長崎地方裁判所の労働審判委員会が出した労働審判で口外禁止条項が付されたことに対して不服を持った労働者が国家賠償請求を起こしたと聞きました。これはどういうことなのか教えてください。
2年前の2018年6月に話題になった件ですね。2019年1月に提訴したようで判決は未だのようです。
民事訴訟の判決では「第三者に口外することを禁止する」という項目を付けることはできません。
なぜなら、民事訴訟は原則公開であり第三者に知られないことを期待する制度ではないからです。
したがって、民事訴訟ではこうした問題は起こりません。
しかし労働審判手続きは原則非公開であり(労働審判法16条本文)当事者には第三者に知られないことを期待できる制度です。
それに、労働審判においては民事訴訟の判決とは異なり柔軟な解決法を命じることができます(同法20条2項)。
したがって、労働審判委員会は労働審判に口外禁止条項を付すことができると解されています。
労働審判に口外禁止条項を付したことを理由として労働審判官に対して国家賠償請求訴訟を提起したとのことですが、なぜこのような訴訟を提起したのかは理解できません。
労働審判手続き期日において調停が成立する際に合意して口外禁止条項を付すことは少なくないのですが、合意とはいえ調停事項に含めることができる口外禁止条項を労働審判に付すことが違法だとは考えにくいです。
それにこの労働審判は一方的に労働者に我慢を強いるものではなく、請求額に近い解決金額の支払いを会社側に命じたと言われています。
会社側として解決金の支払いは仕方がないが、第三者に知られたくないので口外禁止条項さえ付けてくれれば労働審判に異議を出さないことが期待できた状況のようです。
会社側が異議を出さなければ民事訴訟に移行することなく労働審判が確定し紛争が解決するのですから、紛争の早期解決のために労働審判委員会が口外禁止条項を付したことは合理的と考えます。
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