内定取消しについてニュースを見ることがありますが、採用前なのに何か問題があるのでしょうか?内定取消しは自由なのではないですか?
採用前であっても会社と内定者との間に労働契約が成立していることがあります。
内定という言葉を使ったから内定という形式的な判断ではなく、内定という言葉を使わなくても労働契約が成立することもあれば、内定という言葉を使っても労働契約が成立しないこともあります。
労働契約が成立したとされれば内定取消しが解雇類似のものとして扱われ、簡単に内定取消しができなくなります。
なお、内定関係が成立することにより労働契約が成立しますが、採用前・就労前ですので通常の労働契約とは異なり、解約権が留保され始期が付いた労働契約とされます。
解約権とは内定を取り消す権利のことで、始期とは就労を始める時期(新卒者について日本の会社の多くは4月1日)のことです。
そこで、その労働契約が成立する内定関係はいつ成立するかが問題となります。
新卒採用者については、一般的に会社が内定式を主宰し学生が出席して誓約書を提出することで内定が成立するものと解されています。労働契約の成立は会社と学生の合意によるものであり、単に内定式がセレモニー的に開かれるだけでは労働契約が成立したとは見られないでしょう。
福岡高裁平成23年3月10日判決(コーセーアールイー事件)は内々定を取消した事案で内々定では労働契約が成立しないとした判決です。この事案の会社での内々定の段階では具体的な労働条件の提示はなく入社誓約書の差し入れもなされておらず、当時の学生は内々定を複数得て就職活動を継続することも珍しくありませんでした。これらを踏まえて内々定では労働契約が成立しないとされました。
ここから逆算しますと、内定であれ内々定であれ就職活動を終了させそれを受けた会社に入ることがほぼ確定的になった段階で労働契約が成立すると見るのが妥当です。
中途採用者の採用方法は新卒採用者のように一律なものではありません。
例えば、東京地裁平成20年6月27日判決は、代表取締役が求職者に対してネット証券を立ち上げることを持ち掛け求職者がそれに応じると、会合を持ち1500万円プラスアルファの年俸を提示し4ヶ月後の入社日を確定させた事案で、取締役会でネット証券事業の賛成が得られなくなったのでこの求職者の入社を断りました。
裁判所は、具体的な事業の内容、年俸額、入社日が確定した段階で内定が成立するとしました。
この事案では内定という言葉が出てきていませんが、具体的な労働条件と入社日が確定すればそれは労働契約が成立するというのが妥当ですので、内定成立は当然だったと思います。
ではどういう場合に内定取消しができるかが問題となります。
内定が成立すると労働契約が成立しますので、自由に内定取消しはできません。
これは試用期間満了時の本採用拒否と同じように、採用内定当時知ることができず、また知りようがなかった事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことについて客観的に合理的な理由があり社会通念上相当である場合にのみ許されます。
採用内定当時知ることができず、また知りようがなかった事実とは、内定後に調査をして明らかになった犯罪行為なども含まれます。
内定を出すということは面接を経ていますので面接で知ることができるような事実、例えば見た目の印象が暗いなどの事実を理由として内定取消しはできません。
学歴・経歴の詐称は内定取消し理由となります。特に新卒採用者については学歴は重要な要素となりますので内定取消しをする客観的に合理的な理由があり社会通念上相当とされるでしょう。
中途採用者については学歴の重要性は下がるものの高校卒業者が大学卒業者と偽るなどは質的な詐称ですので内定取消しは合理的で相当だと判断されやすいです。経歴の重要度は高く、採用の必要性に当該経歴が入っていて面接でもその経歴についてのやり取りに時間が割かれていれば内定取消しが合理的で相当だと判断されるでしょう。
新卒採用者が単位不足で大学を卒業できない場合には内定取消しは必然です。なぜなら、新卒採用者の場合は大学卒業を大前提としているからです。
重度の健康悪化により当初予定されていた業務遂行が困難になることが明らかであれば内定取消しは合理的で相当だと判断されます。
重大な違法行為の発覚は、履歴書の賞罰欄に記載しないという虚偽申告でもありますし、そのような重大な違法行為をしたことを知れば内定を出さなかったといえるほどのものであれば、内定取消しは合理的で相当だと判断されます。
事故・災害その他の事情により業績が悪化しての内定取消しは、求職者側に原因はなく会社側に原因がある場合です。
この場合は業績悪化により現従業員を解雇する整理解雇と同様に捉えて判断されるでしょう。
以上のように内定取消しは簡単なものではないので会社の都合だけでできるものではありませんので、内定取消しをするとしても慎重にしましょう。
この回答をご覧になっても解決に至らない場合には、お気軽にお問い合わせください。