店舗に來る自粛警察への対応
最近、自粛警察が店舗に張り紙を貼って自粛を強制するということを聞きます。
結論から言うと、そんな権利は誰にもないので剥がして無視しておけば良いのですが、あまりにもひどいなら法の力を借りて自粛警察にはそれなりの罰を受けてもらいましょう。
そういうスタンスでこの記事を書いています。
簡単に言うと、「迷惑行為をされたら警察に通報しましょう」ということです。
たまに間違ったインターネット上の記事で、「『警察に通報するぞ』と言ったら脅迫罪に当たる」などといい加減なことを書いているものを見掛けます。
それだけで脅迫罪が成立することは現実的にありませんが、それならば、警察に通報すれば良いのです。
自粛ムード自体は新型コロナウイルスの感染拡大を抑え込むのに有効でしたが、自粛警察の行為は許されるものではないのです。
自粛警察とは
令和2年3月、4月と日本において新型コロナウイルスの感染が拡大しました。
しかし、日本では諸外国のような強い軍隊・警察による強制的なロックダウンをすることができません(「日本型ロックダウンでコロナウイルス感染を収束させる」、「緊急事態宣言はどういうときに出されるのか – 新型インフルエンザ等対策特別措置法」、「緊急事態措置と一般市民との関係 – 新型インフルエンザ等対策特別措置法」、などをお読みください)。
そうすると国民の任意による自粛に期待するしかないのですが、自粛ムードが強くなり過ぎて何の権限もない人たちが他人に自粛を強要するような行動が見られるようになりました。
そうした行動をする人たちのことを「自粛警察」と呼ぶようになったのです。
自粛警察には罰を受けてもらおう
社会問題化している自粛警察は、陰湿又は過激であって犯罪行為ともいえる行為に及ぶことがあります。
犯罪行為ですので店舗経営の皆さんは泣き寝入りなどする必要はありません。
訳の分からない張り紙を貼られて泣き寝入りをしていては、従業員にも示しがつかないというものです。
「お客さんが減るかも…。」と心配する必要もありません。
こんなことを仕出かす人などお客さんではなりません。二度と店舗に近づかせない方が長い目で見て大切なお客さんを守ることになります。
次のとおり自粛警察の張り紙は法的に違法なことが明らかですので確認して警察に連絡をして自粛警察には罰を受けてもらいましょう。
では例として最近ニュースでも良く見聞きする行為について見ていきます。
営業をしている店舗のドアや壁、ガラスに張り紙を貼る行為
軽犯罪法又は刑法の罪に当たる可能性がある
張り紙の内容や貼り方に拘わらず、軽犯罪法1条33号にあたり拘留又は科料に処せられる可能性があります。
拘留だと1日以上30日未満の間、刑事施設に入れられ、科料だと1000円以上1万円未満を納めなければなりません。
科料で済めばまだましですが、科料になるとは限らず、勾留になればその間、仕事に行くことができず会社に説明せざるを得ないこととなります。
軽犯罪法
軽犯罪法1条33号
第一条 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
一~三十二 略
三十三 みだりに他人の家屋その他の工作物にはり札をし、若しくは他人の看板、禁札その他の標示物を取り除き、又はこれらの工作物若しくは標示物を汚した者
三十四 略
刑法
刑法16条・17条
第十六条 拘留は、一日以上三十日未満とし、刑事施設に拘置する。
第十七条 科料は、千円以上一万円未満とする。
「そんなに金儲けがしたいのか」という張り紙
金儲けは悪いことではないのですがこの場合は明らかに侮蔑の意図で貼られていますので、侮辱罪に当たる可能性があります。
拘留又は科料ということで軽犯罪法と同じ法定刑ですが、軽犯罪法と侮辱罪が成立すると起訴される可能性が高まります。
刑法
刑法231条
第二百三十一条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。
「この店は違法営業をしてるぞ」という張り紙
単にオーナーや店舗を侮辱しただけではなく、違法営業と言って社会的評価を低下させているので名誉棄損罪に当たる可能性があります。
刑法
刑法230条
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
店舗のドアにベタベタと剥がれにくく貼り付けてドアを開けにくくした場合
ドアというのは開けてそこから中に入り外に出られなければ意味がないものですが、それらがしにくいようにすると器物損壊罪に問われる可能性があります。
その行為の程度にも依りますが、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金か科料に処せられます。
軽犯罪法や侮辱罪とは異なり懲役刑が法定されていて「冗談だった」では済まされませんし、「こらしめるつもりだった」など身勝手な言い訳も通用しなくなります。
刑法
刑法261条
第二百六十一条 前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
「家族がどうなるか分からんぞ」、「営業を止めなければ火をつけるぞ」という張り紙
前者は脅迫罪、後者は強要罪に当たる可能性があります。
強要罪というのは脅迫しただけに留まらず、脅迫によって権利行使を妨害したときに成立します。
後者で言うと「火をつけるぞ」と脅迫して、営業を止める義務がないのに営業を止めさせようとして営業する権利の行使を妨害することで、強要罪が成立するということです。
これ、器物損壊罪と比べて法定刑はあまり変わらないのですが、強要罪に当たると法定刑が懲役刑のみになるので、途端に刑務所に行くか執行猶予が付くかの二択になってしまいます。
さらにはこれらと併せて威力業務妨害罪に当たる可能性もあります。
(令和2年5月23日追記)
豊島区役所の63歳の職員が「営業するな!火付けるぞ!」と書かれた段ボールを店舗に貼り付けました。
その年まで何を学んでいたのかと愕然とするとともに、区役所職員が何をしてるんだと驚きました。
強要罪ではなく威力業務妨害罪で逮捕していますが、これはあくまでも逮捕したときの罪名なので、起訴罪名が強要罪になる可能性もあります。
これをお読みの店舗経営者の皆さんもこのような場合、躊躇せずに警察署に連絡しましょう。
警視庁によりますと、先月14日、東京 豊島区南大塚にある飲食店2店舗に、「営業するな!火付けるぞ!」と書かれた段ボールを貼り付けて脅したとして、豊島区役所の63歳の職員を威力業務妨害の疑いで逮捕しました。
NHK NEWS WEBより
刑法
刑法222条・223条
第二百二十二条 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。
第二百二十三条 生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、三年以下の懲役に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする。3 前二項の罪の未遂は、罰する。
第二百三十四条 威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例(三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する)による。
まとめ – 躊躇なく警察に連絡しましょう
このとおり張り紙を店舗に貼る行為はそのやり方や内容によって刑事罰を受けます。
店舗経営の皆さんは、「こんなことで警察に相談してもいいかな…」など迷う必要などありません。
躊躇なく警察に連絡しましょう。
なお時間に余裕がある場合には110番ではなく最寄りの警察署に電話を掛けてください。
なお、警察は証拠が堅いほど動きやすい組織ですので、その張り紙を剥がす前に貼られているところを撮影しておいてください。
そして剥がした後も張り紙を捨てずに保管してください。
また、もし周囲の協力が得られるなら防犯カメラの映像を入手するか、入手できなくても特定の日時については消去しないように依頼しておいて、後日警察が依頼したときに確認できるようにしておいてください。
最後に – 自粛「警察」と呼ぶのは良くない面もあるが
何の権限もない人たちが他人に自粛を強要するという否定的な行動について、「警察」という語を付けるのは良くない面があります。
なぜなら、警察というのはあたかもそれ正しいように聞こえるからです。
おそらく「自粛警察」と呼ぶときの「警察」には、悪い意味、杓子定規に国民を取り締まるという意味があるのでしょうが、良い悪いどちらともとれてしまいます。
ただ、他に適当な呼び名もなく、さらに造語をここで作っても皆さんに伝わりにくいでしょうから、この記事ではあえて「自粛警察」という語を使っています。