Clubhouseでお聴きくださったみなさま、ありがとうございました!
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1日目(終了)はじめに
・入社時には面接等スクリーニングを経て一定程度の信頼関係
⇒ その信頼関係を強めていく
・従業員が信頼関係を損ねる行為をしたら?
⇒ 放置せずに再構築する道を探る。
⇒ 裁判所の言う「注意指導をして改善の機会を与えた」
⇒ 最終的に解雇の有効性の判断要素となる。
・令和元年から2年の裁判例12を集めて分析
⇒解説がどんどん進むとこの表を見られなくなるので後のご参考に。
解雇の法的枠組み
⇒ 民627Ⅰ(労使対等)⇒労契法16条(労働者保護)
客観的に合理的な理由及び社会通念上相当
⇒ 裁判官で分ける人もいれば分けない人もいる ⇒ あまり気にしない
「注意指導をして改善の機会を与えた」⇒解雇権濫用の枠組みの中で判断
2日目(終了) 注意指導について
そもそも注意指導は必須なのか
原則、不可欠である。
例外、相当酷い行為。
被告会社が本件解雇をするまでに原告に対してした注意又は指導の内容は,使用者として適切なものであったとはいえないし,原告の執務態度等について改善すべき点があったとしても,適切な指導を行っても改善がおよそ期待できない状況に既に陥っていたとは認められない。」(①東京地裁令和元年12月17日判決 – 解雇無効) 類似裁判例⑤大阪地裁令和元年5月21日判決 – 解雇無効
・解雇手続きが始まってからは注意指導をしたが、行為時には注意指導をしていなかった。
・解雇=レッドカード 一発レッドは後に適切であったかが検証されやすい
・高額年俸であっても簡単に解雇できない。5000万円の年俸。
事実認識は正確に
「しかしながら…原告の認識が誤ったものであったとしても,Bから原告に対し,本件機器の届出時に製品標準書が必要とされていないことについて,原告の認識を正すための的確な説明,指導がされていたものとは認められない。」
「また,被告は,原告の同日の言動に対して本件警告書により警告を与えたと主張するが,Bは,原告の同日の言動について机を手でひっくり返すような動きをした旨供述する(証人B4頁)のに対し,Bが同日Cに対して送信したメール(乙6)には原告が机を蹴った旨の記載があるなど,同メールによる報告は正確さを欠くものといえる。他方,原告は同日Cに対して送信したメールにおいてBとの関係等について電話で話すことを希望していた(乙5)にもかかわらず,被告は原告から事情を聴くことなく一方的に警告書を送付しているのであり,本件警告書による警告についても,原告に対する適切な指導がされたものとはいい難い。」「そうすると,被告の指摘する原告の言動は,指導等により改善の余地があったものというべきであり,本件解雇の有効性を基礎づける客観的合理的理由に当たるということはできない。」(④東京地裁令和元年10月17日判決 – 解雇無効)
・従業員に認識の誤りがあったならば会社側はそれを正す義務がある。
・会社側は事実の把握を正確にし、そのためには従業員からの聴き取りをすることで一方的な注意指導にならないよう心掛けるべきである。対話の必要性。
具体的かつ明確に
B部長が原告に対し,平成29年7月12日に注意を行っているとしても,日当の二重請求や出張の事前申請を怠ったこと等についてのものであり,営業先を訪れていないこと自体の注意ではなかったこと(乙43),その後のCによる確認等(乙45等)は,本件懲戒解雇に至る一連の調査におけるものであって,原告が営業先を訪問していないことに関する注意を受ける機会は,本件懲戒解雇の際が最初であったと見られること,それまでに原告が同様の行為によって何らかの処分を受けた事実も見当たらないこと,以上の事実が認められ,これらの事実からすれば,原告が配偶者を通じるなどして各営業先に働きかけを行ったこと(このこと自体は争いがない。),原告が全ての懲戒事由を否定していたこと等被告が指摘する事情を考慮しても,上記(1)認定の懲戒事由によって懲戒解雇にまで至るのは重きに失し,社会通念上相当であるとは認められない。(⑥大阪地裁令和元年12月12日判決 – 解雇無効)
・ただただ注意指導を経たら解雇が有効になるというものではない。
・ピンポイントでその行為を指摘し注意指導しなければならない。
途中で根負けせずに根気強く注意指導を続けること
平成27年9月に実施された職員現況等調査の回答が被告理事長から□□園長に伝えられて以降は,原告の言動等に対して,□□園長からの細かな注意,指導を行わなくなったと認められることや,原告が本件解雇以前に懲戒処分を受けたことはないこと(被告代表者17頁)からすると,原告の□□園長らに対する言動に,仮に不適切な部分があったとしても,被告が主張するように□□園長が原告に対して度重なる注意,改善要求をしていたとは認められないのであって,原告には,十分な改善の機会も与えられていなかったというべきである。(⑨東京地裁令和2年3月4日判決 – 解雇無効)
・従業員と信頼関係を再構築するためには逃げてはならない。向き合い続けること。
やはりこまめに注意指導を
原告は,Bらから複数回面談を実施され,書面による業務改善指導をされて,改善が求められる点を具体的かつ明確に指摘されて指導を受けたにもかかわらず,指導内容が具体的でないなどとしてこれに真摯に向き合わなかったものというべきである。そして,原告がリーガルカウンセルとしての職務を遂行する十分な能力と適格性があることが本件雇用契約の内容となっていたことに照らせば,原告に懲戒処分歴がなく,原告の再就職が困難であることを考慮しても,このような原告に対して被告が解雇を選択したことについて,社会通念上不相当であったとはいえない。」(⑩東京地裁令和2年6月10日判決 – 解雇有効) 類似裁判例⑧大阪地裁令和2年3月3日判決 – 解雇有効、⑪東京地裁令和2年6月19日判決 – 解雇有効、⑫名古屋地裁令和元年9月27日判決 – 解雇有効
・このとおり具体的かつ明確に改善点を指摘して指導をしておけば会社が最後まで信頼関係再構築に努力したと認められやすい。
小括
・信頼関係の再構築という観点から、一方的でなく対話により注意指導をすること。
・事実の把握は正確に
・具体的かつ的確に
3日目(最終回)懲戒処分との関係
注意指導と併せて懲戒処分を適切に
第1審原告は,反省と改善の機会を十分に与えられている。すなわち,第1審被告は,第1審原告が本件業務指示に従わず,改善が見られないことから,まず,軽い懲戒処分(譴責)を発している。通常であれば,譴責とはいえ,正式な懲戒処分が発せられたのであるから,本件業務指示に従わなければより重い懲戒処分(懲戒解雇を含む。)が発せられることも予測可能である。出勤停止処分が発せられた場合についても,同様に,更なる懲戒処分が予測可能である。通常であれば,譴責や出勤停止処分の後の第1審原告には,何らかの改善がみられるはずであり,相応の改善がみられれば,第1審被告も解雇には踏み切れなかったはずである。しかしながら,第1審原告は,譴責処分を受けても,その3箇月半後により重い懲戒処分(出勤停止処分)を受けても,どちらの懲戒処分後も,自省的な反省と改善がみられず,上司や元上司等に対する他罰的言動を繰り返した。そうすると,出勤停止処分の約3箇月半後に本件解雇に至ったという流れは,第1審原告本人以外の誰にも止めようがなかったものというほかはないところである。」(③東京高裁令和元年10月27日判決 – 解雇有効)類似裁判例⑧ – 解雇有効、⑫ – 解雇有効
・注意指導をこまめにすることは前提で、さらに限度を超えた行為・態度に出られた場合、直ちに解雇するのではなく軽い懲戒処分で警告することで改善の機会を与えたことになる。
・行為の悪質性によっては注意指導に留めてしまうと「懲戒処分をするほどではなかったんだ」という誤ったメッセージを送ってしまう。
注意指導をせずに懲戒処分をしてもダメ
裁判例① – 解雇無効 注意指導をせずに出勤停止処分をしたが解雇無効とされた事例 ・注意指導と懲戒処分は並列ではなく上下関係と見るべき。基礎としての注意指導が不可欠。
人事異動は必須ではない
裁判例③ – 解雇有効、⑧ – 解雇有効、⑩ – 解雇有効、⑪ – 解雇有効
・そもそも会社規模が小さくて改善目的での人事異動が不可能なことも
・労使関係の改善には効果的であることも多い。
・嫌がらせ目的と評価されるとマイナス。
その他
被害妄想で他人に責任転嫁する従業員
原告は,A社長から,繰り返し,注意や指導を受けた後も,1か月当たり数枚程度の翻訳しか行わず,また,作成した翻訳文は分かりにくい内容であった。また,原告は,そのような事実がないにもかかわらず,十分な根拠がないまま,書面が改ざんされたとの主張を始め,このような事実は見当たらないという説明を受けた後も,上記主張を繰り返した。
そして,原告は,A社長から,書類の改ざんがあったという主張をするために就業時間中作業をすることを止めて,本来の職務である翻訳業務に専念しないと,解雇をする旨の警告を受けた後も,反省の態度を示すどころか,更に,被告において,強姦等の犯罪行為が行われている噂を多数回聞いたなどと主張をして,被告の親会社にまで連絡した。原告は,その後,これらの行為について注意や指導を受けた後も,態度を改めず,反省の態度を一切示していない。
中略 書面の改ざんがあったと主張し続け,A社長等を巻き込み,その対応に相当程度の時間を充てさせたことからすれば,原告が繰り返し行った書面の改ざんに関する主張は,自己の作業量が著しく少ないことを正当化し,A社長らに嫌がらせをするなど不当な目的をもってなされたものと推認せざるを得ず,公益通報者保護法所定の公益通報に当たるとはいえない。さらに,本件解雇は原告の上記のような勤務態度等をも理由とするものであるから,本件解雇について,公益通報者保護法3条は適用されないというべきである。そして,上記のような原告に対しては,解雇をもって臨むほかないから,本件解雇には,合理的な理由があり,社会通念上相当なものというべきである。
したがって,本件解雇は有効であって,原告の請求にはいずれも理由がない。(②東京地裁令和元年10月25日判決 – 解雇有効)類似裁判例⑦甲府地裁令和2年2月25日判決 – 解雇有効
・根負けせずに対話すること。裁判例⑨ – 解雇無効 早期に注意指導を諦めた事例
・精神科への通院を勧めること。診断書も取ってもらう。
・雇用継続か解雇かの二項軸で捉えず、療養⇒休職⇒退職のルートも模索すること。
反省文・顛末書・始末書の書かせ方
原告は,始末書や顛末書の文面について,文面を指示されていない,自分で考えなさいと言われたので自分で考えて書いた旨供述していること(裁判例⑧ – 解雇有効)
・本人が何を書いたら良いかが分からないと言っても、抽象的な指示に留め具体的には本人の書きたいように任せるべき。そうしないと文書の信用性が損なわれる。
記録もこまめにつけよう
教育記録という原告の起こしたミスを記録した書類がある(裁判例⑧ – 解雇有効)
⇒ こまめに注意指導するだけではなくこまめに記録をつける。
客観的な証拠づくり
A主任は,平成30年1月18日の朝,防じんマスクを付けた原告と話をしていた際,原告の呼気からアルコール臭を感じた。被告代表者及びB部長代理が確認したところ,同様にアルコール臭を感じたことから,原告に対し,公共交通機関での帰宅を命じたが,原告は,バイクで帰宅した。
被告では,就業規則において,「酒気をおびて勤務しないこと」を服務心得の1つとして定めているが,被告は,上記出来事の際の原告の呼気に含まれるアルコール濃度をアルコールチェッカー等で客観的に測定したものではないこと等から,原告に対する懲戒処分を行わないこととした。」(裁判例⑧ – 解雇有効)
・この判断は正しい。
・アルコールチェッカーのように安価なものであれば直ぐに購入して次の機会に備えるべき。
まとめ
解雇の有効性について判断した裁判例
⇒ 解雇に至ったパターンについて判断した裁判例
裁判所は解雇ありきで事案を見ていない
⇒ 信頼関係を再構築する余地があったか
⇒ 逆算すると、あるべき信頼関係の再構築の方法が見えてくる
信頼関係が崩れかけるとき
⇒ 会社側(社長、幹部)にとっては面倒
⇒ しかし、対話を止めれば信頼関係の再構築の放棄と評価される。
そこで、根気強く対話を継続し注意警告を怠らない
⇒ 形式的ではダメ
⇒ 事実の把握を正確に
⇒ 一方的に叱りつけるのではなく従業員本人からも事実を聴き取る
⇒ 公平な形で弁明をさせること
会社側のスタンス
勤務態度が悪い、能力が不足している従業員
× 「どうしたら解雇できるか」
〇 まずはその従業員との信頼関係の再構築を目指さす。
信頼関係の再構築が行き詰まる
⇒ 解雇を検討
後々に解雇の有効性が争われた場合
⇒ 有効と判断されやすい。