皆さま、こんにちは!弁護士の芦原修一です。
配信済みのメールマガジンは次のページに掲載しています。
https://ashihara-law.jp/mail-magazine/
緊急事態宣言が解除されました。
とは言え、感染者数は減るどころか増えています…。
会食などで人と会いたい気持ちが強くなっていますが、まだまだ控えておかないと感染の危険がありますね。
先週末に都内各所に用事で出掛けましたが桜が満開で幸せな気分になりました。
そういった小さな幸せを少しずつ積み上げる時期なのかもしれません。
では早速、【法律ニュース】をお届けします。
気になるトピックだけでもお読みになるとためになると思います。
━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━
1.新型コロナウイルスと会社経営(法務)
-店舗・施設における来客制限
2.民法改正が会社に与える影響と対策
-定型約款に関する規定の新設
3.最近の労働判例
-従業員への注意指導を諦めたために解雇無効となった事例
━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
◆1.新型コロナウイルスと会社経営(法務)
-店舗・施設における来客制限◆
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
新型コロナウイルスの感染防止のために店舗・施設においては来客制限を余儀なくされています。
例えばユニクロでは、来客に対して次のお願いをしています。
1)マスクの着用
2)混雑時の入場制限
3)レジ・試着室での間隔
4)入場の際の検温並びに37度5分以上の客の入場禁止
こうした対策をとっていれば仮にユニクロの店舗で新型コロナウイルスが発生したと報道されても、ユニクロを責める風潮にはなりにくいです。
感染防止効果がどれほどあるかは誰にも分からないので、「感染防止効果があるだろう」と多くの人が考える対策をするのが法的観点から見た「対策」です。
衣料販売店ではこのような対策をとっていれば無難です。
しかし、病院ではどうでしょうか。
家族と言えども一般病棟においては面会禁止とされている病院がほとんどです。
これは、医療従事者への感染可能性を可能な限り減らすことで医療崩壊を防ぐという目的があるからです。
医療崩壊となれば新型コロナウイルス以外の病気の治療もままならず社会が崩壊しかねません。
したがって、このような徹底的な来客制限が許されます。
では、老人福祉施設ではどうでしょうか。
病院との比較で言いますと、仮に介護従事者が感染しても医療崩壊のようなダメージは生じません。
したがって、病院のような徹底的な来客制限の必要性はありません。
そして、施設入居者は高齢者が多く家族と面会していないと認知症が進行するおそれがあります。
そうすると、予約制にしたうえで人数制限をして混まないように配慮し、面会時にはアクリル板越しにするなどして入居者に感染しないように配慮して家族との面会をさせるのが適切だと考えます。
このように、これまでルール化されてこなかった状況について判断を迫られます。
こうした来客制限については、制限をして失われる利益と感染防止効果を天秤にかけて判断することが重要です。
—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
◆2.民法改正が会社に与える影響と対策
-定型約款に関する規定の新設◆
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
定型約款とは、大量の取引を処理するために予め定められた契約条項のことです。
JRや地下鉄に乗るときに私たちはいちいち契約を締結しませんが、改札に入り電車に乗れば運送約款に合意したことになります。
しかし、約款に「東京駅から新橋駅まで乗れば100万円」と書いていて乗車したとしても、それが有効になることはありません。
定型約款を細かく読み込む人などいませんので、消費者保護の観点から合理的な内容に限られます。
この例などは分かりやすいですがこうした解釈は明文化されてなかったので今回の改正で明文化されました。
定型約款は主に次の2点を満たす必要があります。
1)不特定多数を対象とする
2)約款として画一的に定めることが双方に合理的である
1)については、相手の個性に関係なく契約をすることであり、個性が重要な要素である雇用契約はこの点で定型約款には当たりません。
2)については、電車に乗る際にいちいち契約を締結するより予め定めた定型約款で合意したことにした方が双方に合理的です。
しかしフランチャイズ契約はフランチャイザーが作成した条項がフランチャイジーに不利益を与えないとは言えませんので双方に合理的とは言えません。
したがって、フランチャイズ契約は定型約款には該当しません。
定型約款に該当するとその内容が契約内容になるとともに、「相手方に一方的に不利益を課す条項」が無効となります。
この改正は主に消費者保護に力点を置いていますので、会社間取引については原則として定型約款に当たりません。
つまり、いわゆるBtoC形態の取り引きの場合に検討すべき事項だと言えます。
では、BtoB形態の取り引きが多い会社は何に注意するべきでしょうか。
それは、原則に立ち返って一つ一つの取り引きについて契約書により丁寧に合意し、特に双方又は一方の利益に大きな影響を与える条項については互いに認識したうえで契約を締結することです。
—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
◆3.最近の労働判例
-従業員への注意指導を諦めたために解雇無効となった事例◆
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
東京地裁令和2年3月4日判決
1┃事案の概要
━┛――――――――
保育園において保育士が解雇されたことについて保育士が解雇無効を訴えた事例。
2┃注目ポイント
━┛――――――――
保育士の反抗的・批判的言動が解雇理由として正当化されるか。
3┃注目ポイントについての裁判所の判断
━┛――――――――
反抗的・批判的言動が見られるようになってから早々に、園長らは保育士に対して注意指導をしなくなった。
そして、解雇に至るまで懲戒処分を受けたこともなかった。
そうすると、保育士の言動に不適切な点があったとしても、保育士には十分な改善の機会も与えられていなかった。
したがって、保育士の反抗的・批判的言動は解雇理由として正当化されず、本件解雇は無効である。
4┃評価
━┛――――――――
従業員が反抗的・批判的言動をするようになったときの対応は3つあり得ます。
1)注意指導する。
2)自由意思を尊重し組織に必要な言動として受け入れる。
3)放置する。
このうち3)がもっともダメな対応です。
この場合、上司は本来は注意指導するべきなのは分かっていても面倒になって放置することも少なくありません。
かと言って積極的にその言動を受け入れることもできません。
そこで、上司の頭の中では1)と2)の間をとって3)を選択するのですが、大間違いで3)を選択したら事後的に裁判所等からは2)として受け入れたものと評価されてしまいます。
労使関係は信頼関係により維持されますので、崩れかけたら再構築を試みなければならないのです。
すなわち、適切に注意指導をして従業員に改善の機会を与えなければなりません。
何かトラブルが起きたら直ぐに解雇を想定するのではなく、信頼関係の再構築をしてそれでも修復できなければそのときに初めて解雇を検討しましょう。
そうすることで、仮に解雇の有効性を争われた場合でも解雇有効と判断される可能性が高まります。
したがいまして、労使間のトラブルが起こった場合には面倒がらず根気よく注意指導を丁寧に繰り返してください。
—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+—-+
随分と暖かくなって参りました。過ごしやすい季節ですね。
許される限りで外に出て楽しみましょう。