懲戒処分のうち減給処分はどの程度の行為があれば有効な減給処分とされるのでしょうか?

 

 
それでは裁判例を見てみましょう。

JR東海の新幹線運転士の酒気帯び勤務についてした減給処分について東京高裁は次のように述べて減給処分を有効としました。

「本件のような酒気帯び状態での勤務については、当該従業員の職種、酒気帯び状態の程度、現実に酒気帯び状態で勤務に就いたか否か(非違行為の態様)、その結果、旅客等に危険が生じたり、使用者側に信用失墜等の実害が生じたか否か(生じた結果の程度)、反省の有無等(一般情状)、過去の処分歴や余罪の有無・内容(前歴等)などの事情を総合して判断すべきものと解するのが相当である。」

「職種は新幹線の運転士であり乗客の生命・身体の安全を預かるものとして酒気帯びでの運転は厳に禁止されている。酒気帯びでの運転は重大事故を引き起こしかねず、会社の社会的信用を失墜させる。反省はしているともしていないとも言える。本件アルコール数値が出れば他社では処分する旨の規定があり、一切乗車させないとしている会社もあり、あと少し数値が高ければ免許取り消しとなっていて、本件アルコール数値は軽いものではない。減給額は1万円足らずで戒告処分と比較してもそれほど重くはなく、懲戒解雇と比較するとはるかに軽い。実際に運転しなかったのは管理者が止めたからであり、懲戒処分歴がないことは有利な事情ではなく、減給処分は有効である。」

酒気帯びで出勤したのにも拘わらず1万円足らずの減給処分で済んで会社に感謝するどころか、訴えるなどとは呆れますが当然の結論として東京高裁は減給処分を有効としました。

懲戒処分は会社秩序を維持するための制裁罰ですので、いかに会社秩序を乱したかで懲戒処分の内容が決まります。
この事案では実際に酒気帯び運転をしたわけではないので具体的な危険が乗客に生じたわけではありませんが、もしのぞみを運転していれば最大定員1300人余りの乗客の生命を危険にさらしていたわけでこの事案での抽象的な危険であっても軽視できなかったということでしょう。
また、減給額は1万円足らずであり懲戒処分としては軽い部類に属することも有効性を基礎付けました。

減給額には労働基準法による制限があり1回当たり1日平均賃金の半額までとなっています。
ご質問の「どの程度の行為があれば有効な減給処分とされるか?」ですが、具体的な基準を示すことは難しいものの「具体的な損害は生じていないが無視はできない行為」という程度での減給処分は有効とされると考えます。

他にも、バスの前面ガラスの曇りをとるためにバス内部の運転席側から水をかけたところ、大量の水が運賃箱に流入したのに運行管理者に報告しないまま運賃箱を精算装置にかけたため、精算装置を故障させたことを理由とするバス運転手に対する減給処分を有効とした裁判例もあります(東京高裁昭和61年9月29日判決)。
 

 
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