この記事は内定取消し以外にも応用できます

この記事は内定取消しについて書いていますが、内容証明郵便を送られた場合全般に応用できます。

内容証明郵便は私的なもの

コロナウイルスの影響で内定取消しをしたら、内定者またはその代理人の弁護士から内容証明郵便が届くことがあります。
内容証明郵便は見た目も堅い感じで、内容を見るともっと堅い感じを受けますよね。そうするとあたかも公的な書面が送られてきたかのように感じます。

しかし、内容証明郵便はあくまでも私的なものであり公的な裏付けはまったくないものです。
要は、その送り主の主張が自由に書かれているものに過ぎません。こう言ってしまうと私が送るときにそう受け止められるのも困りますが、実際そうなのです。

私的なものに過ぎないことが分かると少しは安心できるのではないでしょうか。

「内定取消しは無効だから採用せよ」- これに従わなくても良い

内容証明郵便が私的なものであるとすると、そこに書かれている「内定取消しは無効だから採用せよ」という請求にそのまま従わなくても良いということです。
もちろん交渉の結果、採用するというのであればそれはそれで良いのですが、あくまでも一方的な主張であり公的なお墨付きがあるわけでもないのでそのまま従わなくても良いのです。

「7日以内にご連絡なき場合にはやむを得ず法的措置をとります」- 連絡する義務はない

内容証明郵便の末尾には「7日以内にご連絡なき場合にはやむを得ず法的措置をとります」などが書かれていることが多いです。
では、7日以内に連絡をとる義務が発生するかというと、発生しません。
例えば、駐車場に「違法駐車は罰金1日3万円」などと書かれているのを目にするかもしれません。しかしこれは駐車場のオーナーの一方的な宣言であり違法駐車をする者がこれに合意したわけではないので無効です。あくまでも実損害を賠償する義務が発生するだけです。
これと同じく内定者側からの一方的な宣言に従う必要はないということです。

もっとも、交渉ごとというのはPlan Bが重要であり、次のステップに進んで分が悪い方が折れざるを得ません。
この場合、法的措置をとられたら会社にとってさらに不利益が生じるという予測が立つなら可能な限り7日以内に連絡するのが無難と考えることもできます。

以上のように、言われるがままに内定者の主張に従うのではなく、状況を見て対応方法を選択すれば良いということです。

本当に法的措置をとられるのか

内容証明郵便を受領した段階ではほとんどの場合分からないので、法的措置がとられることを前提に動いた方が良いです。悪いケースを想定しておけば安全ですので。

ただ、内定者自身か弁護士かによって法的措置をとる可能性は変わりますし、文章のニュアンスやその後電話で話した感触によりある程度は分かります。

法的措置というのは内定取消しの場合、労働審判手続きの申し立てか、民事訴訟の提起です。
それらの手続き上で「内定取消しは無効だ」と主張することになります。
それでお分かりだと思いますが、単に内容証明郵便を作成して交渉するのと異なり、きちんとした書面を作成する必要があるので簡単ではありません。
内定者側の多くも、できることなら交渉で解決したいと思っているはずです。
ですので、7日を経過したらすぐに法的措置をとるということはほぼないでしょう。
私の経験ではこれまで100%ありませんでした。

さて、ここまでは「法的措置をとられるのか、とられないのか」を話しました。
しかし、そもそも法的措置をとられることを過度に恐れることは無駄なのです。

そう言っていて本当に法的措置をとられたらどうするのだ、と思われるかもしれませんが、内定者側が7日経過後に直ちに法的措置をとるということは話し合いをするつもりなどなく、交渉で妥協せずに自分の希望を突き付けたかっただけだということです。
内定者側の言い値をそのまま受け入れるというのならそれでも良いですが、そうではないですよね。
そしてそういう内定者側の言い値を受け入れないというなら、結局は法的措置をとられることになりますので同じ結果です。

つまりは、法的措置をとるかとらないか、に囚われている時点で相手に呑まれていて交渉に負けています。
したがって、法的措置を恐れることなく交渉に臨むことが大切なのです。

弁護士 芦原修一