2021年6月3日
皆さま、こんにちは!弁護士の芦原修一です。
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東京は本当に良い季節になりました。
風が気持ちよく陽光が我々を出迎えてくれているようです。
では早速、【法律ニュース】をお届けします。
最近ですとワクチン接種が気になるところですね。
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1.新型コロナウイルスと会社経営(法務)
-ワクチン接種と労務問題
2.民法改正が会社に与える影響と対策
-個人保証についての改正
3.最近の労働判例
-適切な注意指導・懲戒処分が普通解雇を有効とした事例
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◆1.新型コロナウイルスと会社経営(法務)
-ワクチン接種◆
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労働者が新型コロナウイルス感染症のワクチン接種を受けたことで健康被害が生じた場合、労災保険給付の対象となるか、あらかじめ知っておいてよいと思います。
健康被害にも幅はありますが、高熱が出たり、吐き気がしたりという症状が発生し通院の必要が生じ医療費が発生した場合を「健康被害」と定義づけましょう。
結論から申し上げますと、労災保険給付の対象にはなりません。
なぜなら、ワクチン接種は会社が強制するものではなく労働者の自由意思によるものであり、業務上の行為ではないからです。
もっとも、医療従事者と高齢者施設の従事者については労災保険給付の対象となります。
これらの従事者についてもワクチン接種は自由意思によるものですが、医療機関、高齢者施設においては新型コロナウイルス感染のリスクが高く、業務遂行に必要な行為だからです。
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◆2.民法改正が会社に与える影響と対策
-事業のための貸金等債務の個人保証についての改正◆
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改正前民法では個人保証について保証契約書を交わしていなければ保証契約は無効でした。
今回の民法改正ではそれがさらに厳格化されました。
保証契約書による保証契約の締結とともに、契約締結日からさかのぼって1ヶ月以内の日付の公正証書を作成しなければならなくなりました。
もし、契約業務において定期的に個人保証を取る必要のある会社ではこのことに注意してください。
もっとも、この公正証書作成義務は次の場合には適用されません。
1)法人保証の場合
2)法人が主債務者の場合の当該法人の取締役が保証人になる場合
3)法人が主債務者の場合の当該法人の過半数株主が保証人になる場合
4)個人事業主が主債務者の場合の当該個人事業主の共同事業者、当該事業に従事している配偶者が保証人になる場合
5)主債務が貸金等債務以外の場合
6)主債務が事業以外の目的で発生した場合
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◆3.最近の労働判例
-適切な注意指導・懲戒処分が普通解雇を有効とした事例◆
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東京高裁令和元年10月2日判決
1┃事案の概要
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本事案は、有名電機メーカーの子会社Y社(グループ会社の従業員の技能訓練を主業務とする技能訓練校)において、反抗的な態度に終始した従業員Xが二度の懲戒処分を受けたのち、普通解雇された事案です。
Xは、この技能訓練校Y社においてカリキュラムの作成、講師の日程調整、運営サポート、一般教養科目の講師業を担当していました。
この技能訓練校Y社にはグループ会社の従業員が派遣され技能訓練を受けますが、Xは派遣元会社への報告メールで自身が所属する技能訓練校への不満を書き連ねました。
上司からこのことを咎められ反省文の提出を命じられましたが、Xは反省文を提出しませんでした(業務命令違反?)。
この反抗的で無反省の態度を見て上司は、これ以上Xを外部と接触させる立場には置けないと判断し、社内で完結する部品仕訳作業に従事するよう命じました。
しかし、Xはこれにも従いませんでした(業務命令違反?)。
これらの業務命令違反が数か月にわたり継続したので、Y社はXに対してけん責処分を下します(懲戒処分?)。
しかし、Xは懲戒処分?のあとも業務命令に従わなかったので(業務命令違反?)、その4ヶ月後にY社はXに対して1日の出勤停止処分を下しました(懲戒処分?)。
それでもXは業務命令に従わなかったため(業務命令違反?)、この3ヶ月後にY社はXを普通解雇しました。
Xはこれを不服として解雇無効の訴えを起こしました。
一審の横浜地裁平成31年3月19日判決は解雇有効と判断し会社勝訴となりました。
そこでXが控訴したのが本事案です。
2┃注目ポイント
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反抗的な態度をとる従業員に対してどのような対応をするべきか。
3┃注目ポイントについての裁判所の判断
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Xはその反抗的な態度で業務指示に従わなかったことから最終的に普通解雇とされました。
したがいまして、争点は次の2つです。
1)業務指示は有効だったか。
2)有効だとして業務指示違反による普通解雇は解雇権濫用ではないか。
1)業務指示は有効だったか。
結論:業務指示は有効
「Y社の信用を揺るがす重大行為を行った上に,本件メール送信後,反省文の作成を指示されたにもかかわらず,引き続き,上司らを批判し続け,真に反省した態度を示していなかったことからすれば,Y社が,Xを従前の業務に戻した場合,本件メールの送信と同様の行為が再発し,Y社の信用を揺るがすおそれがあるため,従前の業務に戻すことはできないと判断したこともやむを得ない。」
「商品仕訳作業は,実技実習の準備作業として不可欠のものであり,従前から授業を担当する各指導員が行っていたものであるから嫌がらせ目的などではなく,商品仕訳作業自体の業務上の必要性も認められる。」
「商品仕訳作業は,従前から,各指導員が行っている作業であって(同上),一般的に,作業者が精神的,身体的苦痛を感じるものとは解されないことからすれば,本件業務指示は,手段としても,社会通念上相当である。」
「以上からすれば,本件業務指示は,業務上の必要性もあり,手段も相当であるから,懲罰目的又はいじめ・嫌がらせ目的であると推認することはできず,その他本件全証拠によっても,業務命令権の濫用と認めるに足りる事情もないから,本件業務指示は有効である。」
2)有効だとして業務指示違反による普通解雇は解雇権濫用ではないか。
結論:普通解雇は解雇権濫用ではなく有効
「本件業務指示は有効であるにもかかわらず,Xは,本件業務指示に従わず,商品仕訳作業を行わなかった。これは,Xが会社業務の運営を妨げ又は著しく協力しないといえるとともに,正当な理由なく,約1年に渡って上長の指揮命令である本件業務指示に従わず,その情状が特に重いといえるから,これは,本件就業規則違反であると認められる。」
「Xは,法廷で本件メールの送信行為について反省の弁を述べていること,本件譴責処分を受けるまで,約30年,親会社とY社において,懲戒処分歴なく勤務を継続してきたこと,Xが本件解雇当時,51歳で再就職が困難な年齢であることを考慮しても,Xが,懲戒処分を2回受けても,有効な本件業務指示に従わないという強固な姿勢を示しており,企業秩序を著しく乱していることからすれば,本件解雇は,社会通念上相当である。」
4┃評価
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反抗的な態度をとり会社秩序を乱したのはXですが、こうして労使間の信頼関係が崩れ始めたときにはまず会社が信頼関係の再構築を目指さなければなりません。
本件のY社はそのとおり、最初の懲戒処分をするまで数ケ月もも反省文の提出を促し続けました。
そこまでY社が根気強く待ったのにXは反省文を提出しなかったため、Y社はXに対しけん責処分を下したのです(懲戒処分?)。
信頼関係の再構築には、従業員の反抗的な態度があった場合、その反抗的な態度を改めさせるための会社の注意指導と猶予期間が必要です。
本件ではY社は、あきらめることなく反省文の提出を促し続けました。
それでも反抗的な態度が改まらなかったため、遂に最初の懲戒処分に踏み切ったのです。
注意指導し続けても反抗的な態度が改まらず、それを会社が放置しては「それで良いんだ」という誤ったメッセージを送ることになります。
したがって、本件のY社がこのタイミングでけん責処分をしたのは適切でした。
これで「このままだと信頼関係が再構築されませんよ」という明確なメッセージをXに送ったことになります。
これで反省の機会を適切に与えたことになるのです。
その後は事案の概要のとおりで、けん責処分の4ケ月後には出勤停止処分、さらに3ヶ月後には普通解雇とされました。
労使間の信頼関係の再構築について最初に会社側に歩み寄る責任があるとしても、会社側が適切な注意指導をしてさらに懲戒処分をして反省の機会を与えたならば、あとは労働者側がそれに従って反抗的態度を改める責任があります。
本件ではそれでもXは反抗的な態度を改めなかったので情状酌量の余地なしとして普通解雇が有効とされたのです。
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新型コロナウイルスのワクチン接種も徐々に進んでおり、収束が期待されますね。
みなさまとの交流の再開が待ち遠しいです。
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