懲戒処分のうち降格処分はどの程度の行為があれば有効な降格処分とされるのでしょうか?
結論としまして、「行為自体が懲戒解雇・諭旨解雇相当の悪質性の高い行為」となります。
降格処分は懲戒処分の中でも重い方の処分です。
部長から課長に降格されると社内全員に処分が知れ渡りますしいつまでも忘れられず部下への指導もしにくくなるでしょう。
課長に降格すると部長としてもらっていた給与が減額され、それが一定期間継続することにもなります。
こうした点から出勤停止よりも重い処分であり、諭旨解雇よりも一段階だけ軽い処分として在職したままの懲戒処分としては最も重いものとされています。
それだけに降格処分の有効性の判断は会社にとって厳しいものになりがちです。
上司が複数の部下に対して長期間にわたり退職強要と人格否定をしていたパワハラ事案で東京地裁は次のように述べてその上司に対する降格処分を有効としました(東京地裁平成27年8月7日判決)。
・退職強要と人格否定を長期間・継続的に複数の部下にしたことは悪質。
・多くの部下が多大なる精神的苦痛を被った。
・このことは社内の規律に悪影響を及ぼした。
・上司は役員補佐の地位にあった。
・会社がパワハラ防止策をとっていたのにそれに反する行為を継続した。
なお、私が確立したパワーハラスメント評価基準によれば解雇相当となりますので、やはりこの裁判例で降格処分が有効とされた判断は妥当と考えます(「パワハラ加害者に対する懲戒処分の判断基準 – 裁判例を通して」)。
複数での飲み会の後に体調不良となった派遣社員に対して正社員が介抱名目でタクシーに一緒に乗り込みそこで膝丈のスカートを腰までめくり下着を露出させたセクハラ事案で東京地裁は次のように述べてその正社員に対する降格処分を有効としました(東京地裁平成22年10月29日判決)。
・セクハラがあったことは事実である。
・(迷惑防止条例に当たるほどの)悪質なセクハラであった。
・被害者は社内でセクハラを申告しても聞き入れられず退職に至っている。
・代表取締役が被害者に謝罪するまでの事態に至っている。
セクハラの評価基準として、1vs1の状況を利用することが挙げられますがこれは被害者が抵抗しにくい状況を作ったことが悪質だと評価されます。
タクシーの後部座席でお酒により体調不良になって事前に嘔吐した被害者のスカートを下着が見えるまでめくった行為は被害者が逃げられない状況を良しとしてなされていて悪質です。
こうして見てみると、降格処分はその対象行為が懲戒解雇・諭旨解雇相当程度に達していてはじめて有効とされているようです。
懲戒解雇の有効性を検討する裁判例を見ていると、これまでの懲戒処分歴の有無、会社への貢献度、反省・謝罪の有無・程度を考慮してこれを否定するものが目立ちますが、降格処分ではこれらのような考慮はされていません。
つまり、初めての懲戒処分であっても、会社に貢献していても、深く反省し被害者に真摯に謝罪していたとしても降格処分が有効とされる可能性が高いということです。
したがって、ご質問の「どの程度の行為があれば降格処分は有効となりますか?」に対しては、「行為自体は懲戒解雇・諭旨解雇相当の行為」という回答になります。
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