小池都知事の権限で決められない?
どの業種に営業休止を求めるのか、東京都と国との「攻防」が続いています。何よりも、まずは感染拡大を阻止するために動かなければいけないのですが、なかなか足並みがそろいません。
国と都「休業範囲」にズレ 理髪店やデパートはOK?
緊急事態宣言を巡り、なんだかドタバタしています。東京都と国との間ではどの範囲の業種まで休業要請するのかで綱引きが続いています。都は10日、休業要請する対象を発表。11日から実行する意向で、当初はナイトクラブやホームセンター、デパート、さらに理髪店や居酒屋など幅広く休業を要請することを検討していました。しかし、これに国から厳しすぎるの声が上がり、待ったが掛かったというのです。都の関係者への取材で、理髪店やホームセンター、デパートなどを休業要請の対象から外す方向で国と最終調整を進めていることが分かりました。居酒屋については、営業は午後8時までとし、アルコールの提供は午後6時までとする案が検討されているということです。
新型コロナウイルス対策を担当する西村経済再生担当大臣は、さらにこんな業種にも言及しました。
西村康稔経済再生担当大臣:「それから質屋、ゴルフ練習場、こういった所は継続できる形で調整を行っているところであります」
また、都と国とではスピード感でも隔たりがあるようです。
西村康稔経済再生担当大臣:「我々が見てる今のデータは2週間前に感染した人が2週間後に潜伏期間などあるいは連絡する期間などを経て表れている数字でありますので、実際にきのう、きょう、取り組み始めたことは2週間後に出るわけですので」
実は、小池都知事が重大局面だとして外出自粛を呼び掛けてから8日で2週間です。その先月25日の感染者数は一日で41人でした。しかし、今月8日一日では144人と増え続け、合計でも2週間で1126人増えました。西村大臣も目標とする人出の減少がみられなければ2週間を待たずに今の方針より厳しい規制を出す可能性も明らかにしています。そんな都と国の話し合いはギリギリまで行われる見通しです。
このように東京都と国とで、どの業種に営業休止を求めるのかのすり合わせが続いているようです。
いつまでもこのすり合わせが続くわけではなく早々に判断をするとのことですから、多少は良いのですが少し違和感を覚えます。
それは、そもそも緊急事態措置をどういう内容にするかは都知事の権限であり、少なくとも表立って国が口を出すところかが疑問だからです。
もちろん、この新型コロナウイルスの感染拡大阻止は、国家的に取り扱われるものではありますが、権限配分というものがあり大枠のところで国が緊急事態宣言を出して、その枠内で都知事が決めるというものでないと、決まるものも決まらないと思います。
それに、東京都が首都だとしても一応は一地方ですから地方自治の観点からも細かなところは都に任せるべきじゃないかなとも思っています。
法的には都知事にすべて決定権があるか
特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるときは、新型インフルエンザ等の潜伏期間及び治癒までの期間を考慮して当該特定都道府県知事が定める期間において、学校、社会福祉施設(通所又は短期間の入所により利用されるものに限る。)、興行場(興行場法(昭和二十三年法律第百三十七号)第一条第一項に規定する興行場をいう。)その他の政令で定める多数の者が利用する施設を管理する者又は当該施設を使用して催物を開催する者(次項において「施設管理者等」という。)に対し、当該施設の使用の制限若しくは停止又は催物の開催の制限若しくは停止その他政令で定める措置を講ずるよう要請することができる。
新型インフルエンザ特措法45条2項
いま東京都と国とですり合わせがされているのは、この条文を前提にどの業種に営業休止を要請するかです。
これを見ますと、「特定都道府県知事は…多数の者が利用する施設を管理する者…に対し、当該施設の使用の…停止…を要請することができる。」とあります。
営業休止の要請主体は「特定都道府県知事」ですね。
ではその特定都道府県知事とは何でしょうか。
聞きなれない言葉です。
その区域の全部又は一部が第三十二条第一項第二号に掲げる区域内にある市町村(以下「特定市町村」という。)の長(以下「特定市町村長」という。)は、新型インフルエンザ等のまん延により特定市町村がその全部又は大部分の事務を行うことができなくなったと認めるときは、当該特定市町村の属する都道府県(以下「特定都道府県」という。)の知事(以下「特定都道府県知事」という。)に対し、当該特定市町村長が実施すべき当該特定市町村の区域に係る新型インフルエンザ等緊急事態措置の全部又は一部の実施を要請することができる。
新型インフルエンザ特措法38条2項
ここに「特定都道府県知事」の定義がありました。
これは特定市町村が事務をすることができなくなったときに事務代行を要請することができる規定ですが、その特定市町村が属する都道府県の知事のことを「特定都道府県知事」としています。
ではその特定市町村とは何かと言うと、法32条1項2号に掲げられた区域に属する市町村のことです。
同号は緊急事態宣言の中で緊急事態措置を実施する区域を定めるよう規定しています。
今回は東京都に関しては「東京都全域」としていますので、東京都に属する市町村すべてがここの区域に当たります。
法律上はこのとおりややこしく適用が繰り返されますが、つまりは小池東京都知事は本件でいう「特定都道府県知事」に当たります。
では小池都知事がすべて決めれば良いのではないか
このように思えます。
そこで、さらに新型インフルエンザ特措法を見てみましょう。
第六条 政府は、新型インフルエンザ等の発生に備えて、新型インフルエンザ等対策の実施に関する計画(以下「政府行動計画」という。)を定めるものとする。
新型インフルエンザ特措法6条
2 政府行動計画においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
一~三 略
四 都道府県…がそれぞれ次条第一項に規定する都道府県行動計画及び第九条第一項に規定する業務計画を作成する際の基準となるべき事項
五~七 略
第七条 都道府県知事は、政府行動計画に基づき、当該都道府県の区域に係る新型インフルエンザ等対策の実施に関する計画(以下「都道府県行動計画」という。)を作成するものとする。
新型インフルエンザ特措法7条
2 都道府県行動計画においては、おおむね次に掲げる事項を定めるものとする。
一 略
二 都道府県が実施する次に掲げる措置に関する事項
イ~ロ 略
ハ 感染を防止するための協力の要請その他の新型インフルエンザ等のまん延の防止に関する措置
ニ~ホ 略
三~六 略
3 略
4 都道府県知事は、都道府県行動計画を作成したときは、内閣総理大臣に報告しなければならない。
5 内閣総理大臣は、前項の規定により報告を受けた都道府県行動計画について、必要があると認めるときは、当該都道府県知事に対し、必要な助言又は勧告をすることができる。
6~7 略
どうやらこれを見ると、小池都知事が独断で緊急事態措置の内容を決められるものではなさそうです。
小池都知事は、新型インフルエンザ特措法7条2項2号ハの「感染を防止するための協力の要請」を都道府県行動計画として作成する権限を持っていますが、その行動計画については、同法6条2項4号で政府がその作成基準を定めるものとしています。
次に、小池都知事はその行動計画を安倍総理に報告しなければならず(同法7条4項)、安倍総理は「必要な助言又は勧告をすることができる。」としています(同条5項)。
これらを見ますと、どうやら小池都知事がフリーハンドで緊急事態措置の内容を決められるものではなく、政府とのすり合わせが法律上必要不可欠なのですね。
西村経済再生担当大臣が表に立って口を出しているのも、安倍総理の意を受けてということになります。
ただ、この条文をガチガチに見ますと、小池都知事は安倍総理に報告をすることは義務付けられてはいますが、安倍総理の言う通りにすることは義務付けられていません。
それに安倍総理は必要な助言又は勧告をすることが「できる」に過ぎませんので、その助言又は勧告を小池都知事が聞いたうえで自身の決断を実行することもできます。
政府とのすり合わせは必要だが、小池都知事は自身の判断を優先して都民を守るべき
実は小池東京都の人気は、コロナウイルスの感染拡大前は落ちていたと思います。
このまま行けば今年に予定されている都知事選で落選していたでしょう。
しかし、いま会見の言葉を聞いていて「そこそこ頼もしいじゃないか」と思っている人も少なくありません。
空虚な人気取りの言葉ではなく、実務的なのです。
相当に勉強していて危機感を覚えていることが伝わってきます。
それだけに休業要請を2週間様子見るというのは小池都知事には受け入れ難いものでしょう。
政府の及び腰の姿勢も一概にダメとまでは思いません。
経済への影響を最小限にしたいのですね。
しかし、このコロナウイルスの感染拡大を収束させなければ長期的には同じことです。
その観点から言うと、小池都知事の姿勢の方が現状の解決に合っていると私は思います。
政治家の腹の括り方というのは私には分かりませんが、ここが小池都知事の腹の括り時だと思います。
もう選挙のためでも良いです。
コロナウイルスの感染拡大を収束させるというミッションのために、小池都知事には早期の休業要請を決断して政府の意見をはねつけて実行してもらいたいと考えます。
弁護士 芦原修一