清算手続きにより従業員を解雇する予定です。この場合に注意しておくべき点を教えてください。
清算手続きを進めると最終的に会社は解散し消滅します。
会社が消滅するので当然に従業員を解雇できると思われる方もおられるでしょうが、そうではありません。
この場合の解雇の有効要件は次のとおりです。
① 事業廃止の必要性
② 解雇手続の相当性
①の事業廃止の必要性が認められないことはほぼありません。
もっとも、従業員を解雇したいから偽装的に会社を解散させる場合は偽装解散として事業廃止の必要性が認められません。
事業を廃止するかどうかは究極的には会社の持ち主である株主が決めることであり、裁判所を含めた他者が判断できることではありません。
ただし、①の事業廃止の必要性と②の解雇手続の相当性とは相関的な関係であり、①の事業廃止の必要性が高ければ②の解雇手続きは簡易なものでも良いですし、逆もまたしかりです。
このとおり②の解雇手続の相当性は伸び縮みする要件であり、①の事業廃止の必要性の高さにより求められる相当性の程度が変わります。
求められる相当性の程度は変わりますが、以下の要素が裁判例において解雇手続きにおける判断要素とされています。
<解雇前の事前説明>
従業員に何も知らせないで解雇通知をしただけで解雇することはマイナスと見られる可能性が高いです。
事前説明なく解雇した事例で解雇が有効とされた裁判例もありますが、これは事業廃止の必要性が素人目にも分かるくらい非常に高かったものです。
事前説明には段階があり、書面による説明、説明だけの説明会、質疑応答を含めた説明会の3段階があります。
最低でも書面による説明を早期に行なっておくことが無難です。
<解雇通知>
解雇通知をいつするかは裁判例ではあまり重視されていません。
一般的には解散決議を株主総会でした後に解雇通知をします。
<再就職のあっせん>
あっせんをしなかったからと言って解雇が無効になることはありません。
ただ、事業廃止の必要性があるとはいえ、従業員が路頭に迷うこともあるので可能な限り再就職のあっせんをする方が良いです。
裁判例の中には再就職が実現していなくても再就職のあっせんについて努力したことを評価して解雇手続の相当性にプラスと見たものもあります。
<経済的な手当て>
退職金の割り増し支給や解雇後3ヶ月や半年など継続して給与を支払うことで従業員の経済的苦境を避ける目的があります。
これもあまり重視されていない要素です。
もっとも、有名な裁判例であるグリン製菓事件では長年低賃金での雇用にも会社に忠実に働いてきた従業員らに対して、丁寧に解散の経緯を説明することなく解散に至ったことで解雇手続の相当性が否定されました。
この裁判例では解雇前の事前説明が乏しいことで解雇手続の相当性が否定されましたが、もし退職金の割増支給をしっかりしていればあるいは肯定されていたかも知れません。
<解雇後の事後説明>
これはほとんどの事案でされていませんが、それでも解雇手続きの相当性が肯定されています。
事後説明がないからと言って裁判所が一言でも否定的に捉えていることもありません。
解雇が決まった後なので事後的に説明しても仕方がないということでしょう。
多くの場合、解雇された従業員が文句を言って解雇を撤回させようと無理を言う場合がほとんどなので相手にしても意味がないということです。
このように②の解雇手続きの相当性には5つほどの判断要素がありますが、実は①の事業廃止の必要性が高ければ1つもしなくても②の解雇手続の相当性が認められ解雇が有効とされることがあります。
そもそも、会社を存続させるか解散させるかは株主が一方的に決められることなので、解雇の有効性が論じられること自体おかしなことだと思います。
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