最近はコロナウイルスの影響による内定取消しが社会問題になっていて、私の立場からは会社側の弁護士としていかにその問題を解決するかという視点で見ています。
それとは別に内々定の取消しというのも一部問題になっていて、それについても説明をします。
一般論
内々定が取り消される場合は次のとおりです。
- 学歴や経歴を詐称していた
- 単位不足により卒業できなくなった
- 重度の健康悪化
- 重大な違法行為の発覚
- 事故・災害その他の理由により業績が悪化した
1.から4.は内々定者に責任がある場合ですが、この記事ではこの内々定者には責任がない 5. 事故・災害その他の理由により業績が悪化した について検討します。
内々定では労働契約は成立しない
内定とは異なり、内々定では労働契約は成立しないというのが一般的な見方です。
もっとも、労働契約の成立については表面的な言葉だけで決まるのではなくその内容によって決まります。
したがって、例えば4月入社の学生に1月に内々定を出したという場合は微妙であり、会社にとっても学生に対してそれ以上の就職活動はしないものと確定的に期待し、学生にとっても入社が確定的であるとの認識を持っていて不思議はありません。
そうするとそれは言葉では内々定でも実質的に評価して内定であり労働契約が成立しているとみなされる可能性があります。
あとは次のような考慮要素があります。
1)入社手続きが具体的に進んでいたか
2)「内々定」以後も内々定者は就職活動をしていたか
3)「内々定」以後も何らかの選考手続きが予定されていたか
こうした考慮要素を踏まえて労働契約が成立したか否かが判断されます。
損害賠償責任は発生しうる
もっとも、内々定として労働契約が成立せずに内々定の取消しが許されるとしても、会社に損害賠償責任は発生することがあります。
内々定とはいえ、ある程度その会社で働き続けることへの期待は生じているわけで、その期待を一方的に破棄したとみられるおそれがあるのです。
高等裁判所の裁判例では、内々定について労働契約の成立は否定したうえで、内々定というのが取り消される可能性があることを告げなかったとして、それは労働契約成立過程の途中であっても生じていた信頼関係を裏切るものであり、会社に対し22万円の慰謝料の支払いを命じました(福岡高裁平成23年2月16日判決)。
また同じ会社について、同様のケースで会社に対し55万円の慰謝料の支払いを命じた高等裁判の判決もあります(福岡高裁平成23年3月10日判決)。
しかしこのケースでは内々定者が裁判中にも他の会社に就職できていなかったものであり、それが考慮されての55万円という慰謝料額であると分析されています。
これらのケースでは、内々定が6月に出され、10月に内定式が予定されていたところ、直前の9月末に内々定の取消しがなされていて、会社の不誠実な対応も目立っていたのでこれらの判決が出されたものと考えます。
以上を踏まえると、内々定の取消しの場合には高額の慰謝料を支払うことにはなりませんが、一定額の支払いは覚悟する必要がありそうです。
なお、採用内々定の取消しに対して起こされた損害賠償請求訴訟については「採用内々定の取消しは期待権侵害 – 裁判例⑫(2010年)」で検討しています。
弁護士 芦原修一