30日目 確認済みの答弁書を弁護士が裁判所・申立人(代理人)に送付する

裁判所向けに4セット、申立人向けに1セット、自分用の手控えとして1セット

「この答弁書を提出しよう」となれば後は裁判所向けに4セット(正本として1セット、3人で構成される労働審判委員会向けに3セット)、申立人(従業員)向けに1セットを送付します。
弁護士に依頼する場合は、弁護士に任せておいて構いません。

申立人が答弁書に対する主張書面を送ってきたら

労働審判手続きにおいて交わされる書面は、申立人の申立書と相手方(会社側)の答弁書で完結することが多いですが、申立人代理人弁護士が答弁書に対してさらに主張書面を送ってくることがあります。
主張書面の内容が取るに足らないものであれば会社側が反論する価値はありませんが、場合によっては会社側からもさらに主張書面を出します。

また、労働審判手続き第1回期日の前日や当日に送ってくる場合がありますが、会社側がそれに対して主張書面を作成するにせよ事前の送付が間に合わないこともあります。
その場合には当日に持参しても構いません。

40日目 労働審判手続き第1回期日

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東京地方裁判所の受付まで

東京の会社の場合、労働審判手続きは東京地方裁判所で行われます。会社の場所によっては東京地方裁判所立川支部で行われますが、多くの場合は東京地方裁判所本庁で行われます。

東京地方裁判所本庁の最寄り駅は地下鉄霞ヶ関駅か桜田門駅です。
裁判所に入るときはX線での手荷物検査が行われます。
検査が終わればエレベーターで13階(労働専門部があるフロア)まで上がります。
第1回労働審判手続期日呼出状及び答弁書催告状に書かれている「民事~部」(東京地裁労働専門部は11部、19部、33部、36部)まで行き、受付を済ませましょう。

詳しくは次の記事をお読みください。

誰が出席するべきか

弁護士に依頼したからといって任せっきりで、弁護士だけが労働審判手続期日に出席することは絶対に避けなければなりません。

労働紛争はどのようなものにせよ細かな事実が積み重なって労働審判に至っているのでその事情に詳しい人がいなければ事実が明らかにならないからです。
それだけならともかく会社側の人間がいなければ、労働者側が主張する事実が真実であると裁判所に認められてしまいます。

また、労働審判手続きはその場で折り合いを付けて解決をする制度ですが、会社の決裁権者がいなければどう折り合いを付けて良いか判断ができません。
したがいまして、決裁権者の出席も必須です。
忙しくてどうしても出席ができない場合には常に電話で連絡がとれるようにしておきましょう。

労働審判の雰囲気と具体的な手続きの進み方

東京地方裁判所本庁における労働審判手続きは比較的堅い雰囲気ではありますが、厳粛というほど堅くはありません。

地方だと緩い雰囲気のところもありますし、大阪地方裁判所などに他の地方から行けば大阪弁がキツイ労働審判官(裁判官)がいて驚かれるかもしれません。

労働審判手続きの初めは、労働審判委員会の3人、双方の代理人弁護士と当事者が一堂に会します。
そして労働審判委員会から会社側・労働者側それぞれに対して申立書・答弁書だけでは分からない点について質問をして細かい点について明らかにしていきます。
争点を割り出してそれについての双方の言い分を聞いたあと、労働審判委員会の3人を部屋に残して退出します。
労働審判委員会が協議して争点についての判断をして法的にどちらが優位かの心証を固めます。

この後、労働審判委員会は一方だけを部屋に呼び出して心証を告げて、落としどころを探ります。
そして入れ替わって他方を呼び出して同じように心証を告げて落としどころを探ります。
これを何回か繰り返して互いの落としどころが一致すると調停が成立するのです。

もし落としどころが一致する兆しが見えなければ、今回は第1回期日ですので第2回期日を設定します。
先の話になりますが歩み寄りがなければ労働審判が出されます。

詳しくは次の記事をお読みください。

労働審判手続きにおいてどのように振舞うべきか

労働審判委員会は会社側の人間から直接事実を聴きたい

弁護士が横に付いているとはいえ、すべて弁護士が会社の主張を話そうとするのは良くありません。
なぜなら、労働審判委員会は会社側の人間から直接事実を聴きたいからです。
弁護士が代弁すると上手く話しができますが、それだけに事実に「お化粧」をして会社側に有利なように話すのではないかと思われます。
したがって、多少たどたどしくても全然構わないので、ご自身の言葉で事実を労働審判委員会に伝えるべきです。

私が代理人に就いて傍にいるときは、会社側が話すべきときはそのように促しますし、弁護士が代弁するべきときはそのようにしています。

多少の憤りは見せても良いが、怒りは見せない

会社側が怒りを露わにしてしまうと労働審判委員会が「いつもこれ以上に高圧的に従業員に接しているんだ」という印象を持ってしまいます。
そのような印象を持たれると良いことは何もありません。同じ事実でもそのような印象を前提にすると悪いように捉えられてしまいます。

したがって、感情よりも理屈で会社を有利に導くことが大切です。

もっとも、従業員が会社に理不尽に迷惑を掛けた事実について多少憤慨して見せることは良いと思います。
それ自体は労働審判委員会も「なるほど」と思うでしょうし、あまりにも落ち着いていて物分かりが良過ぎると「会社側の方が譲歩を迫りやすいな」と思わせてしまうからです。
労働審判手続きは労働審判委員会を間に挟んだ交渉ですので、押し過ぎても引き過ぎても駄目だということです。

労働審判は交渉である

「裁判所は真実を分かってくれる」これは2つの意味で誤りです。
1つは法的な枠組みに沿ってきちんと主張立証しなければ裁判所において真実は認められません。
もう1つは、労働審判手続きは勝ち負けを争うというよりもある程度の事実をベースとした交渉であり、労働審判委員会の関心は真実だけにはなく双方がどのように折り合いを付けるかにあります。

折り合いを付けるということはこちらも折れなければなりませんが、労働者側にも折れてもらわなければなりません。
それが労働審判が交渉ということなのです。
こちらが折れ過ぎると労働者側は嵩に掛かって攻めてきます。
逆にこちらが一切折れずに突っ走ると折り合いが付かず、労働審判手続きでは決着が付かなくなり通常訴訟に移行して紛争が長期化します。
その辺りのさじ加減をどうするか、というところを考えなければならないということです。

詳しくは次の記事をお読みください。

解決金の相場

解決金(和解金とも言います)の相場ですがケースバイケースであるのは当然です。
適切な解決金額を算定する場合、金銭請求事案(残業代請求や損害賠償請求)と解雇事案とで異なります。

金銭請求事案の場合は、例えば200万円を支払えと請求しているので、そのうちどれだけの請求に理由があるのかを割り出せば良いです。もし労働審判手続きで和解することなく通常の民事訴訟に進んだとして、そこでどのような判決が出そうかを予測しながら妥当な解決金額を見出します。

解雇事案は複雑です。
仮に解雇無効とされると職場に復帰するということになりますが、会社側・労働者側双方がそれを嫌がるので解決金を支払うという形になります。
しかし労働者の地位には値段は付いていないので果たして解決金がいくらかとするかが難しいのです。
私の経験上、解決金額の決定要素は次のとおりです。

  • 解雇の有効性(正当性)の程度
  • 勤続年数
  • (会社側・労働者側それぞれの経済状況)※極端な場合にのみ拾われる事情

何よりも解雇の有効性の程度が重要な要素です。
私の肌感覚ですが、7・3で会社側の主張に正当性があると判断されて初めて解雇が有効だとされます。6・4だと弱いです。

  • 解雇が有効の場合 – 1~3ヶ月分の月給額
  • 解雇が無効の場合 – 6~12ヶ月分の月給額

これはザックリとした目安です。
労働者の主張にまったく理由がなければ1ヶ月分又は労働審判で棄却の審判がされますし、逆に解雇にまったく正当性がなく勤続年数が10年以上となると12ヶ月分を超える解決金の提案が労働審判委員会からなされます。

以下のページでは労働審判手続きにおける和解金(解決金)の相場について詳しく書いています。お時間があればお読みください。

第2回期日~第3回期日

私の経験ではまとまる案件では第1回期日で調停が成立します。
会社がいくらかの解決金を支払うことも多く、それは受け入れ難いことではありますが、機会損失の観点からいつまでも労働紛争に関わるよりはサッサと解決しようと判断する社長様も多いです。
第2回期日、さらには第3回期日まで解決を先延ばしにするかは交渉の一環として考えられますのでここではこれ以上は申しません。

なお、私の経験だと、第1回期日で終了したのが80%以上です。3回まで行くと大抵どちらかが不満を残し和解が成立せずに労働審判が出される傾向が強いです。

労働審判手続きの回数については下のリンクで少し詳しく説明しています。

労働審判手続きの終了

労働審判手続きが終了するパターンは大きくは2つあり、1つは調停による終了、もう1つは労働審判による終了です。
前者は落としどころが一致して解決に合意したパターンで、後者は合意がなされず労働審判官が労働審判手続きの経過を踏まえて判断をくだすパターンです。

2015年から2019年までの統計で、双方に代理人弁護士が就いている場合のうち調停が成立したのが77%、労働審判が出されて確定したのが4%、労働審判に異議が出されて通常の民事訴訟に移行したのが10%です。なお、他の9%は24条終了(事案が労働審判手続きに適さない)と申立て取下げ等です。
下記が詳しい統計資料です。弁護士白書2019年版より抜粋しました。

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調停による終了

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調停により労働審判手続きが終了する場合は上記のような書面が作成されます。

互いに不満はあるでしょうが、妥協して落としどころが一致すれば調停が成立します。
握手して解決、というわけにはいきませんが、いつまでも紛争に時間を取られては機会損失が生じますので早期に和解をすることにはメリットがあります。
調停成立は会社・労働者双方が合意して成立するものなので、後で「やっぱり不満だから異議を出す」ということはできません。

このとき、裁判所書記官が部屋に入ってきて調停調書の作成に携わります。
労働審判官(裁判官)がその内容を読み上げ、会社側・労働者側双方が気になる点は指摘して適宜修正します。
確認が終わればこれで労働審判手続期日は終了となります。

労働審判による終了

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調停が成立せずに労働審判手続きが終了する場合は上記のような書面が作成されます。

労働審判とは和解が成立しない場合、労働審判委員会が協議して出す判決のようなものです。

判決と同じように2週間、会社・労働者から異議が出なければ確定します。
確定すると強制執行ができますので、お金を支払う側は労働審判に決められたとおり速やかにお金を支払わなければなりません。

労働審判に不満がある場合には2週間以内に異議を出すことができます。
異議を出すと通常の民事訴訟に移行してまた一から審理が始まります。
もっとも、移行した先の民事訴訟を担当する裁判官は労働審判に対して一定の尊重をする傾向にあります。
一般的には労働審判から大きく外れた判断はしないというのが私の印象です。
したがって、異議を出して紛争を長期化させることをお勧めしません。
もっとも、労働審判官の判断があまりにも不合理だという場合には、民事訴訟で結論が変わる可能性が高いので、むしろ積極的に異議を出すべきとも言えます。

おわりに

いかがだったでしょうか。労働審判手続きについて弁護士に相談・依頼した場合のスケジュール感を掴んで頂けたかと思います。
これは東京地方裁判所本庁における労働審判手続きを想定していますが、スケジュールそのものはその他の地方の裁判所でもほぼ同じです。

弁護士の立場から言いますと、答弁書の作成が一番大変です。
そして労働審判手続きに出席して口頭で主張することも大切なのですが、それも答弁書がベースになりますので、やはりしっかりとした答弁書が前提となります。

このスケジュールでは答弁書の作成に3週間ほどかけられますが、弁護士への相談・依頼が遅くなればなるほどこの期間は短くなります。3週間でもギリギリであることもありますので、これをお読みになられた会社関係者の方々には一刻も早く弁護士に相談されますよう、お勧めいたします。

弁護士 芦原修一

ここまでお読みになられてもご自身で労働審判の対応は難しいとお考えでしたら、下のページに移動して弁護士に依頼することをご検討ください。

追記:労働審判とその他の手続との違い

労働審判手続きは裁判所が主宰する公的な手続きです。
その他にも労働紛争を解決するための公的な手続きがありますので、労働審判とそれらの手続との違いを説明します。

労働審判とあっせんとの違い

労働紛争を解決するための公的な手続きとして「あっせん」があります。
もしかすると、労働審判の申立書を受け取った方の中には、事前にあっせん手続きを経てることもあるかもしれません。

まず、あっせん手続きと労働審判とは法律上、何らつながりがある手続きではありません。
仮にあっせん手続きに参加しなかったからといって労働審判で殊更不利に扱われることもありません。

あっせん手続きでは、各都道府県の労働局における紛争調整委員会が当事者の間に入って、双方の主張を踏まえて調整をし話し合いを促します。
弁護士が労働者の代理人になった場合にはこのあっせん手続きを使うことはまずありません(私は見たことがありません)。
なぜなら、あっせん手続きには何ら強制力がなく、双方が合意しなければあっせん案を提示することすらできないからです。
つまり、会社と労働者がちょっとした行き違いで揉めた程度であれば、このあっせん手続きで仲直りをして解決することが考えられますが、感情的にももつれていることがほとんどですので、解決することは難しいでしょう。

これに対して労働審判では、仮に会社側が手続きを無視して欠席すれば労働者の主張通りの労働審判が出されてしまいます。
そして、その労働審判に対しては2週間以内に異議を申し出れば民事訴訟に移行しそこで決着を付けられますが、労働審判手続きを欠席したという会社側の態度から「労働者をいじめるブラック会社だ」という印象を裁判官に持たれてしまいます。
したがって、労働審判手続きについては会社としても丁寧に応じざるを得ません。

以上のとおり、労働審判とあっせんとの違いの一つは、「労働審判手続きでは手続きへの参加を事実上強制される」です。
つまり、仮にあっせん手続きを無視しても、労働審判手続きを無視してはいけないのです。

次に、あっせん手続きは純粋な話し合いの場ですので、あっせんを申し立てた時点では労働者側も会社と徹底的に争おうとはしていません。
しかし、労働審判となると裁判所における手続きであり、きちんと決着を付けたいという意思が感じられます。
また、あっせん手続きにおいて労働者側に弁護士が就いていることはほぼありませんが、その逆に労働審判手続きにおいてはほとんどの場合弁護士が就いています。
弁護士を代理人に就けるということは会社と争う意思が明確です。

以上のとおり、労働審判とあっせんとの違いとして、「労働審判手続きではあっせん手続きよりも労働者側の争う意思が強い」と言えます。

労働審判と民事訴訟との違い

労働審判制度が創設される前までは労働紛争については通常の民事訴訟で争われてきました。
しかし、労働紛争というのは民事紛争の中でも感情のもつれもあり長期化することが多く、短期間での紛争解決を目指して労働審判制度が創設されたという経緯があります。
労働審判手続きは原則3回の期日を限度としていて実際にも短期間で労働紛争が解決されています。

したがって、労働審判と民事訴訟との違いの一つは、「解決までのスピード」です。

次に、労働審判の申立てを選択できたのにあえて民事訴訟を提起したということは、労働者側には譲歩するつもりが余りないとも言えます。
労働審判手続きは裁判所における話し合いですが、あっせん手続きとは異なり双方の法的な主張を吟味してより合理的な主張をする方に有利な解決(和解)を目指す手続きです。
もっとも、話し合いによる解決ですのでどれだけ一方に理があるとしても、100 vs 0での解決というわけにはいかず、それぞれ少しづつは譲歩しなければなりません。
民事訴訟を提起するということは、その少しづつの譲歩でさえ嫌がって法的に認められそうなものはすべて認めてもらおうという姿勢が伺えます。

したがって、労働審判と民事訴訟の違いとして、「民事訴訟では労働審判手続きよりも労働者側の争う意思が強い」と言えます。

最後に、民事訴訟では最終的には判決が出されて確定するともはや蒸し返しはできず強制執行が可能になる点で紛争解決機能としては優れています
これに対し労働審判では、当事者間での調停が成立しなくても労働審判が出されますが、2週間以内に当事者双方又は一方から異議が出されると自動的に民事訴訟に移行する点で、民事訴訟よりも紛争解決機能は劣ります。

まとめ

解決スピード手続きへの参加強制紛争解決機能労働者の争う意思
あっせん★★★(1回)
労働審判★★(3回)★★★★★★★
民事訴訟★★★★★★★★★
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