皆さま、おはようございます!弁護士の芦原修一です。
今回の配信が遅くなり申し訳ございません。

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オリンピックもあっという間に終わりましたね。
暑さが最高潮になってきましたが水分をしっかり取るなどして体調管理にはご注意ください。

では早速、【法律ニュース】をお届けします。
今回は、これまで2つに分けていた新型コロナウイルスと民法改正を一つにして不動産賃料減額について解説します。

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1.新型コロナウイルス、民法改正と会社経営(法務)
   -不動産賃料減額について

2.最近の労働判例
   -2度の懲戒処分をされた従業員の普通解雇が無効とされた事例
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 ◆1.新型コロナウイルス、民法改正と会社経営(法務)
     -不動産賃料減額について◆ 
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不動産の賃料について、会社は貸主にも借主にもなることがあります。
不動産の賃貸は借主がその不動産を活用する料金として賃料が設定されます。
しかし、借主の起こした事情以外で予定どおり不動産を活用できない場合にも契約どおりの賃料を支払うというのは借主にとって酷です。
民法は、改正前にもそうした場合に借主が賃料減額を請求できることになっていました。

今回の民法改正では、このような予定どおり不動産を活用できない場合に借主が請求しなくても「賃料が減額される」という表現に変わりました。
具体的にどういう場合に自動的に賃料が減額されるかについては明記されていないものの、このように借主保護に傾いた表現になったということは最終的に裁判所で判断されるときには賃料減額が認められやすくなるということです。
したがって、ここでは「民法改正では賃料減額が認められやすくなった」ことを頭に入れておいてください。

では新型コロナウイルスの影響で店舗営業が制限されている場合、賃料減額の理由となるでしょうか。
ご存じのとおり国や東京都からの「営業自粛要請」や「営業時間短縮要請」は法的拘束力を持ちません。あくまでも「要請」であって「強制」ではありません。
しかし、感染者数が増え続けているこの状況下で堂々と営業するのは心理的にも厳しいですよね。
したがって、私の解釈としては緊急事態宣言下における「営業自粛要請」等の対象になっている店舗については賃料減額がされるべきと考えます。

もっとも、店舗の営業が法的に制限されていない現状、賃料減額について貸主と借主の立場では見解がズレることが多いと思われます。
こうした場合の多くは賃料支払い義務のある借主側からのアクションが起点となるものですが(貸主側から「減額しましょうか」と提案することはまずありません)、いきなり減額された賃料を振り込むとトラブルが大きくなりがちなので、まずは事情を説明して話し合いを提案しましょう。

貸主の立場であれば、借主からの賃料減額の申し入れについて、実際に休業を余儀なくされ補助金を給付されてもなお借主の赤字が続く事情があれば、借主の財務状況に応じて賃料減額に応じるのが合理的と考えます。

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 ◆2.最近の労働判例
     -2度の懲戒処分をされた従業員の普通解雇が無効とされた事例◆      
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東京地裁令和2年9月16日判決

1┃事案の概要
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本件は、被告みずほビジネスパートナー株式会社(以下、「Y社」)に雇用されていた原告(以下、「X」)が、Y社がXに対してした本件解雇が権利濫用に当たり無効であると主張して、Y社を訴えた事案です。
Y社は、みずほグループの人事管理に関するサポート、防犯警備および防災に関するサポート、給与計算・各種事務処理、教育研修、福利厚生、各種建物の設備の保守管理業務等を行う株式会社です。

上司である部長Aは、懇親会において、女性社員からXのセクハラ行為に関して申告を受け、当該女性社員を含む複数の女性社員およびXとの面談を行ったところ、XはY社に対し、いくつかの行為を認め謝罪する旨を記載した顛末書を提出しました。
Y社は、平成30年8月31日、Xに対し同日付で解雇する旨の意思表示をしました(本件解雇)。

実は、Xは、平成27年3月10日、窃盗を理由として7日間の出勤停止の懲戒処分(以下、「懲戒処分1」)を受け、さらに、29年5月22日、2名の女性社員に対するセクハラを理由として2週間の出勤停止の懲戒処分(以下、「懲戒処分2」)を受けていました。

本件では、こうした状況下でなされた本件解雇が有効かが争われました。、

2┃裁判所の判断
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Y社は、解雇理由としてXの業務ミスを36個挙げているところ、そのうちの27個がXの落ち度として認められる。
次に、Y社は非違行為として7個挙げており、このうちの1個がセクハラであると認められる(以下、「本件セクハラ」)。

しかし、業務ミスの大半は軽微なものであり、重大なミスも本件解雇の半年以上前のこととして、解雇を相当とする理由にはならない。
そして、本件セクハラの内容は、女性社員に対して複数回食事に誘ったりメールで連絡をしたほか、連絡先を渡したというもので、身体的接触を伴うものではなく、直接的に性的な発言でもないことすれば、原告の行為は問題ではあるものの、その程度は重大とまでは評価できない。
さらに、本件セクハラは懲戒処分2の2年前になされたことが分かっており、この点から懲戒処分を受けたにも拘わらず非違行為をしたということにはならず、改善の余地がないとは言えない。

以上によれば、本件解雇は、権利の濫用に当たり、無効である。

3┃評価
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セクハラについての懲戒処分の基準については「どのようなセクハラなら懲戒解雇が有効になるか – 裁判例を通して」(https://ashihara-law.jp/sexual-harassment-judicial-precedents/)」で詳しく解説しています。
本件は普通解雇の事案ですが、このページで解説している基準は大いに参考になります。

セクハラかどうかの判断について、強制わいせつ行為があったかどうかは相当重要な要素ですが、本件では食事に誘ったりメール連絡をしただけなので強制わいせつには当たりません。
身体的接触もなく言葉を掛けただけであり、その言葉自体も卑猥なものではなく違法性は低いです。
上下関係の利用がセクハラのベースにありがちですが、本件では多少の上下関係はあるもののXはそれほど高い地位ということはなく、躊躇なく上司にセクハラの事実を告げられるほどの地位であり、上下関係を盾に心理的圧迫を加えたというほどではありません。
以上を踏まえると、本件セクハラにより普通解雇をするというのはやり過ぎだと評価できます。

加えて、本件解雇の前には2つの懲戒処分がなされていますが、本件セクハラはその2年前になされていて発覚したのは本件解雇の直前ではあるものの、この時系列からすると懲戒処分を受けてもなお反省せずにセクハラをしたということにはなりません。
懲戒処分の後にはセクハラ行為はしていませんので、本件セクハラで懲戒処分をするとしても戒告処分が限界かと考えます。

業務ミスについては、そのミスが会社業務に支障をどれだけ生じさせたかが問われます。
本件では重大なミスもあったのですが、本件解雇の半年以上前のことでした。
その重大なミスが起こった時点でY社がXを懲戒処分をするなどしていれば、Y社の認識が正当なものと評価される余地はありました。
しかし、半年以上経過して重大なミスとして主張するのは本件解雇を正当化するために理由をかき集めたと見られてしまいます。

解雇が正当化されるには信頼関係が破壊されたかどうかが問われ、特に会社が適切に改善の機会を与えたかが問われます。
その点、本件では2つの懲戒処分を経ており一見、改善の機会を与えたかのように見えます。
しかし、形式的に懲戒処分を事前にしただけでは解雇が有効になるということではありません。
会社からすると、業務ミスでもセクハラでも会社に迷惑をかける行為として混ざりがちですが、それぞれ別種の行為ですので行為に応じて注意指導を丁寧にしなければ改善の機会を与えたことにはなりません。
本件のY社では、Xに対する注意指導はほどほどにしておいて面倒になったら懲戒処分をしていたようにさえ見えます。

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