「内定取消しを撤回して欲しい」
内定取消しをしたあとに内定者からこんな請求が来た場合、どのように対応するべきでしょうか。

もう一度考え直して採用するというのであればそれはそれで構いません。
この請求を一蹴するなら弁護士に相談する必要もありません。
問題となるのは、条件を変えて採用する場合です。

給与を減額する場合

給与を減額すれば何とか雇用し続けられるという場合、その条件を提示すること自体は構いませんが、法的には少しややこしくなります。

・本来の内定 ⇒ 内定取消し ⇒ 内定者が内定取消しを受け入れた
・新たな給与条件での提案 ⇒ 内定者が提案を受け入れた ⇒ 新内定

こうした二段構えの法的枠組みになります。
後々に争いを再発させないためにもこれらの流れを明記した確認書を作成して会社と内定者双方が署名押印するべきです。

ここで会社側から一方的に給与を減額した新たな条件を内容とする内定を出してはいけないのか、という疑問が出てきます。
給与の減額は労働条件の不利益変更なので会社が一方的にすることはできません。
したがいまして、電話や口頭でフワッと給与の減額を告げて、何となく入社してもらうというのは止めてください。
後で争いになったら元々の給与額との差額分を支払わされることになります。

正社員から契約社員に変更する場合

これも労働条件の不利益変更ですので会社が一方的に決めることはできません。

・本来の内定 ⇒ 内定取消し ⇒ 内定者が内定取消しを受け入れた
・契約社員として期限を定めて働く条件での提案 ⇒ 内定者が提案を受け入れた ⇒ 新内定

このような二段構えの法的枠組みになります。
ここでも、後々に争いを再発させないためにもこれらの流れを明記した確認書を作成して会社と内定者双方が署名押印するべきです。

ただし、この条件変更はあくまでも雇用の期限を定めることにあり人件費を減らせるわけではありません。
そうすると、後に争いになって本当は内定者が内定取消しを受け入れていなかったとされたとき(このように判断されることがままあります。)、「内定取消しを可能な限り回避する努力をした」とはいえないおそれがあります。

複数の内定者のうち1人だけを救済して内定取消しを撤回するのはいけません

タイトルのとおりです。
1人だけが内定取消しの撤回を懇願してくると情にほだされるかもしれません。
しかし、1人だけを救済したら、後々に他の内定者と争いになったときに「なぜあいつだけ入社させたんだ」となります。

内定取消しを正当化するには「人員選定の合理性」が必要であり、内定者の中で差をつけた場合、明確で客観的な基準が必要となります。
その基準の合理性が否定されれば、他の内定者すべてについて内定取消しが無効となります。

それとは異なり、内定者全員について内定取り消しをしておけば、「人員選定の合理性」が問われることはありません。

したがいまして、よほど必要でない限りは複数の内定者がいる場合には全員の内定を取り消す方が無難です。

弁護士 芦原修一