退職勧奨をする場合の注意点を教えてください。

 

 
退職勧奨とは、会社が従業員に対して自主的に退職することを促す行為を指します。
自主的な退職を促すのでそれ自体は自由なのですが、会社が解雇を回避するために強引に自主退職をさせる場合があるので、労働審判手続きや民事訴訟では退職の自主性、言い換えると退職勧奨の違法性が争点となり、実質的な解雇かが争われることがあります。

法的な観点から退職勧奨を見ると2つの論点があります。
1つは違法な退職勧奨による退職は自由な意思によるものではないとして退職無効として解雇無効と同じ扱いになる場合です。これは退職の意思表示が錯誤・詐欺により取り消される結果、雇用が継続していることになります。
もう1つは、退職の意思表示に錯誤はないものの違法な退職勧奨として不法行為に基づく損害賠償義務が生じる場合です。これ自体も避けたいところですが損害賠償額は数十万円程度であることが多いので、退職の意思表示が取り消される場合とは異なり会社にとってのダメージはそれほどでもありません。

社長が従業員に対して「丸刈りにしろ。もし応じられなければ退職せよ。」との退職勧奨をした事案で東京地裁平成26年9月30日判決は次のように述べて退職の意思表示に錯誤はなかったとしました。
「原告(従業員)は丸刈りにしろとの業務命令が無効であるのに有効であると信じそれに応じられないとして退職したから退職の意思表示に錯誤があったと主張するが、原告は業務命令の有効性について社内で確認・議論しておらず退職の意思表示についてこの業務命令が有効であることが前提になっているとは言えない。したがって、退職の意思表示に錯誤はない。」

しかし、丸刈りにしろとの業務命令については違法であるとして会社に対し30万円の損害賠償を命じました。
「勤務心得には髪型について丸刈りにせよとまでは記載されておらず耳が出るようにすること、もみ上げと後ろ髪はできるだけ短くすることとしか記載されていない。そして原告の長髪により工場の清潔さが保てなかったとか工場を訪問した顧客に悪印象を与えたなど具体的損害は生じていない。この業務命令が唐突になされ声を荒げたものであることからすると被告代表者(社長)には不法行為責任が認められる。」

退職の意思表示に錯誤がある場合とは、「この退職勧奨に従わなければ結局は辞めさせられるか相当な不利益を被る」と信じて退職した場合です。
この事案で言うと、丸刈りにしなければ自主的に退職せざるを得ないと信じたかが争点ですが、社長が声を荒げたことはともかく1回きりの感情的な業務命令で従業員がそれを信じたとは思えないということです。

退職の意思表示に錯誤はなかったという結論がこの判決で出たとしても「丸刈りにしろ。もし応じられなければ退職せよ。」という退職勧奨は止めておきましょう。
そもそもこれで自主的に退職する従業員が多いとも思えません。

他の多くの裁判例で見られるのが、自主的に退職しなければ懲戒解雇されて退職金ももらえなくなると誤信した場合に退職の意思表示に錯誤があったとされる場合です。
ここで注意すべきは、懲戒解雇、諭旨解雇、普通解雇などの解雇は裁判所で争われると無効とされる可能性が高いから、解雇となることを匂わせて退職させることです。
この場合、退職の意思表示について争われると、そこで示した解雇の有効性が審査されもしその解雇がされたとしても無効だった場合には退職の意思表示に錯誤があったと認定されてしまいます。

したがって、仮に何らかの解雇理由があったとしても解雇をした場合に無効とされる可能性が高い場合には、解雇を匂わせての退職勧奨は避けるべきです。
そうしなければ結局のところ、解雇無効と同じ効果が生じて多額の解決金を支払う羽目になってしまいます。
 

 
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