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これは、(元)従業員からの残業代請求で訴えられた会社向けの記事です。
下の目次は、まさに弁護士が会社の代理人として残業代請求に対応するときの発想手順と同じです。こうした手順で個別の案件を分析します。
弁護士に依頼するメリットは、この手順を高速でこなせるところにあります。
かなりの力作ですので長い記事です。必要な部分を中心にテンポよく読み進めることをお勧めいたします。
残業代請求のパターンと解決までの見込み期間
(元)従業員が会社に対して残業代を請求し解決するまでのパターンは次のとおりです。なお、あっせん手続きを採る場合もありますが、解決が見込めない手続きですので省いています。
パターン | 解決までの見込み期間 | |
---|---|---|
① | 代理人弁護士から内容証明 ⇒ 解決 | 1~2ヶ月 |
② | 代理人弁護士から内容証明 ⇒ 労働審判 ⇒ 解決 | 3~4ヶ月 |
③ | 代理人弁護士から内容証明 ⇒ 労働審判 ⇒ 民事訴訟 ⇒ 解決 | 1年~2年 |
④ | 代理人弁護士から内容証明 ⇒ 民事訴訟 ⇒ 解決 | 8ヶ月~1年半 |
⑤ | (元)従業員から内容証明 ⇒ 解決 | 1~2ヶ月 |
⑥ | (元)従業員から内容証明 ⇒ 弁護士に依頼 ⇒ ①~④へ | 1~2ヶ月+①~④ |
⑦ | (元)従業員から内容証明 ⇒ 労働審判 ⇒ 解決 | 4~5ヶ月 |
⑧ | (元)従業員が労働審判申立て ⇒ 解決 | 3ヶ月 |
このように見ると内容証明の段階で交渉で解決するパターンもあれば、民事訴訟までもつれるパターンもあります。
これらを見ると、紛争の解決まで次のような段階に分けられます。
- 内容証明が届いて交渉 ⇒ 短期での解決(平均2ヶ月ほど)
- 労働審判 ⇒ 解決 ⇒ 中期での解決(平均4ヶ月ほど)
- 民事訴訟 ⇒ 長期での解決(平均1年ほど)
解決までの期間を見ると1が短いのでこの段階での解決を望まれる方が多いです。
ただ、2や3の裁判所での解決とは異なり、ある程度の相場観を前提としないことが多いのでその点で交渉での解決は難しいです。
もっとも、妥当な金額での解決さえできればこの1の交渉段階での早期解決が会社にとっては損失を最小限にできます。
2の労働審判ですと裁判官を始めとする労働審判委員会が裁判所という公的な場所で交渉をコントロールしますので、双方ともある程度譲歩し妥当な解決になることが多いです。しかも解決までの期間も交渉よりも2ヶ月ほど長い程度です。
したがって、もちろんケースバイケースですが、私のこれまでの経験上、労働審判での解決が適切だと考えます。
3の民事訴訟はもっとも法的に妥当な結論が出される可能性がありますが、何より解決までの期間が長くお勧めできません。これは(元)従業員側にとってもそうだと言えることですが。
残業代請求を受けたときの会社のリスク
残業代請求を受けると以下のようなリスクが生じます。リスクをゼロにすることは不可能なので、トータルのリスクを最小化することを常に考えましょう。
紛争が長期化するリスク
上のパターンを見るとお分かりのとおり、残業代請求を受けると民事訴訟までもつれる可能性があります。(元)従業員としても必死ですので交渉でまとまらなければ時間を掛けてでも金銭を取りに来ます。
代理人弁護士が就いたら、なおさら引かなくなります。
紛争が長期化すると、会社にとっては弁護士費用も掛かりますし、貴重な時間を奪われ関わる人間の機会損失が生じます。
支払額が跳ね上がるリスク
遅延損害金
未払賃金には原則年利6%の遅延損害金が付きます。これだけですと大したこともないと言えますが、退職後からは年利14.6%になってしまいます。例えば300万円の未払賃金を支払わなければならないとして、1年間経過すれば遅延損害金が43万8000円プラスされ支払わなければなりません。これは会社にとって経済的なダメージが大きいです。
これを踏まえると、早期に解決した方が良いということになります。
付加金制度はあるがリスクはほとんどない
付加金とは、訴訟において会社の賃金未払いが悪質であると認定された場合に、未払い分を上限として課される罰金のようなものです。例えば300万円の未払賃金があれば付加金として300万円の支払いが命じられることがあります。
ただし、この付加金については支払いを防ぐ方法があります。抜け道のようなものではなく合法的に防げますので堂々と主張できます。他の法律事務所のウェブサイトではこの付加金が大きなリスクのように書いているところもありますが、リスクはほとんどありません。
他の従業員が不満を持つリスク
最終的に幾らかの残業代を支払わなければならない場合がほとんどです。社長ご自身が支払い手続きをするのであれば社内にその情報が拡がる可能性は低いですが、それでも何となくの雰囲気や何かのきっかけで知られることもあり得ます。
そうなると、真面目に働いて時間内に業務を終わらせる優秀な従業員は残業代を受け取れず、ダラダラと残業する不真面目な(元)従業員だけが残業代を受け取ることとなり、優秀な従業員ほど不満を持つことにもなりかねません。
また、支払う金額も決して安いものではありません。
このように、他の従業員が不満を持つリスクが生じます。
会社全体の秩序が乱れるリスク
他の従業員がそれぞれ不満を持つだけでも会社にとってマイナスですが、さらに不満を持つ従業員同士が不満について話をし出すと、会社全体の秩序が乱れるようになります。
社長としても誠実に働いてくれている従業員ではなく、不真面目な従業員に多額の金銭を支払うというのは忸怩たる思いを持たれるでしょう。
他の従業員も残業代請求をするリスク
類は友を呼ぶと言います。多額の残業代を手に入れた(元)従業員が他の従業員や辞めた従業員を唆して同じように残業代請求をさせるのを何度も見てきました。そうすると1人あたり2、300万円が軽く飛んでいきます。
リスクを最小限に抑える
以上をまとめると、残業代請求を受けたときのリスクは、①多額の残業代、②解決までの期間の機会損失、③他の従業員への波及効果、です。
①は金額の大小であり、②および③は解決までの期間の長短です。
これを言葉に置き換えると、「~万円をいつまでの支払うか」となります。さらに言いますと、「~万円をいつまでに支払えばリスクを最小限に抑えられるか」となります。
残業代の額については次の対応方法で説明するとおり法的に分析して、紛争を裁判所に持ち込まれたときの金額の見込みを出します。そのうえで交渉、労働審判、民事訴訟で減らせるだけ減らすことになります。
解決への姿勢ですが、これは会社の雰囲気や社長の姿勢にもよります。早期に解決する方が長期化するよりも良いこともありますし、簡単には支払わないとして残業代の額が上がってもやむを得ないとする方が良いこともあります。
私が依頼を受けた会社には両方ありましたが、一般的には早期解決をして残業代の額を低く抑えることを第一に考えるべきだと思います。
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