懲戒処分が有効とされた裁判例

懲戒処分有効

1回の暴言・暴行 – けん責処分有効(NTTネオメイト事件)

 原告が派遣社員であるBに対し,プリンターの調子が悪いと申告したが,前日と当日に業者の修理が来ていたため,Bがそのことを指摘した。そうしたところ,原告がBの席に来て,「謝れ。」,「辞めてしまえ。」などと言いながら,同人の椅子を蹴るなどした。その後,Bの隣の席のTが仲裁に入ったため,原告は一旦自席に戻った。
 原告は,同日午後5時ころ,再びBの席に来て,名札を破いたり,Bのパソコンの画面を閉じるなどした

大阪地裁平成24年5月25日判決

この日1回だけの行為ですが違法性が認定されています。
パワハラという言葉は使われていませんが、正社員である原告が派遣社員に対して暴言・暴行を働いているのでパワハラと言っても良いです。

パワハラは一般的には注意指導が行き過ぎることで起こることが多いのですが、この事案では注意指導ではなく逆に派遣社員から指摘を受けたことに逆上して暴言・暴行を働いていて正当化の余地がありません。

 使用者の懲戒処分の選択については,企業秩序維持の見地から使用者の裁量が認められるのであって,当該懲戒処分に懲戒事由が存在し,社会通念に照らして相当性を欠く等裁量の範囲を超えてされたものでない限り,その効力を否定できないというべきである。
 原告の行為は,人材派遣社員に対する暴言等の言動により,職場秩序を乱す行為であるから,本件譴責処分には合理的な理由が認められる。また,原告の言動内容に加え,譴責処分が懲戒処分の中でも軽い処分であることにかんがみれば,本件譴責処分は社会通念上相当なものと認められる。

大阪地裁平成24年5月25日判決

けん責処分は懲戒処分の中でも軽い部類に入ります。
私なりのカテゴリー分けをしますと、最も軽いカテゴリーが戒告処分・けん責処分、次に軽いのが減給処分・出勤停止・降格処分、最も重いのが諭旨解雇・懲戒解雇です。

この事案の加害者の行為は注意指導を根拠としておらず業務上の必要性がまったくないことから悪質性が高く、最も軽い懲戒処分のカテゴリーに入るけん責処分が有効だと判断されたのも当然です。

ポイント計算

侮辱的な人格否定 ★★
相手を持ち物を壊すなど荒々しい動き ★★★
合計 ★5
戒告処分から減給処分を検討すべき
したがって、けん責処分を有効としたこの裁判例は妥当。

数多くの部下に対する長期的なパワハラ – 降格処分有効(M社事件)

(Bに対するパワハラ)

個人面談で原告からBに対して次のような発言がなされた。
 「仕事があっていない、お前は浦和では無理だ」
 「お前は周りの人間に迷惑を掛けている、申し訳ないと思わないのか」
 「今までどうせ適当にやって生きてきたんだろう」
 「手数料を稼いでないんだからやる気がないんだ、何年やってんだ、仕事があっていない」
 「お前の年収は幾らだ」
 「諸経費を考えて2000万円稼がないと合わない」
 「2400万円稼いでやっと黒字社員だ、それならいても良いよ」
 「2000万円稼げないと会社には必要ないんだ」
 「従来の研修でどうしようもないと判断したのが2人、その内の1人がお前だ」
 「12月までに2000万円手数料を稼がないと、会社を辞めると一筆かけ」
 「大阪支店で引き取ってもらえなければ退職の手続」
 「大阪に戻って別の会社に転職しろ」
 「おれ(原告のこと)は5000万から1億は稼ぐが、2000万円稼がないと、会社を辞めようと考えている」
 「9月6日に返事を聞く」
 「お前、入社4、5年して今半年やって200万しかできなくて、どうするって聞いたんだよ。2年目のやつ何て答えたと思う」
 「会社に居られない」
 「常務がこんだけ、譲歩してくれてるのに、それに対して答えもしないの。年収600万あったら4倍やんなかったら会社利益でないんだよ、いらないんだよ、そんな社員。6×4、2400万円出来なかったら、いらないんだよ、そんな社員」
 「お前、1年半余裕あると思うなよ、浦和で2000万やらなきゃならないんだからね、出来なかったら、そんな時にどうすんだよ。そん時に一番下(辞めますとのこと)考えなきゃ」

 原告は「お前の子供は幾つだ」、「お前の成績表を子供にみせたらもうわかるだろう、お前がいかにダメな親父かわかるだろう」との暴言を吐いた。さらに、B氏は、部会の席上、他の従業員が揃っている席で、名指しでペン等を放り投げるような威嚇を受けて、他の道を探せなどとまで言われた。

 会社が掲げるパワハラ例の「上司が部下に対し、教育、指導の名の下に言葉や態度による暴力」をしたものであり、「出来もしない執拗な要求で精神的に苦痛を与え」、「出来もしない目標を掲げさせて、あるいはノルマを与えて達成しなかった場合、部下を精神的に追い詰めること」というパワハラ例の全てに該当するほか、退職まで強要して、さらには子供まで持ち出し、B氏の人格を傷つけており、パワハラに該当することはもちろん、執拗な嫌がらせ、追い込みに終始し、その態様も度を超している。B氏はカウンセリングを受け、「うつ状態」との診断を受け、以後定期的にカウンセリングを受けるに至った。

東京地裁平成27年8月7日判決

すごくリアルですね。
経営者側に立つと数字の重要性が分かりますが、それをそのまま部下にぶつけてしまっています。
結果だけを示してその時点からすると途方もない目標を掲げてそれを達成しなければクビだと言っています。
また、業務と関係のない人格否定までしています。
暴行こそないもののパワハラによる暴言のオンパレードで、判決も会社が掲げるパワハラ例の全てに該当すると述べています。

(Cに対するパワハラ)

C氏は、「個人面談」で、A常務からは「3月までにできなければ辞めると書け」、「3000万のところ2800万にまけておいてやる」と言われ、原告からも「やれる自信がある奴はみんな書くんだ」と言われ、やむなく「2800万円できなければ、身を引きます」(退職約束文書)と書いた。
 その後、C氏の成績が上がらないことから、退職約束文書に基づいて被告を辞めるように原告からC氏に連絡があった。これに対し、C氏としては被告を辞めたくなかったので、当初2800万円と書いたが、頑張って3月までに2500万やるということをH氏を通じて、A常務と原告に伝えた。
 その後、H氏はC氏に対し、4月の人事のことがあるから本当に辞めるかはっきりしろという原告からの話を伝えた。これに対してC氏は「辞めるつもりはない。」とH氏に伝えた。
 
 平成24年4月の部会では、退職約束文書に関し、以下の言動があった。

 A常務「C、おまえは俺と約束したんだろう」
 原告「C、おまえはHに、2800万はできないけども、2500万だったらできるからいさせてくれと言ったけど、それもできてないだろ」
 C氏「あれ(退職約束文書のこと)は強要されたものじゃないですか。強要されて書かされたものじゃないですか」
 A常務「お前が書いたんだろ」
 原告「お前はすぐに書いたよ」
 C氏「いいえ、私はしばらく書きませんでした。書かずにずっと常務の顔を見ていたじゃないですか」
 原告「いや、すぐ書いたよ。書かなかった奴もいたけど、お前はすぐ書いた。」

 これは、C氏が約束した成果を達成できなかったことから、A常務及び原告が退職約束文書を根拠に執拗に責め、退職を促しているものであり、C氏を精神的に追い込み、苦しめるものであって、パワハラと認められる。

東京地裁平成27年8月7日判決

(Dに対するパワハラ) 

 D氏は、常務室に「個人面談」で呼び出されて、A常務及び原告から交互に「(成績)どうなっているのか、年は幾つか、家族構成、奥さんは働いているのか」、「あなたみたいな人がいたら、あなたが社長だったらどうしますか」等と言われ、その上で「独立する気ないのか、この状態だったら退職を考えたほうがいいんじゃないのか」と退職を強要された。

東京地裁平成27年8月7日判決

(Eに対するパワハラ)
 
 E氏は、部会の席上、他の従業員がそろっている中で、原告から名指しで、若いから他の道を探せと言われ、その後も、原告から名指しで、「お前、この業種にあっていないから辞めろ」との暴言に加えて、他の従業員に対して同調を迫る等のいじめを受けた。E氏も「個人面談」にも呼び出されて退職を強要されていた。

東京地裁平成27年8月7日判決

(F・Gに対するパワハラ) 

 F氏が原告のパワハラを部下に指摘していたところ、原告から、電話で50分程度、「おれは、首都圏各場所にスパイを配置している。横浜時代にお前のやっていることは掌握している。流通の一般仲介、流通業務企画部を掌握している、首都圏の絶対権力者だ、文句言わず働け」と地位を利用した脅しとも言える暴言を受けた。
 また、F氏は全体会合の中で、原告から名指しで、「浦和が成績不振だから、皆に謝ることはないのか」との嫌がらせを受けた。
 さらに、F氏とG氏は、原告から2名の部下を名指しで「お前のミッションは2人を首にすることだ」と言われた。
 F氏は、原告から「お前も今年がラストだ」と部下を退職させるよう強要された。

東京地裁平成27年8月7日判決

Bに対する暴言が数多くありましたが、C・D・E・F・Gに対しても数多くの暴言・嫌がらせがなされています。
共通しているのは、目標を達成できない部下に対して退職を強要したことです。

 原告の一連の言動は、役員補佐の地位に基づいて、部下である数多くの管理職、従業員に対して、長期間にわたり継続的に行ったパワハラである。原告は、成果の挙がらない従業員らに対して、適切な教育的指導を施すのではなく、単にその結果をもって従業員らの能力等を否定し、それどころか、退職を強要しこれを執拗に迫ったものであって、極めて悪質である
 原告の各言動によって原告の部下らは多大なる精神的被害・苦痛を被った。すなわち、B氏はカウンセリングを継続的に受けざるを得ない状況に陥った。C氏は退職約束文書を無理やり作成させられた上に、約束した成果を達成できなかったC氏は、退職約束文書を根拠に原告から執拗に退職を迫られた。また、原告は、D氏に対しても暗に退職を迫り、E氏には他の従業員のいる前でさらし者にして退職を示唆する発言をした。F氏及びG氏に対しては「どこにも行き場所の無い人の為に作った部署で、売上をやらなければ会社を辞めさせることがミッション」などという通常想定し難い理不尽な要求・指示を行った。のみならず、部会での原告の発言は、各営業部・営業室における従業員のやる気、活力などを含む被告の職場全体の環境、規律に悪影響を及ぼしたことも推認できる。
 部下である従業員の立場にしてみれば、真面目に頑張っていても営業成績が残せないことはあり得ることであるが、さりとて、それをやむを得ないとか、それでも良しとは通常は考えないはずである。成績を挙げられないことに悩み、苦しんでいるはずである。にもかかわらず、数字が挙がらないことをただ非難するのは無益であるどころか、いたずらに部下に精神的苦痛を与える有害な行為である。部下の悩みを汲み取って適切な気付きを与え、業務改善につなげるのが上司としての本来の役目ではないかと考える。原告自身も営業職として苦労した経験はあるだろうし、それを基に、伸び悩む部下に気付きを与え指導すべきものである。簡単に部下のやる気の問題に責任転嫁できるような話ではない。証拠調べ後の和解の席で、被告から「退職勧奨」を受けたことは当裁判所に顕著な事実であるが、これをもってようやく部下らの精神的苦痛を身をもって知ったというのなら、あまりに遅きに失する。
 被告は、パワハラについての指導啓発を継続して行い、ハラスメントのない職場作りが被告の経営上の指針であることも明確にしていたところ、原告は幹部としての地位、職責を忘れ、かえって、相反する言動を取り続けたものであるから、降格処分を受けることはいわば当然のことであり、本件処分は相当である。

東京地裁平成27年8月7日判決

この事案のポイントは次の3点です。
 ① 加害者が役員補佐という経営者に極めて近い立場であったこと。
 ② 多くの部下が精神的被害・苦痛を被り、特にB氏はカウンセリングを継続して受けなければならなくなったこと。
 ③ 会社がパワハラについての指導啓発をしていてハラスメントのない職場作りが経営上の指針であることを明確にしていたのに経営者に極めて近い立場の加害者がそれと相反する言動を取り続けたこと。

①については、会社には職場環境配慮義務としてのパワハラ防止義務がありますが、経営者に極めて近い立場であれば会社と一体となってパワハラを防止する義務があったと言えます。
②については、結果の重大性ということで単にパワハラをしただけで留まることなく、被害者たちはいずれも無視できない精神的苦痛を被りました。
③については、この会社が特にパワハラ防止を謳っていたのでそれに反する行為は特に厳罰の必要性があったと言えます。

降格処分は重い懲戒処分ではありますが、解雇にされなかっただけ加害者にとってマシな結論です。

ポイント計算

退職の強要 ★★
被害者が6人 ★★★
長期間・継続的 ★★★
経営者側に準じた地位 ★★
会社がパワハラ防止を謳っている ★★
合計 ★12
解雇を検討すべき
したがって、降格処分を有効としたこの裁判例は妥当。

度を超えた暴言の繰り返し – 諭旨退職処分及び懲戒解雇有効(ディーコープ事件)

 原告のB及びCに対する言動は,業務の過程で部下に対する指導の一環としてされたものと認められるものの,いずれも強い口調での罵声を伴うものであるし,Cに対しては年齢の割に役職に就いていないことを非難するような発言をし,Bに対しては,「お前,アホか」と言ったり,「私は至らない人間です」という言葉を何度も復唱させるなど,相手の人格や尊厳を傷つけるような言動に及んでいる。また,Bに対する「お前,クビ」「お前なんかいつでも辞めさせてやる」という発言は,相手にいつ仕事を辞めさせられてもおかしくないという不安を抱かせる内容であり,発言の前後の文脈を考慮したとしても,上司の地位を利用した理不尽な言動と評価せざるを得ない。
 このように,原告のC及びBに対する言動は,業務に付随してされたものである点を考慮しても,理不尽な言動により部下に精神的苦痛を与えるものであり,業務上の指導の範疇を逸脱した違法なものいうべきである。
 
 原告のE及びDに対する言動についても,業務の過程で部下に対する指導の一環としてされたものと認められるものの,同様にいずれも強い口調での叱責を伴うものであるし,Eに対しては「今まで何も考えてこなかった」「そんな生き方,考え方だから営業ができない」「お前は生き方が間違っている」などとEのそれまでの生き方や考え方を全て否定するような発言をしている上,「お前は丸くない,考え方が四角い」という話をして,Eが内容を理解できずに意図を尋ねてもまともに答えずに,丸と四角の絵を何度も描かせるなどし,その結果,Eは業務中に度々涙を流していたというのである。
 また,原告は,Dに対し,「お前は嫌いだ」「話しかけるな」などと発言し,Dが原告と会話をすることや部内のミーティングへの参加を禁止したり,Dが出社後会社にいることを許さず社外で一日過ごさせるなどの行動に及び,Dが休日子どもと遊ぶ写真をフェイスブックに投稿したところ,「よく子どもと遊んでいられるな」と発言するなどして,その結果,Dが精神的に耐え難い苦痛を感じ,適応障害に罹患するまでの状態に精神的に追い詰められていたことが認められる。
 このように,原告のE及びDに対する言動もまた,業務に付随してされたものである点を考慮しても,両名の人格や尊厳を傷つけ,理不尽な言動により部下に精神的苦痛を与えるものであり,業務上の指導の範疇を逸脱した違法なものいうべきである。
 
 したがって,原告の部下4名に対する言動は,就業規則72条8号が禁止する「理不尽な言動により精神的苦痛を与える」に該当し,被告の定める就業規則に違反する行為として,譴責等処分事由(同規則86条1号)に該当する。

東京地裁平成28年11月16日判決

強い口調での罵声「お前、アホか」というのは注意指導をしようとする意思がどこかに飛んでいて相手を攻撃しようとする意思が強く表れています。
「お前は生き方が間違っている」とは人格否定の発言であり、丸と四角の絵を何度も描かせるというのは書かされた者にとっては屈辱的です。

この事案では暴行こそなかったものの、継続的な暴言を複数人に対して投げています。
セクハラですと継続的な点はそれほど重視されませんが、パワハラですとダイレクトに被害者の精神を損なうので継続的であればあるほど悪質だと認定されやすいです。

 原告は,平成26年3月末にB及びCに対するハラスメント行為により被告から厳重注意を受け,顛末書まで提出したにもかかわらず,そのわずか1年余り後に再度E及びDに対するハラスメント行為に及んでおり,短期間に複数の部下に対するハラスメント行為に及んだ態様は悪質というべきである。また,原告による上記行為の結果,Eは別の部署に異動せざるを得なくなり,Dに至っては適応障害に罹患し傷病休暇を余儀なくされるなど,その結果は重大である。
 原告は,2度目のハラスメント行為に及んだ後も,自身の言動の問題性を理解することなく,あくまで部下への指導として正当なものであったとの態度を一貫して変えず,全く反省する態度が見られない。原告は,本人尋問において,1回目のハラスメント行為後のIらによる厳重注意について,「緩い会話」であったと評しており,この点にも原告が自身の言動の問題性について軽視する姿勢が顕著に現れているというべきである。また,原告の陳述書や本人尋問における供述からは,自身の部下に対する指導方法は正当なものであり間違っていないという強固な信念がうかがわれ,原告の部下に対する指導方法が改善される見込みは乏しいと判断せざるを得ない。
 このように,原告は,部下を預かる上司としての適性を欠くというべきである。

東京地裁平成28年11月16日判決

BとCに対するパワハラについて会社から厳重注意を受けたにも拘わらず、DとEに対してパワハラをしています。
既に改善の機会を与えられていたということでそれでもパワハラを繰り返したということでこの裁判例では、「原告の部下に対する指導方法が改善される見込みは乏しい」と断じられていますが、まったくそのとおりだと思います。

 さらに,上記のとおり,原告は,自身の部下に対する指導方法を一貫して正当なものと捉え,部下4名に対するハラスメント行為を反省する態度を示していないことに照らすと,仮に原告を継続して被告に在籍させた場合,将来再び部下に対するパワーハラスメント等の行為に及ぶ可能性は高いというべきである(このことは,原告を東京以外の営業所に異動させたり,グループ企業に出向させた場合にも同様に妥当する。)。被告は使用者として,雇用中の従業員が心身の健康を損なわないように職場環境に配慮する信義則上の義務を負っていると解されること,被告の所属するグループ企業においてはハラスメントの禁止を含むコンプライアンスの遵守が重視されていることを考慮すると,2度のハラスメント行為に及んだ原告を継続雇用することが職場環境を保全するという観点からも望ましくないという被告の判断は,尊重されるべきである。
 したがって,本件懲戒処分及び本件解雇は,客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当というべきである。

東京地裁平成28年11月16日判決

部下に対する指導方法が改善される見込みが乏しいので、どこで原告を働かせようとも再度パワハラをする可能性が高いです。
会社は職場環境配慮義務としてパワハラを防止する義務を負っていますので、懲戒解雇はやむを得ないでしょう。

ここの「本件懲戒処分」とは諭旨退職処分のことです。
諭旨退職とは諭旨解雇と字は似ていますがまったく異なる処分です。
起こったことの重大性を加害者に対して諭し納得させて自主的に退職するなら懲戒解雇とはしないというのが諭旨退職です。
この事案では加害者である原告が諭旨退職を拒否したので会社が懲戒解雇に踏み切りました。

ポイント計算

侮辱的な人格否定 ★★★
被害者が4人 ★
大声 ★
一度注意を受けたのにパワハラを繰り返した ★★★★
合計 ★9
降格処分から懲戒解雇を検討すべき
したがって、諭旨退職処分及び懲戒解雇を有効としたこの裁判例は妥当。

侮辱的な暴言と蹴り – 諭旨退職処分有効・懲戒解雇有効

 原告は,被告の事務局長として,他の職員に対し,その人格を尊重し,誠意をもって指導すべき立場にあったにもかかわらず,勤務時間中に事務所内で,事務職員Bに対し,手で肩を1回突くという暴行を加え,侮辱的な内容を大声で怒鳴り続けた上,Bに向かって走り込み,その身体に蹴り掛かるという暴行を加え,これらの暴行によってBに加療7日間を要する右大腿部及び右肩打撲の傷害を与えた。
 本件事件におけるBの言動は,原告から話に割り込まないように大声で怒鳴られたことから,気分が悪いから帰るなどと言い,原告から肩を1回突かれ,大声で怒鳴り続けられた後に「本音を吐いたわね。」などと言ったというものであり,原告の言動に照らし,特に非難すべき点があるとは認められない。
 Bは,それまでにも原告から大声で怒鳴りつけられ,罵られたことが何回かあり,本件事件での原告の言動によって,著しい精神的苦痛を被り,原告に対して恐怖心を持った。
 原告は,被告の事務職員として雇用された後,他の事務職員に対し,大声で怒鳴りつけたり,罵倒したりして,他の事務職員との和を乱すことが度々あり,事務局長に就任した際も,乙山理事長から,このような行為がないように諭されていた。
 原告は,本件事件の直後,乙山理事長らに対し,Bに対する暴行等を認める趣旨の話をしていたが,その後,これを否定するようになった。また,本件解雇までの間に,Bに対して本件事件に関して謝罪の意を示していない。

大阪地裁平成19年8月30日判決

 本件事件における原告の言動は,就業規則における懲戒事由である「素行不良,及び性的な言動など風紀秩序を乱したとき」(38条3号),「金銭の横領等その他刑法に触れるような行為をしたとき」(38条7号)に該当するものである。
 そして,前記のとおり,本件事件における原告の言動,Bの被害状況,原告の当時の職責,本件事件までの原告の同僚に対する言動,本件事件後の被告に対する言動等に照らすと,原告が,被告の事務職員として3年以上精勤して,職務熱心で,事務処理能力が高いと評価されていたこと,本件事件までに懲戒処分を受けていないことなどを考慮しても,原告に対して諭旨退職の懲戒処分をしたことが,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当性を欠くものとは認められない。

大阪地裁平成19年8月30日判決

この被害者Bは女性です。被害者が女性だからと言ってパワハラとしての悪質性が増すわけではありません。
ただ、加害者は被害者に蹴り掛かっていて右大腿部と右肩打撲の傷害が生じています。
被害者が「本音を吐いたわね。」と言った直後に蹴りかかったことからすると、両者は向かい合っていたと思われそれで正面から被害者の右脚あたりに蹴り掛かり被害者が転倒して右肩を床か机かで打撲したものと思われます。
男性が女性に対してこの態様で暴行傷害行為をしたことは悪質性の加重要素とされたと考えます。
会社への貢献度が高かったことと懲戒処分歴がなかったことが救いにならなかったのは、パワハラの域を超えた犯罪行為ですので情状の余地なしとされたのでしょう。

ポイント計算

明確な犯罪行為 ★★★★★★★★(業務時間内に職場で衆人の前での暴行)
身体的に劣位の者に対する暴行 ★
懲戒処分歴がないこと並びに会社への貢献度高い ☆
合計 ★8
降格処分から懲戒解雇を検討すべき
したがって、諭旨退職処分及び懲戒解雇を有効としたこの裁判例は妥当。

多くの同僚に対する暴行脅迫等 – 諭旨解雇有効

(和田への恐喝等)

 原告は、かつての上司である今川に挨拶をしようと他支店に赴いたところ、そこでその上司の所在をきちんと案内できなかった従業員に対して怒鳴った。
 それを間に入っていさめようとした和田に怒った原告は、その後、和田の自宅の電話番号を調べ夜間に無言電話を架けるようになり、自席の業務用電話機から電話を架け同人の妻に対し脅しをかけた。
 支店長の立会いのもと話し合いがなされたがその席でも和田に脅しをかけ金品を要求した。

大阪地裁平成8年7月31日判決

(生駒に対する嫌がらせ電話等)
 
 酒席での生駒の普通の言葉に立腹した原告は、その夜に生駒の自宅に電話を架けて生駒の妻を畏怖させた。さらに原告は、その後も昼間に自席の業務用電話機から電話を架け続けて生駒は自宅で電話機を使うことができなくなった。
 原告の右架電行為は、今川が原告に対し生駒への嫌がらせを止めるよう説得して、原告がこれを受け入れるまで続いた。

大阪地裁平成8年7月31日判決

(高木に対する恐喝行為)

 原告は、作業中の高木に対し照明をつけるよう命令口調で言ったが高木が拒んだため、激怒し「なんやとコラ、誰に言うてんねん。」と怒鳴りながら椅子を持ち上げてぶつけようとしたが周りに止められた。
 原告は、右事件後、自席の業務用電話機から高木の自宅に電話を架け、電話口に出た高木の妻に対し、会社での出来事を伝えたうえ、今から高木の自宅に向かうので、道順を教えるように申し向けたばかりでなく、右自席の電話機のワンタッチダイヤル機能に高木の自宅の電話番号を登録し、そこから、多数回にわたって高木の自宅に電話を架けた。
 原告はその後、許してほしければ妻、兄弟、親全員呼んで、全員で土下座して謝るか、誠意を見せろ、さもないと、高木の妻、兄弟、親全員を攻撃して全員廃人にしてやる、と高木に申し向けた。
 さらに、原告は高木に対して金員の支払を要求した。
 その後、原告は宴会の席で、高木に対し、「お前を許したわけではないが、しばらく休戦にしたろう。」と言い、結局、高木は右金員を支払わずに終わった。

大阪地裁平成8年7月31日判決

(西村に対する恐喝行為)

 原告は、西村と共に車で外回りに赴いた。西村が運転していたが方向転換の際、原告が持っていた紙コップからコーヒーがこぼれて原告に掛かった。
 西村は、原告に「大丈夫ですか。」と声をかけただけであったことから原告はその対応に立腹し、西村に対し金員を要求した。
 西村が拒絶する旨伝えたところ、原告は、その日の午後、自席の業務用電話機から西村の自宅に電話を架けて、電話口に出た同人の妻に対し脅しを掛けた。原告は、その後も西村の自宅に多数回にわたって電話を架け続けた。
 原告は、西村の面前で、西村の娘が通う中学校と高校に電話を架け、娘の父に迷惑を掛けられているものである旨を各学校の教師に伝えたほか、西村の自宅前に赴き、帰宅した同人に対し、誠意を見せろ、逃げ得は許さない、などと抗議し、さらに、同人宅の郵便受けに、同人を非難する内容のビラ数枚を投函していった。
 原告の西村に対するこのような嫌がらせは、原告が西村に対し、この件について終結する旨宣言するまで継続した。

大阪地裁平成8年7月31日判決

(獅子田に対する脅迫行為)

 原告は、所長の獅子田に対し千葉主査は無能であるから、所長室に置いて直接獅子田が指導すべきである旨を申し出たところ、獅子田は、それよりも原告を所長室に置いて、原告の行動がよく分かるようにした方がよい旨答えた。
 原告は、獅子田の右発言に立腹しある日、同営業所の所長室に突然入ってきて、獅子田に対し、「そう言うのであれば、今日からここで仕事をする。」と言ってきた。その後の話し合いで獅子田が原告を「お前」と呼んだことに激怒し、原告は獅子田がセクハラをしていると因縁を付け始め大声で怒鳴った。
 その後、原告は他支店の木村支店長にも獅子田がセクハラをしていると電話で伝えたため、獅子田は、同日、木村に状況を説明する羽目になったが、原告は、その間に獅子田の自宅に電話を架け、電話口に出た獅子田の妻に対し、獅子田がセクハラをしていると伝えた。

大阪地裁平成8年7月31日判決

(山添に対する暴行及び強要)

 原告は、乱暴な言葉遣いで山添を叱責していたが遂には殴る蹴るの暴行を加えた。
さらに原告は山添を恫喝した上、あらかじめ自ら作成しておいた「愛のムチありがとうございました。今後とも御指導よろしくお願いします。」との内容のメモを示し、その内容の文書を強要して書かせた。
 原告は、木村支店長から右暴行行為について、口頭で厳重注意を受け、その際、右支店長に対し、二度と誰に対しても暴力を振るわない旨の誓約書を作成し、これを提出した。
 そして、原告は、同月一一日、拒絶すると何をされるか分からないと畏怖している山添に対し、「甲野さんが私に暴力をふるった様に言われてますけど、あれは愛のムチです。暴力ではありません。今後とも甲野さんに御指導をお願いするつもりです。」との内容の文書を作成するよう強要し、同人が作成した右文書を木村支店長に提出した。
 原告は、山添に対する右暴行行為につき、平成六年一月二四日、大阪簡易裁判所において、暴行罪により七万円の罰金刑に処せられた。
 原告は、前記暴行行為の後も、山添に対する指導と称する叱責等を加えていたが、平成五年四月一三日、同人の勤務姿勢に改善が見られず、同人は東淀川営業所には無用の人物であるとして、転職希望調書を取得のうえ、同人の意思を無視して、拒絶すると何をされるか分からないと畏怖している同人を強要して、右調書に総務課への転職を希望する旨を記入させ、さらに、右調書を東淀川営業所の総務担当課長である松崎に提出させ、後に同人から右強要行為について注意を受けた事実を認めることができる。
(以下、同じような叱責、強要が続く)

大阪地裁平成8年7月31日判決

(向阪への嫌がらせ)

 また、原告は、山添をかばった向阪を中傷するビラなどを会社内に貼り出した。
 さらに、原告は、阪急電鉄の下新庄駅及び上新庄駅付近に赴き、右各所の電柱に合計六枚の右ビラを貼りだしたが、その日のうちに高橋らによって剥がされた。

大阪地裁平成8年7月31日判決

(高橋への嫌がらせ)

 原告は、高橋らがビラを剥がしたことに立腹し、「NTT東淀川営業所長の「高橋義昭」は憲法違反をした。自宅に抗議の電話をかけてください。」と記載のうえ、高橋の自宅の電話番号を付記したビラを作成し、右ビラ合計二六枚を、上新庄駅周辺、下新庄駅周辺及び高橋の自宅のある吹田市千里山周辺に貼りだした。

大阪地裁平成8年7月31日判決

これらはパワハラというより犯罪行為です。
犯罪行為が認定されれば懲戒処分が有効とされるハードルは低くなります。

この事案の加害者がする行為のパターンは2つあります。
1つは自宅への嫌がらせ電話です。とにかく執拗で無限的に電話をかけており脅迫は被害者家族にも及んでいます。
もう1つはビラ貼りです。事実無根の内容を記載して嫌がらせをしてます。ビラを貼る場所も社内社外とバラエティーに富んでいます。

念のため申し上げておきますと、会社はここまで我慢をする必要はありません。
ここに至るまでに懲戒処分をして良いです。

 前記認定の各事実によれば、原告は、多年にわたり、上司、同僚に対して嫌がらせ、恐喝、強要、暴行行為を重ねるなどして、被告会社の秩序風紀を乱し、職場規律の維持及び正常な業務運営を妨げてきたものであって、その間、上司からも再三、注意を受けながら、さしたる反省をすることなく経過してきたものであるというべきであるから、被告が、原告に対して就業規則六九条一四項(再三注意されてなお改悛の情がない)に該当すると判断したことは相当である。
 被告会社の就業規則上、被告会社が社員に対し懲戒処分をなすに当たり、社員の弁明を聴取すべき旨の定めはないことが認められるので、仮に、被告が原告に対し右弁明の機会を与えなかったとしても、そのことは、何ら本件解雇の効力に影響を及ぼすものではない。また、前記認定によれば、原告の各行為は、その内容及び態様並びにその回数等に照らし、原告の余りの無軌道振りや、原告の行為が被告会社の秩序風紀を乱し、職場規律の維持及び正常な業務運営を妨げたなどの点において、極めて著しいものがあるので、被告が原告に右弁明の機会を与えなかったとしても、それのみによって、直ちに被告による原告の解雇が違法無効となるとはいえない
 さらに、前記のとおり、原告には、被告就業規則所定の各懲戒事由に該当する事実があり、かつ、その行為の内容及び態様並びにその回数も、尋常ならざるものがあるので、被告において、原告に対し、懲戒処分として、極刑ともいうべき懲戒解雇を選択する余地も十分にあったというべきところ、被告は、原告に対し、諭旨解雇をなすに止め、原告に対し、退職金の八割を支給すること(この点は、被告会社の認めるところである。)としたのであって、本件解雇をもって、過酷と言うべき事情はなく、処分の公平・適正のいずれの観点からみても、これを違法無効と言うことはできない。また、以上によれば、本件解雇が解雇権の濫用であると言うこともできない。

大阪地裁平成8年7月31日判決

当然と言えば当然でして、諭旨解雇で済んでいるのが奇跡なくらいです。

なお、この判決では就業規則には弁明手続きに関する定めがないので、懲戒処分対象者に弁明の機会を与えなくても解雇の効力に影響はないとしています。
しかし、それはこの原告の行為の違法性が極めて高いからこそそうされたのであって、通常は就業規則に記載がなくても弁明の機会を与えておいた方がこうした解雇の有効性にプラスです。

ポイント計算

明確な犯罪行為であり逮捕されても不思議がないので解雇を検討するのが相当です。
その他の細かな加減要素を検討しなくても良いくらいです。
一応ポイント計算をしましょう。

明確な犯罪行為 ★10
被害者が5人以上 ★★★
長時間 ★★
長期間・継続的 ★★★
一度注意を受けたのにパワハラを繰り返した ★★★★
合計 ★22

懲戒解雇を2回しても良いくらい(実際はそんなことはできないがそれくらいの行為がなされた)。
したがって、諭旨解雇を有効としたこの裁判例は妥当。

パワハラについて、懲戒処分の基準と損害賠償請求の基準の違い

パワハラについてインターネットで検索すると色々な裁判例が出ます。
しかし、一言で「違法」と言っても懲戒処分の違法性と損害賠償請求の違法性は異なります。

懲戒処分の違法性は、パワハラ加害者と会社との間で争われます。
その基準は、一言で言うと「懲戒権の濫用」です。
 ① 懲戒事由に該当すること
 ② 懲戒権の濫用でないこと(労働契約法15条)
これら①②があってはじめて「懲戒処分は違法ではない」と認定されます。
これら①②についてはこの記事でかなり詳しく説明している通りです。

損害賠償請求の違法性は、被害者と加害者との間で争われます。会社も安全配慮義務違反で訴えられることがあります。
損害賠償請求の要件は次のとおりです(民法709条)。
 ① 故意又は過失
 ② 権利侵害
 ③ 損害発生
 ④ ②と③の因果関係
損害賠償請求では懲戒処分の有無は関係ありませんしその有効無効に左右されません。
パワハラだと認定さえされれば①と②が認定されますので、後はそれらと因果関係のある損害(③と④)が認定されさえすれば請求が認められます。

仮にパワハラ行為についての懲戒処分が違法無効だとされたとしても、被害者から加害者へのパワハラに基づく損害賠償請求が認められないということにはなりません。
それは、懲戒処分が違法無効という場合、パワハラがなかったことだけが理由になるのではなく手続きが丁寧に進められなかったとかパワハラの悪質性に比べると処分内容が重過ぎるということで違法無効になることがあるからです。

なお、日本の損害賠償実務では高額な損害賠償額が認められることは極めて少なく、高くても100万円以内に収まることがほとんどです。
多くの場合は20万円、30万円の世界なので費用倒れになることがほとんどですので、パワハラの被害者としてはお金が欲しいのでではなく何としても一矢報いたいという一心で請求しているものと推察します。

なお、これらとは異なりパワハラの加害者が、会社のした懲戒処分が違法だとして懲戒処分無効ではなく損害賠償請求をする場合がありますが、それは損害賠償請求の枠組みのなかで懲戒処分の違法性が争われます。

懲戒解雇と同時に普通解雇もしておく

懲戒解雇と普通解雇、どちらも会社がパワハラをした従業員を解雇することには変わりないので、違いを意識しないことも多そうです。
しかし、これらには大きな違いがあり、懲戒解雇が認められない場合でも普通解雇が認められることがあります。
そうした懲戒解雇と普通解雇の関係についての記事を上げましたので、こちらもお読みください。

雑感 ~大阪弁はパワハラとされやすいかも~

こうしてパワハラをした加害者に対する懲戒処分を判断した裁判例を見てみると、他の類型で裁判例を集めるときより大阪地裁の裁判例が多くなっています。
前橋地裁が1つ、東京地裁が2つ、大阪地裁が4つです。
実は私が労働事件のある類型の裁判例を集めるときの優先順位があります。
それは次のようなルールです。
 ① 高等裁判所 > 地方裁判所
 ② 東京地裁 > 大阪地裁 > 名古屋・さいたま・横浜・京都・神戸・広島各地裁 > 千葉・福岡地裁 > その他の地裁

①の根拠は高等裁判所の裁判例の方が地方裁判所のそれよりも先例的価値があるとされているからです。ただし、ピタッとくる高等裁判所の裁判例はなかなかありません。

②ですが、まず労働専門部を持っているのは東京地裁と大阪地裁です。
そして、一般的には東京地裁の裁判例の方が先例的価値があるとされていること、私自身が東京地裁で争うことが多いので同じ裁判所の裁判例を優先していることから地裁裁判例の中では最も優先順位が高いです。

名古屋地裁から広島地裁には労働集中部があります。専門部より規模は劣りますがそれでも集中的に労働事件のみを扱っているのでとんでもない判決が出されることが少ないです。
千葉地裁と福岡地裁には行政・労働集中部があります。ここでも行政事件と労働事件を集中的に扱っているのでここでもとんでもない判決が出されることは少ないです。

以上のようなルールで裁判例をピックアップしています。
さて、このルールなので東京地裁の裁判例が自ずと多くなるのですが、このパワハラの裁判例では大阪地裁の裁判例が多くなっています。
これはなぜか、推測すると大阪弁が理由なのではないかと思います。
同じ言い方でも大阪弁だと粗野で激しく攻撃的に聞こえます。

標準語 「お前、何してるんだよ」
大阪弁 「お前、何しとんねん」

標準語 「バカだろ」
大阪弁 「アホか」

どちらも言われれば嫌ですが同じニュアンスでも勢いが違います。
また、関西圏の人にとってのアホとそれ以外の地域の人にとってのアホは意味合いが違いますので、「アホか」と言われるとかなり侮辱的です。

そしてそれは同じ大阪弁話者にとっても同じです。多少は慣れていても全然気にならないとはならないのです。

会社の中のマネージメント側の人間に大阪弁話者がいればパワハラにならないよう気を付けた方が良さそうです(自戒の念を込めて)。

やはり大阪弁は攻撃的かもしれません(2021年3月24日追記)

「ネチネチと文句を言い始めて、大阪弁で“死ねボケが!”“なんで目標が達成できないんや”“ここから飛び降りろや”“ハエみたいにウロウロ飛んでるだけや、お前は””働く価値がない、生きる価値がない”などと罵倒するのです。あまりの剣幕に会議後、トイレで吐いてしまう同僚もいました」(同)

https://www.dailyshincho.jp/article/2021/03241700/

こちらは週刊新潮の記事です。
某上場会社の副社長のパワハラ問題を取り上げた記事ですが、大阪弁のセリフを引用していてパワハラとしての攻撃性が高いことを暗に示しています。
週刊新潮というのはゴシップを扱い大衆をターゲットにした雑誌ですが、大衆の感覚として大阪弁はキツイということでしょう。
改めて、部下に対して大阪弁で注意するときは過剰なものにならないよう注意しましょう。

ここまでお読みになられても解決の道が見えず、懲戒処分その他を含めたパワハラ加害者への対応についてお悩みであれば是非ご相談ください。お話を伺ったうえで今できることをすべてお話しいたします。


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