従業員Aが外部の取引先に「社長が横領している」告発ファックスを送りました。取引先からの連絡でAの告発が発覚しました。この場合、Aを懲戒処分することができますか?

 

 
これは組織内部の者が組織の不祥事と思われる事実について外部に告発するといういわゆる内部告発というものです。

従業員が告発文書で「理事長が横領している」等を元鳥取県議会議員に知らせたことを理由として懲戒免職された事案について鳥取地裁は次のように述べました(鳥取地裁平成26年4月23日判決)。
 ・告発文書を外部に流した行為は服務規則(会社で言う就業規則)の懲戒事由に当たる。
 ・告発行為が正当化されるには対象行為が違法か違法であったと信じるに足りる相当な理由があるかが必要である。

そして、いずれも違法ではなく違法であったと信じるに足りる相当な理由はないので懲戒解雇は有効であるとしました。
しかし控訴審の広島高裁松江支部は次のように述べて懲戒解雇は無効であるとしました(広島高裁松江支部平成27年5月27日判決)。
 ・告発行為が正当化されるには対象行為が違法か違法であったと信じるに足りる相当な理由があるかが必要である。これは第一審が示した基準と同じである。

そして、いずれも違法ではなく違法であったと信じるに足りる相当な理由はないとしました。ここまでは第一審の鳥取地裁が示した理由と同じです。
しかし、控訴審は「告発文書を流した相手はかつて学園内の紛争解決のために仲介したほどの人物であり、さらなる流出がなされることは考えられないから、学園及び理事長の名誉が毀損された程度は低いので、懲戒免職は重過ぎる。」としました。

内部告発が懲戒事由に当たり懲戒処分をされる根拠は、告発により会社の社会的信用が低下するからです。
もっとも、内部告発が正当化される場合があるはずであり、それは違法行為の告発です。違法行為が内部でされているのに内部に向けてしか告発できなければ問題解決が期待されません。
したがって、仮に告発により社会的信用が低下するとしても、次のとおりに正当化される場合があると解されています。
 ① 公益目的であること
 ② 告発手段が相当なものであること

以上を踏まえてご質問の件について検討しますと、外部の取引先への告発は会社の社会的信用を著しく低下させますので懲戒事由に当たります。
そしてこの告発が正当化されるには従業員Aにとって違法行為があったか違法行為があると信じるに足りる相当な理由があったかが必要です。
単なる噂話だけではなく客観的に社長の横領を示す資料があれば横領を信じるに足りる相当な理由があったと言えます。
もっとも、取引先に告発したことは会社にダメージを与える目的であったと推察されます。なぜなら、取引先に問題解決能力はないからです。
また、秘密裏に知らせるのではなく取引先の誰にでも見られるようなファックス送信という手段も不相当です。

したがって、仮に社長が横領したと信じるに足りる相当な理由があったとしても、その告発の目的・手段が不相当なので懲戒処分をしたとすると有効と判断される可能性が高いです。
 

 
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