皆さま、こんにちは!弁護士の芦原修一です。

緊急事態宣言の延長が決まりましたね。
新型コロナウイルスの感染者数は減ってきてはいますがまだまだ予断を
許さないというところなのでしょうか。
私は自宅に籠っていてもあまり気にならない方ではあるのですが、それでも
こうした自粛ムードになると
天邪鬼なこともあってどなたかと飲み食いしたくなります。もう少しの我慢
ですね。

では早速、【法律ニュース】をお届けします。
気になるトピックだけでもお読みになるとためになると思います。
1.と2.はそれぞれ短めです。

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1.新型コロナウイルスと会社経営(法務)
   -従業員が新型コロナに感染したら
2.民法改正が会社に与える影響と対策
   -身元保証についての改正
3.最近の労働判例
   -降格処分の違法性が問われた事案(神戸地裁令和元年11月27日判決)
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 ◆1.新型コロナウイルスと会社経営(法務)
     -従業員が新型コロナに感染したら◆ 
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新型コロナウイルスと会社経営との関係を考えると多岐に渡るものなのですが、
そもそも「従業員が感染したらどうなるのか」ということが分かっていないと
いざというときに対応できないと思います。

感染者が出ると保健所の指示に従うことに尽き、治療に専念して頂くという
ことです。
気になるのはプライバシーの問題ですね。
プライバシーの観点からは、無限定に感染の事実を他人に知らせるべきでは
ないということになります。

もっとも、新型コロナウイルスに感染するということは生命の危険も生じます。
人の生命の価値はプライバシーに優先します。
したがって、感染した従業員と接触した可能性のある人に対しては
「感染者の氏名、行動経路」を知らせて感染可能性を知ることができるように
してください。
こうした通知の対象者には、自社の従業員もいれば顧客もいます。
もし感染者のプライバシーに配慮して通知しなければ、自社の従業員について
は安全配慮義務違反が問われる可能性があり、顧客については取引停止、
引いては損害賠償義務を負う可能性があります。

以上のように、自社の従業員が新型コロナウイルスに感染した事実は
プライバシーの保護を受けますが、他社への安全配慮義務とぶつかりますので、
状況と立場に応じてバランスをとる必要があります。

「プライバシー – 従業員が新型コロナウイルスに感染したとき、どのように
公表するべきか」
https://ashihara-law.jp/corona-virus-privacy-infected-employees/

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 ◆2.民法改正が会社に与える影響と対策
     -身元保証についての改正◆ 
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身元保証というのは、ある人が労働者として雇用されるに当たり、身元保証人
と会社との間で、その労働者が会社に損害を与えた場合、身元保証人が
代わって弁償するものです。

その保証期間が無限定ですと身元保証人に酷に過ぎますので、
「身元保証に関する法律」により最長で5年間、期間を定めなかった場合には
3年間とされています。

期間はこれで良いのですが、保証額が無限定なのも身元保証人に酷です。
そこで、今回の民法改正で身元保証契約時に極度額を定めることとなりました。
極度額とは限度額のことです。具体的な金額を定めなければなりません。

では極度額をいくらにするべきかですが、例えば10億円という額を決めても
無効と判断されるでしょう。
なぜなら、それは極度額が無限定というのに等しいからです。
実はこの極度額については目安というのがありません。

私が考えるに、その労働者の給料の1年間分が限度だろうと思います。
その程度の額が保証としての価値であり、それを超えると身元保証人が
予測できない額の賠償義務を負わせることとなり不当だからです。

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 ◆3.最近の労働判例
     -降格処分の違法性が問われた事案(神戸地裁令和元年11月27日判決)◆      
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1┃事案の概要
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本件は、東証一部上場の温水機器の製造販売業を営むA社が従業員Xに対してした
降格処分の違法性が問われた事案です。

XがA社のパソコンで証券会社サイトを頻繁に指摘に閲覧したこと、
その閲覧履歴の大半が勤務時間中であり、就業規則違反にも該当するとして、
A社がXの等級を降格し、それに伴い給与額を約6,000円減額する旨の処分を
しました(本件降格処分)。

Xは幹部ではなくその等級はそれほど高いものではありませんでした。

2┃争点
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本件降格処分が懲戒権を濫用した無効なものか

3┃争点についての裁判所の判断
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降格処分が濫用ではなく有効であるためには、その処分が客観的に合理的で、
社会通念上相当でなければなりません。

本件降格処分の理由は、業務時間内の証券サイトの閲覧に留まらず、
メールサイト、ニュースサイト、金融サイトの私的な閲覧です。
これらの私的閲覧は就業規則違反であることは明らかなので、本件降格処分は
客観的に合理的とされました。

社会通念上の相当性は、Xがしでかした私的閲覧について降格処分をすることが
重過ぎるか妥当かという観点から判断されます。

私的閲覧は2日に1回、1日15分の頻度で高頻度でと言えます。
そして、本件降格処分によるXが被った不利益は、月当たり約6,000円の減額で
Xについてそれほどの不利益ではありません。。

しかし、私的閲覧によりA社のパソコンにウイルスが感染するなどの具体的な
被害は出ませんでした。
X自身の等級はそれほど高いものではなかったので、A社に対する影響も
それほどではありませんでした。

さらに、本件降格処分前、Xが懲戒処分を受けたことやXの勤務成績が不良で
あったことはうかがえず、XもA社による注意喚起等で私的閲覧が禁止されている
ことを認識していたものの、Xに対する個別の注意や指導等はなく、
Xに対する処分として、降格処分の他に減給処分もなし得たが、この点について
A社内で十分な検討がされたことはうかがえないとしました。

これらの事情を考慮すると、本件降格処分は重過ぎるもので、社会通念上の
相当性を欠き無効であると結論付けました。

4┃評価
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この裁判では、懲戒処分の有効性について処分としては重過ぎ社会通念上の
相当性を欠くと判断されました。

懲戒処分が無効の方向に傾きやすい事実が、事前に注意喚起がされていない
ことです。
懲戒処分というのは会社内での刑事処分に匹敵しますが、本件はいきなりの
有罪判決をされたようなものです。
刑事処分ですと事案にも依りますが初犯だと重くても執行猶予判決とされること
が多いです。
しかし、初犯と言ってもそれまでに何度か逮捕されて釈放された事実があれば、
いきなり実刑判決が出されることがあります。

これと同じように、懲戒処分をするにしてもそれまでに一度は注意警告をして
「これ以上すると懲戒処分になるよ」ということを理解させておく必要がある
のです。
それを知っていてなお就業規則違反行為に及べば、それは懲戒処分に値すると
言えます。

したがいまして、事前に注意警告をしておくこと、できればそれをメールか
書面の形で残しておくこと、そのうえで反省が見られず繰り返し行為に及んだ
場合にはじめて懲戒処分を検討してください。

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まだまだ寒さが厳しくなる日々ですので、どうぞお身体にはお気を付けください。