はじめに

コロナウイルスの影響で店舗の営業、人の移動などが制限され始めました。
今週末には東京都ではいわゆる自粛要請という形で多くの活動が停止することが予想されています。

このとおりコロナウイルスの影響が小さなものではなくなってきて、それが法的な紛争に発展しかねない状況です。
そして、ちらほらと「不可抗力」という言葉が目に付き始めました。
既に複数の弁護士が不可抗力について法的に説明をしています。

そこで、私は正確で細かな説明よりも、分かりやすさを重視して説明をしたいと思います。

分かりやすさを重視しますので、正確なところを知るというよりも「コロナウイルスの影響で契約で決められた約束事が果たせないがそれが『不可抗力』で免責されそうか」という疑問を解消する出発点を掴むために以下をお読みください。

不可抗力とは

大地震

日本では地震が頻発しときには社会を揺るがす大地震が発生します。
それを踏まえて不可抗力の例として地震が挙げられることが多いです。
記憶に新しい東日本大震災の規模の地震が発生すればインフラは長期に渡って止まるので不可抗力として債務が免責される可能性が高いです。

戦争

居住地域、生産活動拠点、営業活動拠点などにおいて戦争が始まった場合には不可抗力とされます。
いつ不可抗力が解消されるかは争いがあると思いますが、始まった当初に不可抗力が認められることについては異論はないでしょう。

台風・暴風雨

台風・暴風雨で移動の自由が制限されることは多く、また生産拠点を台風が直撃するなどすればそれが不可抗力により生産中止になったとされることが多いです。

結局、不可抗力とされるときとは?

このように大地震、戦争、台風・暴風雨など天変地異が不可抗力とされることが多いのですが、それでも不可抗力とされる場合とされない場合があります。
それはひとえに債務の内容と起こった天変地異によります。
ある債務は東京で起こった大地震で何もできないときでも、大阪で起こったなら履行できることもあるでしょう。

例えば、私が舞台を主宰する会社の社長だとして、東京公演と大阪公演の開催を予定していたとします。
東京公演は4月8日、大阪公演は4月15日。
4月6日に東京で大地震が起こり停電がしばらく続き他のインフラも全滅となると、東京公演の中止は仕方なく、これは不可抗力と認められます。
では大阪公演についてはどうでしょうか。
新幹線は4月12日から再開、高速道路も同日再開したとして、出演者も全員無事となると、どうやら開催できそうです。
こうしたときに大阪公演を中止することは私の自由ですが、この場合に不可抗力が認められることは難しいと思います。

なお、お金の支払いは不可抗力で免責されない

売買代金の支払い、賃料の支払いなどお金の支払いは不可抗力では免責されません。

「第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。」

民法419条3項

この第一項というのは金銭債務のことです。
お金を支払うだけなので何があろうとも支払いがされなかったら債務不履行責任は免責されないということです。
お金を支払うというのは直接手渡し、現金書留の郵送、銀行ATMでの振り込み、ネットバンキングでの振り込みと、およそどんな状況でも不可能ということは考えられないからです。
お金がないから振り込めないというのはそれ自体が債務不履行で天変地異のせいではありません。
ただ、本人が大怪我をして手術、入院したなどの事情があればその点は考慮されると思います。

ではコロナウイルスの影響での債務不履行については?

不可抗力で免責されるかは、債務の内容と起こった天変地異によると説明しました。
そこで債務の類型別に分析します。

物を届ける債務

これは不可抗力として免責されません。
コロナウイルスの影響が日に日に増しているとはいえ、現在は物流は止まっていないからです。

物を作る債務

これは債務の内容に依ります。
生産拠点が海外にありその事業活動が現地法により停止していれば不可抗力とされます。
日本に生産拠点があっても従業員がコロナウイルスにかかり閉鎖せざるを得ない場合にも不可抗力とされます。

もっともこれらの場合、他に代替手段が採ることができるなら不可抗力とはされません。

人を派遣して作業させる債務

これは現時点では不可抗力になりません。
例え都知事が今後「東京を封鎖します」と言ってもそれが法に基づかず自粛要請の範囲を超えないのであればそれに従う法的義務は生じないので、債務の履行が不可能ということにはならないからです。

令和2年3月27日時点では…

あまり不可抗力として免責される債務はなさそうです。
国や都道府県が法的な強制力をもって人の移動を制限したり、営業停止を命じたりし始めたら、それはどうしようもなくなりますので不可抗力として免責される事例が出てきます。

そうして状況が変わればまた記事を作成したいと思います。

弁護士 芦原修一