「裁判所は真実を分かってくれる」これは2つの意味で誤りです。
労働審判のスケジュールと対応方法【会社向け】決定版
1つは法的な枠組みに沿ってきちんと主張立証しなければ裁判所において真実は認められません。
もう1つは、労働審判手続きは勝ち負けを争うというよりもある程度の事実をベースとした交渉であり、労働審判委員会の関心は真実だけにはなく双方がどのように折り合いを付けるかにあります。
折り合いを付けるということはこちらも折れなければなりませんが、労働者側にも折れてもらわなければなりません。
それが労働審判が交渉ということなのです。
こちらが折れ過ぎると労働者側は嵩に掛かって攻めてきます。
逆にこちらが一切折れずに突っ走ると折り合いが付かず、労働審判手続きでは決着が付かなくなり通常訴訟に移行して紛争が長期化します。
その辺りのさじ加減をどうするか、というところを考えなければならないということです。
労働審判というと裁判所の手続きなので「きちんと言うべきことを主張すれば裁判所は分かってくれる」と思いがちです。
しかしそれは間違いです。
もちろん言うべきことを主張することは前提です。
しかし裁判所、正確に言うと労働審判手続きを主宰する労働審判委員会は正しい方を勝たせるわけではないのです。
労働審判手続き全体の流れとスケジュール感を掴むには、次の記事をお読みください。かなり詳しく説明しています。
和解成立の例
このブロックは労働審判委員会の目線で読んでください。
第1回の期日が始まり、労働審判委員会が争点と双方の主張をまとめたあと、協議して法的にどちらの言い分を採用するべきかを決めます。
All or Nothingで決めるわけではなくトータルで「会社が言うことももっともだけど、この状況だと労働者もかわいそうだ」など7・3、6・4のような割合を見出します。
そのうえで双方を別々に呼び出し、ある程度の心証を告げて和解の可能性を探ります。
ここからが労働審判官(裁判官)の腕の見せ所です。
例えば、会社はまったく悪くない、会社はまったくお金を支払う必要はないという心証を得たとしましょう。
その筋で行くと、労働者に対して「あなたの請求は通らない。ゼロだ」と言って内定者が納得するでしょうか。
納得しません。
しかし「あなたの請求は本来は通らないと考えています。しかし事情も事情だから会社を説得しますよ。ただゼロという可能性もあるのでそこは予めご了承ください。」と言えば渋々それについては受け入れるでしょう。
次に会社を呼び出して、「ある程度は会社の言い分が正しいと考えているが、全面的に正しいとまでは言えない。給与の3ヶ月分を解決金として支払うのはどうですか。」と言います。
会社としては納得しないものの裁判官の顔をつぶすわけにもいかず、「では1ヶ月分なら支払います。」と答えます。
そこで労働者に対して「何とか頑張って会社に1ヶ月分は支払うことを認めてもらいました。」と告げると労働者としても仕方がないとして受け入れます。
こうして和解が成立します。
労働審判における交渉
以上をよく読まれた方はお気づきだと思いますが、労働審判官は会社・労働者に対してそれぞれ別のことを言っています。
労働者に対しては「通らない」
会社に対しては「3ヶ月分は支払わないと」
これをズルいと言うのは簡単ですがそういうものです。
仲裁者だけが双方の思惑を知っていて双方に対して別のことを告げることができるのです。
同じことを双方に告げるとどうなるかというと絶対に話がまとまりません。
なぜなら双方はそれぞれ有利な方にのみその前提を動かすからです。
大切なのはこのことを知っていることです。
これ以上は書きません
これだけでも話し過ぎました。
労働者が見ていると利用されますのでこれ以上は書きません。
弁護士 芦原修一
ここまでお読みになられてもご自身で労働審判の対応は難しいとお考えでしたら、下のページに移動して弁護士に依頼することをご検討ください。