2021年5月1日
皆さま、こんにちは!弁護士の芦原修一です。

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連休に入り予報では暖かい日が続きそうです。
コロナに感染しないように注意するのは当然として、差支えがない範囲で外に出掛け日々を楽しみたいです。

では早速、【法律ニュース】をお届けします。
気になるトピックだけでもお読みになるとためになると思います。

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1.新型コロナウイルスと会社経営(法務)
   -リモートワークとパワハラ

2.民法改正が会社に与える影響と対策
   -消滅時効の期間の変更

3.最近の労働判例
   -適切な注意指導に応じなかった従業員の普通解雇が有効とされた裁判例
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 ◆1.新型コロナウイルスと会社経営(法務)
     -リモートワークとパワハラ◆ 
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リモートワークとパワハラは一見関係がありません。
しかし、リモートワークはパワハラを引き起こしやすいです。

リモートワークは従業員に自宅で業務をさせますが、これは従業員のプライバシーを侵害しやすい環境です。
公私の区別をつけにくいのですね。

リモートワークが続くと上司は「自宅にいる部下」に対して指示命令をすることに慣れてきます。
そうすると、少し作業を進めたいというちょっとした気持ちで休日・時間外にメールを送って進捗報告を求めたり、作業の進行を求めたりしがちです。
「ちょっと聞きたいんだけど…」と電話を架けるケースもあります。

これらは、厚生労働省が定義付けるパワーハラスメント6類型のうち「過大な要求」及び「個の侵害」(プライバシー侵害)に当たる可能性があります。
つまり、根拠なく休日・時間外労働を強いてるのも同然であり、プライバシー侵害で精神的苦痛を与えています。

ケースバイケースですが、パワーハラスメントは上司が仕事に熱心なあまり部下にその情熱を押し付けることにより発生してしまうケースが非常に多いです。
情熱は持ち続けてもらうとしても、度が過ぎてパワーハラスメントにならないよう、会社全体で注意しましょう。

対策としては、業務用パソコンと電話を支給して、従業員個人のパソコンと電話に業務連絡をしないようにするのがシンプルで確実です。
そして、業務用パソコンと電話の電源は業務時間内のみ入れて、その他の時間帯には電源を落としておくことです。
リモートワークがなかったときには、緊急連絡先である個人の電話に連絡する以外に方法がなかったのですから、それと同じように個人の電話に連絡するほどの緊急性がある場合にのみ連絡をするようにしておきましょう。

こうしておけばメールについては上司が時間制限なく送信しても、部下が時間外・休日に対応に追われることはないので問題は生じません。

なお、休日・時間外労働と認定されてしまうと、割増賃金が発生しますのでその点でも注意すべきですね。

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 ◆2.民法改正が会社に与える影響と対策
     -消滅時効の期間の変更◆ 
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結論として、多くの債権の消滅時効期間は5年か10年に統一されたので、債権管理は楽になりました。

民法改正により債権の消滅時効の期間が変更され、次のうち早いときに消滅時効が完成します。
 ・主観的起算点(債権者が権利行使ができることを知ったときから5年)
 ・客観的起算点(債権者が権利行使ができるときから10年)

例えば、債権者が債務者に対して300万円の一括返済を約束させた貸金債権の返済期限が2021年5月31日であるとき、客観的起算点による消滅時効完成は2031年6月1日となります。
そして、通常は債権者は貸金債権の内容を知っていますから、返済期限の2021年5月31日に返済請求をすることができると知っています。
そうすると、主観的起算点による消滅時効完成は2026年6月1日となります。
したがって、早く到来する2026年6月1日に消滅時効が完成することとなります。

民法改正前は5年の商事消滅時効という制度があり、会社関係の債権は商事消滅時効が適用されていましたが、民法改正でその商事消滅時効も廃止されました。
もっとも、例で挙げた貸金債権のように債権者が当事者として契約締結をして返済期限が明らかな契約類型については、例のとおり主観的起算点が適用されますので従来どおり5年の消滅時効期間で債権管理をしておけば良いです。

そういうわけで貴社が当事者である取引契約により発生する債権については5年で債権管理をすることになります。
つまり、ほとんどの場合、主観的起算点が適用されます。
そして、客観的起算点の10年の消滅時効期間が適用される場合ですが、債務不履行による損害賠償請求権が考えられます。

例えば、医薬品を100箱納品する契約だったとして後になって90箱しか納品されなかったことが発覚した場合、納品されなかった10箱分について引渡し請求権及び損害賠償請求権が発生しますが、納品を受ける側にとってそれは契約締結時には分からなかったことです。
そのため、納品期限が2021年6月30日として、客観的起算点による消滅時効完成は2031年7月1日ですが、主観的起算点がいつかはケースバイケースです。

例えば、納品を受ける側が10箱不足していることを知ったのが2027年8月31日だとすると、主観的起算点による消滅時効完成は2032年9月1日となり、客観的起算点による消滅時効完成である2031年7月1日よりも遅いので、この場合は客観的起算点が適用されます。
それとは逆に、納品を受ける側が10箱不足していることを知ったのが2023年10月31日だとすると、主観的起算点による消滅時効完成は2028年11月1日ですので、客観的起算点による消滅時効完成である2031年7月1日よりも早いので、この場合は主観的起算点が適用されます。

また、民法改正前は民法において債権の種類に応じて短期消滅時効(1年から3年)が定められていましたが(例えば工事請負代金は3年、飲食店のツケは1年など)、民法改正によりすべて廃止されました。

なお、この民法改正は2020年4月1日から適用されますので、消滅時効については債権発生の元となる行為が同日以降になされた場合に適用され、2020年3月31日以前に債権発生の元となる行為がなされた場合には従来どおり旧法が適用されます。
この「債権発生の元となる行為」の判断は難しいので、必要に応じて弁護士に判断を尋ねてください。

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 ◆3.最近の労働判例
     -適切な注意指導に応じなかった従業員の普通解雇が有効とされた裁判例◆      
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  東京地裁令和2年6月10日判決

1┃事案の概要
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アメリカ法人を親会社とする衣料販売会社の日本法人Y社において、リーガルカウンセル(法務専門職)の職にあったXが、普通解雇は無効だとしてY社を訴えた事案。

2┃注目ポイント
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労働者の勤務態度が不良である場合の会社の注意指導義務、労働者の注意指導に応じる義務はどういう枠組みで判断されるか。

3┃注目ポイントについての裁判所の判断
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労働者が複数回の面談を経て注意指導をされたにも拘わらず、それに真摯に向き合わなかった場合には、解雇は社会通念上相当として有効である、とされました。

(判決抜粋)
「原告は,Bらから複数回面談を実施され,書面による業務改善指導をされて,改善が求められる点を具体的かつ明確に指摘されて指導を受けたにもかかわらず,指導内容が具体的でないなどとしてこれに真摯に向き合わなかったものというべきである。
 そして,原告がリーガルカウンセルとしての職務を遂行する十分な能力と適格性があることが本件雇用契約の内容となっていたことに照らせば,原告に懲戒処分歴がなく,原告の再就職が困難であることを考慮しても,このような原告に対して被告が解雇を選択したことについて,社会通念上不相当であったとはいえない。」

4┃評価
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労働紛争は労使間の信頼関係が崩壊しかかっている状態ですが、まず会社に信頼関係の再構築をすることが義務付けられ、適切な注意指導をして信頼関係の再構築への努力を尽くした場合には、労働者が注意指導に真摯に応じて信頼関係の再構築に努力しなければ、解雇は有効という判断がなされます。

労働紛争が起こった場合、「解雇を有効にするためには何をするべきか」という発想になりがちですが、そうではなく「信頼関係の再構築」を努力し、これ以上は努力できないというときに初めて解雇を検討するべきです。
そうしなければ、形だけの注意指導になってしまいますので、訴訟になったときに解雇が無効となりやすいです。

なお、懲戒処分歴がないという事情は、解雇に関する裁判例で労働者の汲むべき事情としてよく取り上げられます。
懲戒処分及び普通解雇をする際には、対象従業員の懲戒処分歴を考慮に入れるべきことを再認識させられた裁判例でもあります。

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新型コロナウイルスに負けたくないですね。
最近の世の中の動きはネガティブなものが多いですが、こういうときこそ自分の芯をしっかりと持って、前向きに生活できるよう意識し続けていきたいものです。

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