プライバシーとは「本人にとって他人に知られたくない領域」

プライバシーというのは「本人にとって他人に知られたくない領域」のことです。
その領域を他人が詮索し暴こうとしたらそれは領域侵犯として違法となります。

コロナウイルスに感染したという事実はプライバシーに属する

結論から言うと、人がコロナに感染したという事実はプライバシーのに属します。

現在日本だけに留まらず世界でも毎日のトップニュースがコロナ関連です。
社会的にもっとも優先順位が高いトピックです。
そんなコロナに自分が感染したとすると社会的にマイナスと評価されるのではないかと恐れるでしょう。
実際にマイナスと評価することを肯定しているのではなく、そうした評価が予測されるということです。
そうすると誰にとってもコロナに感染したという事実は他人に知られたくありません。
したがって、コロナに感染したという事実はプライバシーに属します。

従業員がコロナウイルスに感染したときの会社の対応

では従業員がコロナに感染したとき、会社はその事実を本人以外の誰かに伝えても良いのでしょうか。場合分けして考えます。

同じオフィスの別の従業員ら

これは、コロナに感染した従業員のプライバシーと、別の従業員らの生命・身体の比較になります。
後者の方が明らかに重いので、同じオフィスの従業員らには事実を伝えなければなりません。
むしろ伝えなければ今度はその別の従業員らに対する安全配慮義務違反となってしまいます。
会社の安全配慮義務については、「コロナウイルスと会社の安全配慮義務」をお読みください。

伝えても良い事項

コロナに感染した従業員を特定できる事項です。
なぜならそれが分からないと別の従業員らはいつ感染した可能性があるかを絞り込めないからです。

異なるオフィスの従業員ら

これも、コロナに感染した従業員のプライバシーと、異なるオフィスの従業員らの生命・身体の比較になります。
異なるオフィスということで行き来があるかが分かりませんが、もし行き来してコロナにかかった従業員と接触していたら感染の可能性があります。
したがって、この場合も事実を伝えるべきです。

伝えても良い事項

コロナに感染した従業員が勤務していたオフィスで感染者が出たという事実に留めましょう。
なぜなら、そもそも行き来がなければ細かい事実を知る必要はないですし、行き来がある従業員に対しては個別に必要な限度でさらに事実を知らせれば足りるからです。

取締役・監査役

これは知らせなければなりません。
会社に関する重要な事実であり、この事実を知って適切な対応を採ることを期待されているのが取締役らだからです。
コロナに感染した従業員としても、取締役らに対してはこの状況下ではプライバシーが守られる合理的な期待は持てません。

伝えても良い事項

関係する事実一切です。

会社が入っているビルの管理会社

コロナに感染した従業員のプライバシーと、ビルに入っているテナント関係者全員の生命・身体との比較です。
明らかに後者の方が重いので、管理会社には事実を伝えなければなりません。

伝えても良い事項

従業員の一人がコロナに感染した事実とその従業員が勤務した日時です。
これさえ伝えれば後は事後的な対策が取れます。

感染が疑われる時期以降に来社した法人顧客ら

コロナに感染した従業員のプライバシーと、法人顧客らの生命・身体の安全との比較です。
後者の方が明らかに重いので、顧客らには事実を伝えなければなりません。

伝えても良い事項

単に来社した法人顧客らには、従業員の一人がコロナに感染した事実とその従業員が勤務した日時を知らせます。
コロナに感染した従業員と会議室等で身近に接触した法人顧客らには、氏名を含めた事実を知らせます。

業態が個人向けである場合(飲食店など)

この場合、個別に知らせることは困難です。
ではこの場合にウェブサイトなどで公表する義務があるかというと、法的にはその義務はありません。
しかし、後々感染経路が明らかになり会社が感染源ということが知られると、レピュテーションリスク(評判低下)が生じます。
そうした観点から、業態が個人向けの場合にはウェブサイトなどで公表するのが望ましいです。

伝えても良い事項

従業員の一人がコロナに感染した事実と、その従業員が勤務した日時です。

プライバシーの問題のまとめ

プライバシーは他人に知られたくない領域であり放っておいてもらいたいものです。
しかし、コロナウイルスのように他害性がある場合、放っておくわけにいかないときもあります。
したがって、以上のように伝える事実、公表する事実を限定しつつ、第三者を害することのないよう調整しなければなりません。

弁護士 芦原修一