この記事では、残業代請求を受けた会社向けに、「従業員は勤務時間中に休憩時間をしっかりと取っていた。」と適切に反論するための方法をお教えします。

残業代請求に対する会社による反論

残業代請求は未払賃金請求とも言います。
労働者がしっかりと働いた分について請求することは良いのですが、働いていない分まで請求してくる場合があります。
その場合、会社としてもしっかりと反論しなければなりません。

反論のポイントはいくつかあるのですが、王道の反論ポイントは次の3つです。

  • 始業時刻が早すぎる ⇒ 会社に来たけど何もしてない時間を労働時間として請求してきた
  • 休憩時間が短すぎる ⇒ しっかりと休憩したのに労働時間として請求してきた
  • 終業時刻が遅すぎる ⇒ 業務を終えたのに同僚と雑談した時間を労働時間として請求してきた

このように往々にして労働時間を過大に算定して請求することが見られますが、これらの点について実態に合わせた労働時間になるよう会社は反論しなければならないのです。

この記事ではこのうち、「休憩時間が短すぎる」と反論するための具体的な着眼点を整理します。
勤務時間から休憩時間を引いた時間が労働時間なので、労働者にとっては「休憩時間が短い」=「労働時間が長い」となり、それだけ請求賃金額が上がり有利になります。
裁判例でどのように休憩時間が認定されているかを見ることで、日頃の労務管理に役立てるとともに、今まさに紛争になっていれば適切な反論ポイントを掴むことができます。

なお、リモートワークの労働時間の算定については次の記事をお読みください。

弁護士 芦原修一

ちなみに法定の休憩時間は次のとおりです。
  労働時間が6時間以内:なし
  労働時間が6時間を1分でも超える場合:45分
  労働時間が8時間を1分でも超える場合:1時間
  (労働基準法34条)
ただし、これはあくまでも法定であって労働時間の計算においては実際に休憩した時間を計算します。

7つの反論ポイント

1.「喫煙者だからタバコ休憩を取っていた」との反論が成功した裁判例

お昼の休憩を丸々取れていないこと自体を争うことができなくても他の時間帯で休憩していることがあるので、諦めないでください。
細切れの休憩を合わせて所定の休憩時間を取っていたのであれば、それは所定の休憩時間を取っていたことになります。

例えば従業員が喫煙者であり、仕事中にタバコ休憩を取っていることから、所定どおりの休憩時間を認定させることが可能なのです。
労働審判や訴訟になった場合、例えば同部署の別従業員に「1日5回はタバコ休憩に行ってました。」など陳述書に記載させましょう。

 被告の所定の休憩時間が1時間10分であること,原告も昼休憩以外に10分の休憩をとっていたことは争っていないこと,原告が1日に1箱(約20本)タバコを吸い,仕事中に多いときでタバコを5本吸っていた旨供述していることからすれば,原告が昼休憩を1時間とれないことがあった点を踏まえても,原告は,1時間10分の休憩をとれていたと認めるのが相当である。

大阪地裁令和元年8月22日判決

2.30分ではなく1時間の食事休憩を取っていたことが認められた裁判例

よくあるのが1時間丸々休憩を取っていたのに、「30分しか休憩してなかった。」と主張して1日当たり30分の労働時間を上乗せしようとする労働者です。

以下の裁判例の会社の制度は真似するべきです。
食抜きコード、これは休憩時間に食事をとらずに業務を続けるという申告のコードですが、これを出勤簿に記入することで初めて「休憩を取らない」という意思表示をしたことになるとのことです。
所定労働時間で休憩を取らないと時間外労働が発生しますが、それについては所定の退勤時刻を早めることを義務付けておけば良いでしょう。
このように、原則は休憩時間、例外的に食抜きコードを記入すれば労働時間、としておけば明快ですし、後に紛争になっても「休憩を取らなかった」、「休憩は30分だけだった」などの労働者の主張を退けられます。

 原告は,前記のとおり,夜間にはせいぜい30分の休憩時間しか取っておらず,1時間も休憩時間を取ってはいなかった旨主張し,これに沿う供述をする。
 そこで,検討するに,乙25,26,原告本人,証人Aの証言及び弁論の全趣旨によれば,被告においては,当時,所定始業時刻を超えて残業をする場合,本部については午後8時から午後9時まで,名古屋支部については午後5時から午後6時まで,それぞれ夜間の休憩時間とするものとされており,従業員は,原則として,その時間は食事を取るなどのために休憩することができることとされていたこと,従業員が休憩時間に食事を取らないなどの理由により休憩をしないで業務を続けた場合には,出勤簿の「食抜」欄にその旨のコード番号(食抜きコード)を記入することとされていたこと,被告が従業員の時間外労働時間数等を算定するに当たっては,原則として上記各休憩時間を労働時間に算入しないが,出勤簿に食抜きコードが記入されて休憩時間にも業務に従事した旨申告された場合には,当該時間も労働時間に算入することとしていたこと等の事情が認められる。
 そして,原告は,本件請求期間について,出勤簿に食抜きコードを記入していなかったところ,原告の供述によれば,休憩時間を取らなかった場合には食抜きコードを記入するものとされていること,これを記入しなければ休憩時間を取ったという扱いとされることを知っていたものと認められる。また,原告は,前記のとおり,係長職として時間外労働賃金の支払を受けていなかったから,食抜きコードを正確に入力する動機もなかった旨主張するが,原告の供述によれば,係長になる前(非管理職として残業代の支払を受けていた時期)においても,食抜きコードを記入していなかったというのである。以上の諸事情を総合考慮すると,夜間には30分しか休憩していなかった旨の原告の供述をにわかに採用することはできず,原告は,本件請求期間について,本部については午後8時から午後9時まで,名古屋支部については午後5時から午後6時まで,それぞれ夜間の休憩時間を取っていたものと認めるのが相当である。

東京地裁令和元年9月24日判決

3.配送業務での搬入待ち時間が直ちに休憩時間とされるわけではないとされた裁判例

これは、会社主張の休憩時間について、労働者が「搬入待ち時間だから労働時間だ」と反論した裁判例です。
裁判所は、「運転車両が冷凍車でエンジンを切ることができないとしても、それだけでは拘束の程度が弱いから労働時間とは認められない。」としました。
会社の指揮命令下に置かれている時間が労働時間ですので、それに及ばない時間は労働時間ではないということです。
もしこのように請求してきた従業員と一緒に車両に乗っていた他の従業員がいれば、「私用電話をしていた。」、「コンビニのお弁当を食べていた。」、「トイレに行ってた。」など会社の拘束が弱かったことを示す事実を聴き取り、証拠にしましょう。

 被告が労働時間性を争う時間(別紙被告が主張する休憩時間シート記載の休憩時間及び非就労時間)について,原告は,B富松店からF乳業の移動時間が40分かかるなど,別紙被告が主張する休憩時間シート記載の移動時間より時間を要する旨主張するが,そのことを裏付けるに足りる証拠がない。また,原告は,B安堂寺店及びスーパーCにおいて,搬入可能時刻が遅れて待機していた旨主張し,これに沿う供述(陳述書の記載を含む。)をするが,これを裏付けるに足りる証拠がなく,原告の上記供述部分(陳述書の記載を含む。)を採用することができない。さらに,原告が上記各店舗で搬入可能時刻まで待っていた(何らかの拘束を受けていた)からといって,そのことから直ちに労働時間と認められるものでもない(それが労働時間に当たるかどうかはその待機の具体的な状況による。)。そのほか,原告は,被告が労働時間性を争う時間の具体的な労務実態について主張立証していない。そうすると,原告が運転する車両が冷凍車であり,エンジンを切ることができない(証人D,原告本人)などの事情を考慮しても,それだけではその拘束の程度が弱く,別紙被告が主張する休憩時間シート記載の休憩時間及び非就労時間が労働時間であるとまでは認められない(なお,一部については原告も休憩時間と認めている。)。

東京地裁令和元年11月21日判決

4.他の従業員が自由に休憩を取っていた事実から従業員主張の休憩時間よりも長い休憩時間を認めた裁判例

この裁判例では従業員はおそらく「12時15分から13時」、「12時20分から13時」と手書きの休憩開始時間を主張したものとみえます。
しかし裁判所は、「業務終了後にコップの洗い物をしていたこと」から「業務時間内に飲み物を作り飲んでいたこと」を推認しました。
そして他の従業員がコンビニに行ったりタバコを吸ったりしていたことから、この従業員も自由に休憩が取れただろうと推認しました。
これら2つの推認結果を併せて、細切れの休憩時間を合わせると毎日1時間の休憩を取っていたと認定しました。

これは会社も弁護士も本気で勝とうとしたからこのような事実が出てきたのでしょう。
「何とかして休憩時間を削れないか」と頭をひねったところ、これら2つの事実を主張して合わせて細切れの休憩時間を裁判所に認定させたのです。
もし労働審判や裁判になればこのような粘りを私もしたいです。

 原告は,休憩について,タイムカード(甲7ないし61)の横に記載された手書きの時刻から午後1時までの間のみ休憩を取っていた旨主張する。
 しかしながら,原告は,午後1時になったら他の社員らが休憩場所から立ち上がって自席に戻るので,原告もそれに合わせて自席に戻っていた旨供述するが(原告),D社員は,原告が,午後1時を過ぎてから自席に戻ることもあった旨証言していること(証人D),原告自身,業務終了後にコップの洗い物をしていたことを認めているところ(原告),そうであれば,業務の合間に,当該コップを使用して飲み物を作ったり,あるいは飲み物を飲んだりして一息つく時間があったと推認されること,D社員は,業務の合間に,コンビニエンスストアに飲み物を買いに行ったり,たばこを吸いに行ったりしていた旨証言しており(証人D),被告が,業務の合間の休憩に比較的寛容である様子がうかがえること,以上の点を併せ鑑みれば,原告は,所定の休憩時間である合計1時間は休憩を取得していたと認めるのが相当である。

大阪地裁令和元年7月16日判決

5.日報の記載から休憩時間を所定どおり取れたと認められた裁判例

この裁判例で従業員は「休憩時間は取れなかったか、取れても30分だけだった。」と主張しました。
しかし、メールによる日報の記載からすると、従業員のスケジュールがガチガチに詰まってはおらず、移動時間等を考慮しても60分の休憩時間を取れなかったとは認められないとしました。

外回りの営業担当の労働時間の管理は難しいですが、このように毎日のスケジュールを事後的に報告させることで、客観的にみて休憩をしっかり取ることができたと認めてもらえます。

 また原告は,休憩時間がとれないか,とれたとしても30分程度しかとれなかった旨主張する。しかし,上記認定事実によって認められる原告の労働実態によっても,原告が主張する程度の休憩時間しかとることができなかったかどうかは明らかでなく,かえって日報メール等の記載からすると,原告の行動中には何の予定も入っていない時間も存在しているのであって,外回り営業にかかる移動時間や顧客との折衝にかかる時間の不確実性を考慮しても,60分の休憩時間をとることができなかったと認めるのは困難と言わざるを得ない。したがって,実労働時間の算定にあたっては,休憩時間は本件雇用契約の定めどおり60分とするのが相当である。

東京地裁平成30年10月5日判決

6.勤怠表の短い休憩時間を否定して所定の休憩時間を取得したと認められた裁判例

この裁判例で従業員は、勤怠表に記載のとおり休憩時間は1日当たり1時間未満であったと主張しました。
しかし裁判所は、勤怠表は予定に過ぎず実態を反映したものではなく、この会社では休憩のタイミングと回数は従業員に任されていた、としてその主張を退けて所定の1時間の休憩時間を取得していたと判断しました。

従業員側が勤怠表に基づいて短い休憩時間を主張したなら、勤怠表の信用性を攻撃しなければなりません。
ここでは日報のような事後的に記載されたものではなく、予定に過ぎなかったという点を突いたことで勤怠表の信用性を失わせました。
できれば日報や業務報告書である程度時間を明確にした内容を事後的に報告させれば、簡単にこのような勤怠表の信用性を崩せます。

 原告の勤怠表上,1時間未満の休憩時間が記載されている日もあり,原告は休憩時間を取得できなかった理由について,縷々主張するものの,被告において,休憩の取得方法は,勤務時間内の適宜な時間に休憩をとるというものであり,休憩のタイミング,何回に分けて取るかということは,従業員にまかされていたこと,原告が上記主張の前提とする本件スケジュールは,予定に過ぎず,実際の勤務内容を必ずしも正確に反映したものとはいえず,特に終了時間については,予定時刻より早く終わる可能性もあり,それによって原告が休憩を取得し得る可能性も否定できないこと,原告の勤怠表の退勤時間が,本件警備会社の記録と整合し,信用できるとしても,休憩時間についてはその裏付けとなるような客観的証拠に乏しく,また,一日の労働の終わりである退勤時間と異なり,勤務中の休憩時間(しかも上記のとおり,数回に分けてとられた可能性もある。)に関する記録については,性質上,メモの正確性に疑義が残ること等に照らすと,原告の勤務表に基づく原告の主張を容れることはできず,結局所定の1時間の休憩時間を取得していたと判断せざるを得ない。

東京地裁平成30年5月30日判決

7.「電話応対のために休憩時間を取得できなかった」との従業員の主張を退けた裁判例

この裁判例で従業員は、1日に一切の休憩時間を取得することができなかったと主張しました。
しかし裁判所は次のとおり従業員の主張を退けて1日当たり30分の休憩を取得したと認定しました。

「電話応対のために事務所を離れることができず休憩を取得できなかった」との主張については、従業員1人だけでの勤務日は限られていたこと、電話応対は事務所員全員でしていたこと、仮に1人だとしても従業員の携帯電話に転送することは可能だったこと、から認められませんでした。

「外出できたときでも出先で電話での顧客対応があったし用事もあったから休憩を取得できなかった」との主張についても、電話での顧客対応があった可能性は十分にあっただろうし用事もあっただろうが、それだけで休憩を取得できなかったとは認められず、また休憩取得を妨げるような業務指示もなかったから、仮に休憩を取得できない日があったとしてもそれが業務指示に基づく労務提供だったとは認められない、としました。

これは業務報告書などの書面により認定されたものではなく、互いの主張のうちどちらが合理的であったかの判断ですので、ここから学ぶことは主張の工夫です。
「電話応対で大変だった」と主張されれば、「電話応対に付きっきりの必要はなかった」と反論すれば良いのでそれを支える事実を集めましょう。
「外出時にも電話応対で休む暇もなかった」と主張されれば、電話応対の頻度の低さと1回当たりの応対時間が短かったことを説得的に主張して反論しましょう。

ただ、この裁判例ではこの従業員が結構忙しくそれなりの業務負担があったことが認定されていますので、ギリギリの勝負だったと思います。
業務量が過大だったと認定されればそれだけ休憩時間を取得できないことが合理的であると認定されやすくなるので、従業員に対する業務分配を偏らせないようにすることは必要です。

 原告は,本件請求対象期間中,1日1時間の休憩時間を取得することができず,労働を余儀なくされたと主張する。

 本件請求対象期間中の被告事務所の人員構成及び勤務体制に照らし,被告事務所に原告が1名で勤務しなければならなかった日はごく限られ,それ以外は複数名が勤務する状況であったこと,
 被告事務所では固定電話にかかってきた電話につき事務員(原告及びCのパラリーガル並びにB)に限らず弁護士を含めて在室者が適宜応対することとなっていたこと,
 事務所を不在にする場合,固定電話にかかってきた電話を被告の携帯電話に転送することも可能であったと認められること

などからすると,客観的にみて,原告が電話応対等のために被告事務所を離れることができず待機を余儀なくされる状況にあったとは認め難い。
 また,被告の業務指示としても,原告ら従業員が交替で休憩を取得すること自体を妨げるようなものがあったとは認め難い(原告は,従業員らが被告事務所の代表電話に応答せず,顧客が被告の携帯電話に電話をしたり,固定電話の電話が被告の携帯電話に転送されたりすることにつき,被告から否定的な発言があったなどと主張及び供述するが,原告自身,被告に対して休憩を取得する旨や,休憩のため不在となる間の転送電話の応対を依頼する旨のSMSを送付したこともあったと認められることからすると,従業員が休憩を取得すること自体を妨げる趣旨の言動であったとまでは認め難い。)。
 原告は,休憩すると言って外出することがあっても,外出先で顧客からの電話の応対を余儀なくされることもあったし,外出先で行うべき用務をこなす必要もあったことから,業務を離れた休憩は不可能であったなどと述べる。確かに,被告事務所では先任パラリーガルのCが正午過ぎの時間帯に休憩を取るため,原告が時間をずらして休憩を取る際には,通常の勤務時間帯にある外部関係者からの電話連絡等もあったと推認されるし,原告が外出時に外出先で行うべき用務を済ませることもあったと考えられるが,他方で,これらの事情を考慮したとしても,少なくとも,本件請求対象期間中の全ての日について,休憩を全く取得できない状況にあったとまでは認め難い。原告は,また,昼食を取らずに被告事務所内にとどまり業務を続けていることもあったと認められるところ,業務をこなすためにそのようにせざるを得なかった部分もあるにせよ,前記のとおり,被告において休憩の取得を妨げるような業務指示があったとも認められないことからすると,原告が業務を離れた休息をしなかったからといって,これが全て業務指示に基づく労務の提供に当たるとも認め難い。これらの点からすると,原告において,業務の繁忙さや顧客からの電話への対応等の事情により1日1時間の休憩を取得することが困難な部分があったにせよ,1日当たり平均30分の休憩を取得することは可能であったと認めるのが相当である。

東京地裁平成30年11月1日判決

まとめ

●業務以外のことをしていたことを主張することで、勤務時間中の休憩時間をしっかり取得していたことを立証できる。
 
・タバコ休憩 ・コーヒー休憩
●業務が過大だった、代替が利かなかったとの従業員の主張に対してはそれを減殺する反論をする。
 ・細かく反論すれば必ず崩せる。
●休憩時間が記載された書面が提出されたら、休憩時間が短ければその書面の信用性を減殺し、長ければ信用性を増す反論をする。
 
・事前に作成されたものなら「実態を反映していない」と反論。
●労働時間とも休憩時間ともどちらとも言えそうにない時間について、会社の拘束がないことをしっかりと主張する。
 ・
弁当を食べる余裕があった。 ・私用電話ができた。 ・トイレに行けた。

弁護士 芦原修一