すべて強制力を伴う規定

このたび新型コロナウイルスが感染症予防法(以下この記事では「法」といいます)の指定感染症となりました。
この法はその名のとおり感染症を予防するためのものであり、それに付随して一般市民に対する制約がなされることがあります。

新型インフルエンザ特措法と比べると、すべて強制力を伴う規定です
なぜなら、既に新型コロナウイルスに感染したか、感染した疑いが濃厚な場合に適用されるからです。
感染したのに「国は放っておいてくれ」というのは通じないということですね。

なお、新型インフルエンザ特措法に基づく緊急事態措置については、「緊急事態措置と一般市民との関係 – 新型インフルエンザ対策特別措置法」で説明しています。

検体の採取

法16条の3で知事は、新型コロナウイルスに感染したか、感染したと疑われる患者からの検体採取に応じるよう勧告できます。
最初は同意を求めますが、同意されない場合でも強制的に採取できます
感染の有無を確定させなければならないでしょうし、ワクチン生成のためにも必要な措置ということです。

健康診断

法17条により知事は、新型コロナウイルスに感染していると疑われる者に対して知事は健康診断を受けるよう勧告でき、勧告に従わない場合には強制的に受けさせることができます

就業制限

法18条2項により、新型コロナウイルスに感染している者について就業制限がされます。
新型コロナウイルスに感染している者は「感染症を公衆にまん延させるおそれがある業務として感染症ごとに厚生労働省令で定める業務」に就いてはならないとされています。

その厚生労働省令を調べたのですが新型コロナウイルスに定めたものは今すぐには見つかりませんでした。
ただ、前から感染症として指定されている新型インフルエンザについては、「①飲食物の製造、販売、調製又は取扱いの際に飲食物に直接接触する業務及び②接客業その他の多数の者に接触する業務」が就業制限の職種とされていますので、おそらく新型コロナウイルスについても同じように指定されているのでしょう。

そして就業制限の期間ですが、その保有するウイルスが消滅するまでとされています。

入院

法19条1項により知事は、新型コロナウイルスに感染している者に対して入院を勧告できます。
そして、勧告に従わない者に対しては、同条3項で強制的に入院させることができます

入院期間は、当初は72時間までで、法20条でさらに10日以内の入院を勧告することができ、その勧告に従わない場合にも強制的に入院させることができます

当然ながら期間の延長は完治するまで終わりません。
それからさらに10日の延長も可能です。
それからさらには必要な期間の延長ができますが、その場合には保健所に置かれた協議会の意見を聴かなければなりません。

患者の権利保護のため、当初の72時間を超えて入院させようとするときは、患者は代理人を出頭させて入院する必要のないことの証拠を提出できます。

なお、患者が新型コロナウイルスのウイルスを保有していないことが明らかになった時点で退院させなければなりません。

72時間+10日+10日というのは犯罪被疑者の逮捕・勾留期間と全く同じです。

建物の使用制限

法32条により知事は、建物が新型コロナウイルスに汚染されていると認められる場合で、消毒では対処しきれない場合には、その建物への立ち入りを制限、又は禁止することができます

それによっても対処しきれない場合には、建物の封鎖、又はその他の措置をとることができます。
封鎖以上の措置というと、例えばあるフロアが汚染され切っていて時間だけが解決するという場合に完全に物理的に密閉にするなどでしょうか。
取り壊すなどしてしまうと却って周囲にウイルスをまき散らしてしまうので、それはしないとは思いますが。

交通の制限または遮断

法33条により知事は、緊急の必要があって消毒では対処しきれない場合には、72時間以内という限定で、新型コロナウイルスに汚染又は汚染されたと疑われる場所への交通を制限、又は遮断することができます。

解釈にもよりますが、少なくとも72時間以内という時間制限からすると、よく言われる「都市封鎖」の法的根拠とすることはできません。
72時間だけだと都市封鎖の効果が期待できませんので。

これらの制限は必要最小限度で

法34条により、これらの制限は、コロナウイルスの汚染排除という目的を達成するための必要最小限度の措置でなければなりません。
国民の権利を直接制限する措置ですので、目的に比例する程度の措置でなければならないということです。

弁護士 芦原修一