会社の事業譲渡を検討しています。この場合、従業員との労働契約はどのように扱われることになりますか?
ご質問の問題は複雑なのでこの記事の最後で場合分けをして説明します。
事業譲渡は、A社の事業部門をB社に譲渡するものです。
労働契約は労働者と会社の契約でありこの場合は労働者とA社との間に労働契約が成立しています。
したがって、労働者の個別の同意がない限りは労働契約の主体がA社からB社に当然には承継されません。
この原則を貫きますと、A社のC部門をB社に事業譲渡する場合、C部門の従業員が労働承継に同意しない場合にはC部門がB社に譲渡された結果、その従業員は職を失います。
しかし、組合員を嫌ってあえて事業譲渡をしてA社からC部門を切り離した場合などの不当労働行為により事業譲渡した場合、組合嫌悪でなくても元々解雇目的で事業譲渡した場合、事業譲渡会社と事業譲受会社とが実質的に同一な場合、であってB社においてA社よりも悪い労働条件の場合には、A社の労働条件が承継されます。
これは事業譲渡後に譲受会社のB社が従業員を雇用することを前提としていますが、なぜかと言いますと通常事業譲渡をした後の譲渡会社は解散するからです。
解散するから譲受会社のB社での労働条件が問題となるのです。
これは清算手続き上の解散に伴う解雇の問題の裏返しです。
解散に伴う解雇では整理解雇の問題は生じず、事業廃止の必要性と解雇手続の相当性のみが要件とされ、ほとんどの場合は解雇無効とされることはありません(グリン製菓事件は解雇無効とされた数少ない事例です)。
そして、上に挙げた労働条件が承継される場合(不当労働行為、解雇目的、同一法人)というのは、解散に伴う解雇の場面では事業廃止の必要性が否定され解雇無効となります。
法人が解散すると消滅するので解雇の問題は生じないと思われがちですが、そうではなく解散しても債務についての責任は残り続けるので強引に解散して解雇しても賃金が発生し続けてしまいます。
この場合はA社とその代表取締役及び取締役の責任が残ってしまいますので、これではスムーズな事業譲渡とは言えず、事業譲渡は失敗ということになります。
逆に言いますと、不当労働行為等の不当目的を持たずに純粋に解散するならば譲受会社においても労働契約の承継を強制されません。
ご質問についてお答えしますと、こうした純粋な解散を前提とした事業譲渡であれば譲受会社は必要に応じて労働契約を承継すれば良いです。
もし解散しないのであればまず譲受会社がどういう形で労働契約を承継するかしないかを決めた後に、それに応じて労働者の意思を確認します。
譲受会社が労働契約を承継しないのであれば譲渡会社は労働者を雇用し続けなければなりません。
譲受会社が労働契約を承継する場合には新たな労働条件に応じて労働者が譲受会社に転籍するかを決めます。転籍するなら良し、転籍しないなら譲渡会社は労働者を雇用し続けなければなりません。
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