従業員が退職金の前借りを求めてきました。弊社では現金残高に余裕があるのでこれに応じることは構わないのですが、法務上・税務上で注意すべき点を教えてください。

 

 
退職金の前借りということですが、法的には前借りになる場合と前渡しになる場合とがあり得ます。

前借りなら、現時点で退職した場合の退職金額の範囲内で金銭を貸し渡す形になります。
一般的に金銭を貸渡す場合には金利を付すことになりますが会社が温情を掛けて無利息とすることがあります。
しかし、通常は利息を付すことができるのに無利息にしてしまうと課税される可能性があります。
詳しくは税理士さんに尋ねるべきところですが、会社が法定利息の3%を受け取ったとして利息分の所得税がかかり、その利息分を従業員に渡したという形になり従業員に贈与税がかかります。おそらくこういう形で課税されます。

金銭を貸し渡す契約を金銭消費貸借契約と言います。
この場合、単に金銭消費貸借契約を結ぶだけですと会社が損をする可能性があります。
そこで、この場合に担保を付けることになりますが、2通りの法的構成が考えられます。
1つは、金銭消費貸借契約について退職時の退職金支払請求権を担保とすることです。
もう1つは、金銭消費貸借契約に付随して相殺予約契約をして退職時に退職金と相殺できるようにしておくことです。
どちらにするべきかは悩ましい問題ですがシンプルに相殺予約契約をしておけば良いと思います。ただ、退職金請求権について差押えがされた場合に会社による相殺が優先されるようにしておかなければなりませんので、個別のケースについては弁護士に相談してください。退職金の差押えは4分の1が限界ですが4分の1でも回収できなければ大ごとです。

この貸し付けが文字通りの貸し付けとされれば税務上の問題は起きませんが、インターネット上の記事でこれを賞与に当たるとした東京高裁判決があるとのことです(「東京高裁 退職金担保の貸付けは賞与に該当」)。判決本文を調べ見つからなかったので断言はできませんが、賞与に当たるリスクとして所得税が通常どおりかかってしまうことは従業員に知らせておくべきです。

前渡しとなると退職していませんので元々の名目が退職金であろうとこれはそのまま給与所得になります。
この場合、法的には退職金が一旦精算されてゼロになります。
今後、退職せずに就労を継続するのであれば一から退職金の積み立てが始まることとなります。
退職金規程では退職時にのみ退職金を支払うとなっているはずですので、このようなイレギュラーな処理については当然個別の合意が必要です。
退職金を精算して現時点での退職金を受領したい旨の従業員からの申し出とそれに従い退職金を支払う旨の会社の意思表示の両方を記載した退職金支払合意書を作成してください。
そして双方が署名押印をして両者が原本を保管してください。

では前借りと前渡しのどちらにするべきか。
会社にとっての未回収のリスクはどちらも同じですので、従業員にとってメリットが大きい前借りとしてあげるべきでしょう。
前借り分を賞与とする東京高裁判決があるようですが、これが一般的に適用されるかは不明ですし法的にはあくまでも前借り分であることは間違いがないので現時点で気にする必要はありません。
もし賞与とされたとしてもそれは前渡しの場合と同じ扱いですのでデメリットが大きくなるものでもありません。
 

 
この回答をご覧になっても解決に至らない場合には、お気軽にお問い合わせください。

前の回答 退職金規程を整備しようと考えています。税務処理を簡単にするために非課税枠の範囲内での支給としたいのですが、非課税枠はどのように定められていますか?
次の回答 従業員が病死しました。退職金規程により退職金を支給したいのですが、この場合誰にどのように支給すれば良いのでしょうか?

ブログ記事の検索

目次
PAGE TOP