弊社では就業規則で「社内の男女交際を禁止する」と定めています。ある従業員が「プライベートの問題なので交際があっても懲戒処分できないのでは?」と言ってました。実際のところ意味がない定めなのでしょうか?
社内と限定しているとは言えその従業員の言うように男女が交際することはプライベートな問題です。
懲戒処分をすることができる懲戒事由には「この就業規則の各条に違反したこと」という項目があることが多いので、形式的には社内の男女交際に対して懲戒処分できることになります。
懲戒処分は会社秩序の維持を目的としてする制裁罰ですので、会社秩序に影響のない行為についてすることはできません。
したがって、単なる男女交際であればその従業員の言うように懲戒処分をすることはできません。
旭川地裁平成元年12月17日判決は、社内不倫を理由として解雇がなされた事案です。
ただし、この事案での就業規則の懲戒事由に社内恋愛禁止はなく、「職場の風紀・秩序を乱した」という懲戒事由の該当性が争われました。
裁判所は次のように述べてこの不貞関係は懲戒事由に該当しないとしました。
「この懲戒事由に当たると言うためには会社の企業運営に具体的な影響を与えるものに限るところ、不貞関係の2人の地位、職務内容、交際の態様、会社の規模、業態等に照らしても、この交際が会社の職場の風紀・秩序を乱し、その企業運営に具体的な影響を与えたと一応でも認められる証拠はない。」
静岡地裁平成2年3月23日判決は重要な業務委託先の女性との不倫関係を理由として懲戒処分としての自宅待機命令がなされた事案です。
ネッスル日本は当時もデモンストレーターというコーヒーメーカーでコーヒーを作るデモンストレーションにより営業活動をしていました。いわゆる試飲会というものです。今でもテレビCMでその様子が見られますよね。
ネッスル日本の男性従業員はデモンストレーターの女性と不倫関係を持っていたところ、そのことが取引先に知られたので、自宅待機命令が出されたという経緯です。
裁判所は次のように述べて2年間の自宅待機命令は適用であるとしました。
「原告は、取引先と直接接触するセールスマンであるから、被告の信用を最も大切にしなければならない立場にあったところ、仕事の上で密接なかかわりあいがあったデモンストレーターの女性と、仕事上の立場を利用して不倫関係を取り結ぶに至り、そのことが原因で、取引先に葉書が多数配布され会社に厳しい叱責が寄せられるなど、会社の対外的信用が大きく損なわれ、このため上司である所長は、取引先等への事情説明や謝罪などに奔走しなければならず、会社としては、業務上も多大な迷惑ないし損害を被ったものというべきであるから、原告にそのままセールス活動を続けさせることは業務上適当ではなく、被告が、原告に自宅待機を命じたことには、相当の理由があるというべきである。」
「取引先が原告に対して厳しい見方をしているように、原告の行為は不倫という社会的非難を免れない行為であり、かつ、会社にとって到底看過できない行為であるのにかかわらず、原告は、本人尋問において「自分がやった行為については、営業マンとして、何ら恥ずべき点はない、とやかくいわれる点はない。」「お客さんに迷惑をかけたという感覚はない。」「今回の件で、会社の信用を損なったとは思っていない。」などと供述していることから明らかなとおり、自分のした不倫行為について、現在に至るまで何ら反省の気持ちを持ち合わせていないのみならず、これが正当である旨の主張を固執する態度をとったため、このままの状態で、原告を業務上の必要から取引先へ訪問させあるいは静岡出張所の事務所などにおいて雇客又はデモンストレーターの女性などと応対させるとすれば、被告の男女間の倫理についての見識が疑われ、被告の対外的信用を一層損なう結果にもなりかねなかったのであるから、原告に対し長期間自宅待機を命ずる業務上の必要性があったというべきである。
よって、本件自宅待機の期間が二年間の長期にわたったとしても、これをもって、本件自宅待機命令を違法とするには足りないという外ない。」
2年間という長期間の自宅待機命令には驚きますが、実はこの原告は組合員で自宅待機命令に抵抗し続けて会社や取引先をたびたび訪れていたので会社としても自宅待機命令を解くタイミングがなかったようです。
懲戒処分は会社秩序維持のための制裁罰ですので、このとおり会社秩序が乱れた状態が続くなら2年間であっても自宅待機命令が有効とされるということです。
なお、この事案では2年間給与が全額支払われていました。これがノーワークノーペイの原則どおり無給であったならば、自宅待機命令が無効とされた可能性はあります。
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