結論
解雇無効とされました。
本事例の整理解雇の要件
1)人員削減の必要性、2)解雇回避努力、3)解雇対象者選定の合理性、4)解雇手続の相当性、の4要件です。
裁判所の検討
1)人員削減の必要性はなかった
「本件についてみると,被告は平成27年度及び平成28年度ともに黒字を維持しており,平成28年度の売上は平成27年度よりも少ないものの平成26年度よりは多く,また,3000万円を超えているから,原告に従事させる業務はそれなりにあったと推認でき,人員削減の必要性は見出し難い。Aは,仕事が減少した等と縷々供述するが,客観的にみて,それを裏付ける状況があるとは言い難いうえ,そもそも過去2年ほどの間,日曜や祝日,正月や夏季,連休期間等を除き,ほぼ毎日現場での作業に原告を従事させていたにもかかわらず,突如として業務がなくなるという状況も想定し難い。」
「かえって,被告が原告に自宅待機を命じたのは,割増賃金の請求を受けてからわずか10日ほど後のことであることや,割増賃金の請求を事実上放置していたこと等の本件の経緯に照らせば,被告は割増賃金の請求を受けたため原告に自宅待機を命じ,解雇に至ったとの疑いを抱かれてもやむを得ないものと言わざるを得ない。」
裁判所は、人員削減の必要性を真っ向から否定しています。
ここまで述べるということはもはや業績悪化を偽装しての解雇だと言っているようなものです。
2)解雇回避努力と3)解雇対象者選定の合理性は認められたが…
「被告の企業規模からすれば,解雇回避努力としてなし得る努力は乏しく,また原告以外に解雇対象者がいない以上,人選の妥当性は問題とならないものの…」
一応、2)解雇回避努力と3)解雇対象者選定の合理性は認められましたが、おまけのようなもので、そもそも1)人員削減の必要性がまったくないとされている以上、これらの要件の検討は無意味と言っても過言ではありません。
解雇手続の相当性
「被告は,自宅待機を命じた後,何らの経過報告等もすることなく3ヶ月ほど経過して突如本件解雇をしたから,原告との間で何ら誠実な協議もしていない。。」
手続き的配慮がまったくありません。
一度も説明、協議をしていないと手続きの相当性が認められるはずがありません。
この裁判例の結論
以上により、この解雇は無効とされました。
重要な事実
業績悪化を偽装しても裁判所には真実が明らかになる
このようにある従業員のことが気に食わないからといって解雇しても無効とされます。
これは当たり前なのですが、もし私が会社から相談を受けても、「そういうやり方は裁判所に通用せず無駄です。」と答えます。
おわりに
営業損失すら出ていない状況で整理解雇と言っても無駄であることだけが分かる裁判例です。
弁護士 芦原修一