「俺はコロナだぞ」

「名古屋市天白区のドラッグストアで25日午後、マスクが無いことに腹を立て、「俺はコロナだぞ」などと店員を脅した40代の男が威力業務妨害の疑いで逮捕されました。
 警察によりますと、25日午後1時前、名古屋市天白区の「ウエルシア天白高坂店」で、客として訪れた男が、店にマスクが無いことに腹を立て、店長に「俺はコロナだぞ」などと言って咳をする素振りを見せました。
 その後、通報を受けた警察が男の身柄を確保し、店は一時営業を中断しました。

通行人の女性:
「コロナだと言って大きな声で叫んだ。恐ろしい」

 男は名古屋市天白区に住む40代のアルバイトで、午後11時前、威力業務妨害の疑いで逮捕されました。
 名古屋市によりますと、新型コロナウイルスの感染者ではないということです。」

東海テレビ – Yahoo!ニュースより

このような犯罪が出始めました。
このドラッグストアは警察に適切に通報したからこうして男が逮捕されましたが、他のドラッグストアその他店舗でも適切に対応できるように営業して欲しいと思います。
ただ、そうは言っても相手は顧客ですので通報等をする線引きをその場で考えて実行することは難しいでしょう。
そこで、私なりにその線引きを考えてみました。

もしこの記事を読まれたドラッグストアその他店舗のオーナー、店長、従業員の方は一応の参考にして頂き、ご自身の決断で自分の身とお店を守ってください。

ケースごとの線引き

威力業務妨害罪

威力という言葉の定義が分かりにくいですし相当重い行為のように見られがちですが、そうでもありません。
いわゆる暴行又は脅迫よりも軽くても「威力」に当たります。
一般の方が検討する場合は「仕草や言葉により店員が威圧された」という程度で「威力」に当たると判断すれば良いでしょう。

本件に当てはめますと、「俺はコロナだぞ」という言動を用いて店員の近くで喚き散らしたというので、コロナという危険な感染症に感染するかもしれないと店員を怯えさせ、そのままだと何をされるか分からない状況ですので、男の仕草や言葉により店員が威圧された場合に当たります。

そして、店員が威圧されたことにより店舗営業が妨害されていますので、威力業務妨害罪が成立します。

このような男はもはや顧客ではありません。
躊躇なく警察に通報してください。

不退去罪

このニュースの場合には不退去罪は出てきませんでしたが、不退去罪も成立しうると思います。

不退去罪とは、その店舗の管理者又は管理者の指揮命令下にある者(店員を含みます)から退去するよう要求されたのに居座った場合に成立します。

例えばこのニュースの男に対しても退去を要求しても居座っていたら不退去罪が成立します。
また、顧客同士がトイレットペーパーの奪い合いなどでケンカした場合に双方に退去を要求して居座った場合にも不退去罪が成立します。
「マスクがないのはなぜだ!」などと迫るクレーマーに対しても同じです。

店員の身の安全もそうですし、別の顧客の身の安全も守るべきですので、誰かが怯えるような行動・言動をする者に対しては毅然と退去を要求しましょう。
そして、退去を要求しても居座ったら警察に通報してください。

このようにコロナウイルスで世の中が大変な時に小売店の中でも重要なドラッグストアの平穏を乱すような者は許せません。

偽計業務妨害罪

店舗での営業妨害・業務妨害はほとんど威力業務妨害罪となりますが、例えば電話を手段にした嫌がらせは偽計業務妨害罪が成立することがあります。
偽計という言葉が分かりにくいですが、「威力ではない手段」くらいに捉えれば良いです。

ドラッグストアはいま大変忙しいのに詰まらない電話に構っている余裕はないでしょう。
「マスクはまだ入荷しないのか!」などのクレーマーからの電話はしつこければ警察に通報する旨を警告して、それでも止まなければきちんと通報しましょう。
通報しなければいつまでも付け上がります。

住居侵入罪

例えばドラッグストアの奥の倉庫に勝手に入ってトイレットペーパーを探す者がいれば、それだけで住居侵入罪が成立します。
その場合はすぐに警察に通報してください。
念のため立ち入り禁止区域の前のドアには「部外者の立ち入り禁止」という張り紙を分かりやすく提示しておいてください。
それを見てもなお倉庫に侵入すれば住居侵入罪という犯罪です。

オーナーの覚悟

現場にいるのは店員でありその人たちが被害に遭いやすい状況です。
顧客のことも大切ですが、店員も大切な存在です。
オーナーが覚悟を持って「私が責任をすべてとるから、怖がるようなことを言われたりされたりしたら周りの者が警察に通報してください。」と全店員に伝えましょう。

弁護士 芦原修一