この裁判例①は既存社員の解雇の事案です。そして、内定取消しにも応用できますので判決を整理して紹介します。
結論から言うと、解雇は有効で会社が勝訴しています。
清算手続きに伴う解雇の要件
「解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効となるところ、会社が解散した場合、会社を清算する必要があり、もはやその従業員の雇用を継続する基盤が存在しなくなるから、その従業員を解雇する必要性が認められ、会社解散に伴う解雇は、客観的に合理的な理由を有するものとして、原則として有効であるというべきである。しかし、会社が従業員を解雇するに当たっての手続的配慮を著しく欠き、会社が解散したことや解散に至る経緯等を考慮してもなお解雇することが著しく不合理であり、社会通念上相当として是認できない場合には、その解雇の意思表示は、解雇権を濫用したものとして無効となるというべきである。」
これをまとめますと、「清算手続きにより会社が解散する場合には会社が消滅するのだから従業員を雇用するベースがなくなるので、解雇は原則として有効である。」となります。
もっとも、「手続きが不誠実であるなど手続き的配慮が著しく不合理、不相当な場合には例外的にその解雇は無効である。」としています。
清算手続きによる解散の要件は満たしていた
解散するなら原則として解雇は有効です。
そこで清算手続きが法的に正しく進められたかを検討します。
本来、清算手続きのためには会社の経営が悪化したことの立証は不要ですが、解雇のための偽装的な清算ではないことを示すためか、経営悪化についても認定しています。
そして、株主総会決議など清算手続き上求められている法律要件を満たしていることを認定して、「会社を解散する必要性があった」と認めています。
つまり原則としてこの解雇は有効であるとしているのです。
会社の経営状況
裁判所によれば「被告会社の営業区域におけるタクシー需要が減少していること、それに伴って被告会社のタクシー事業による営業収入が減少し、平成19年度及び平成20年度と2年連続で営業損失を計上し、平成21年度も更に営業損失が拡大する見込みであったこと、平成20年度以降債務超過の状況にあったこと…」とのことです。
こうした認定をしてもらうには、決算書と業界全体の景気を数字で示すことです。
本件はタクシー会社の件でしたのでタクシー協会が当該営業区域における全体の売上がまとめていました。
手続きの要件も満たしていた
会社は、1月28日には会社を解散することが取締役会で決まったにも拘わらず、2月9日の説明会でその旨を従業員に告げず、その後に事業所を閉鎖してから解散と解雇を告げました。
このことについて裁判所は「このような会社の対応に手続的配慮を欠く面があったことは否定できない。」としています。
他方、裁判所は「本件組合との団体交渉において、会社の厳しい経営状況について具体的に説明するとともに、賃金改定ができなければ会社の存続に関わる旨説明するなど、本件解散及び本件解雇前に会社の存続に関わる厳しい経営状況であること等については具体的な説明をしており、原告等が被告会社のこのような経営状況や賃金改定ができない場合に会社の存続が危ぶまれること等について何ら知らされることなく、本件解散及び本件解雇に至ったというものではない。」としており、ある程度の配慮をもって手続きを進めたものとしています。
そして会社が従業員らの再就職あっせんも可能な限り行っていたことを認定したうえで、このような悪化した経営状況下でできることはしており、「手続き的配慮が著しく不合理、不相当とまではいえない。」としました。
この裁判例の結論と枠組み
以上により、この解雇は有効とされました。
重要な事情
事前の交渉
賃金改定案を提示するなど1ヶ月に2回の交渉をしています。
解雇の通知
2月8日に解散決議をしたあと、翌日9日に解雇を通知しています。
必ずしも解散決議前に解雇を通知する必要はないことを示しています。
事後の交渉
解雇通知をした直後に2回交渉をしています。
解散、解雇が決定したあとは決まったことなので長期にわたり説明をしなくてもそれまでで説明が尽くされていさえすれば解雇も有効になることを示しています。
再就職のあっせん
再就職のあっせんをしていますがうまくいかなかったようです。
しかし、裁判では再就職のあっせんをしたことが評価されており、結果が伴わなかったことは仕方がないとされています。
経済的手当て
経済的手当ての有無について言及はありませんので、おそらくなかったと思われます。
経済的手当てが解雇の正当性を基礎付けるため不可欠ではないことを示しています。
内定取消しへの応用
この裁判は既存社員の解雇ですので内定者と同じには考えらえませんが、経営悪化に伴う清算手続きにおいて自身には落ち度がない労働者との関係を解消するという点では共通しています。
重要なのはコロナウイルスの影響で経営悪化したことを客観的に示すことです。
これはコロナウイルスの影響単体だけでなくても良く、これまでも悪化しつつあったとしてそれと併せての悪化であると示しても構いません。
要は現在から将来に向けて会社の存続は赤字続きで危ぶまれることを示すのが必要なのです。
次に、いきなり解散、内定取消しの通知をするのではなく、事前の丁寧な説明は一度は必要です。
また、可能であれば別会社への就職のあっせんをしておけば手続き的に配慮したといえます。
そして、不可欠ではないものの幾らかの経済的手当てを出すことによっても手続き的に配慮したといえます。
おわりに
細かい要素についてここまで挙げてきましたが、直感的にどう思いますか。
私の印象は、会社がした手続きは終始丁寧だなというものです。
苦しい時ではありますが、清算手続きにおいて内定取消しをする場合にも丁寧に手続きを進めることで、こうした事後的な裁判において負けることはなくなります。
弁護士 芦原修一