この事例では内定承諾書などの書面の交付がない事例であり、口頭だけで進んでいたようですが、それでも内定が成立することがあるということで、参考にしてください。

弁護士 芦原修一