従業員の給与額を減額したいのですが、どのような方法がありますか?
給与について入社時に労働契約書を交わしていたとしても昇給の都度労働契約書を交わしていないこともあると思います。
その場合でも最新の最も高い給与額の取り決めが有効ですが、これを減額するには改めて労働者個人とその減額後の給与額を明記した労働契約書を交わさなければなりません。
例えば、月給40万円を34万円に減額するにはこの方法で有効な減額となります。
もっとも、入社時の月給が30万円だったとしてそれが昇給を重ねて40万円になっています。
その昇給の根拠が就業規則又は賃金規程にあるとします。
そうするとその就業規則等の規程を改定しなければ来年から同じように昇給をしなければなりません。
それはそれで良いならそのままで良いのですが、しばらくは昇給も見合わせたいということであれば就業規則を改定しなければなりません。
ここで疑問は、その昇給停止も労働者個人との合意で可能なのではないかという点です。
会社と労働者との約束は労働者保護のため就業規則と労働契約書を比べて労働者に有利な項目が有効とされます。
そうすると、仮に労働契約書で昇給停止に合意しても就業規則等に昇給規程があれば就業規則の昇給規程が優先されて適用されてしまいます。
したがって、昇給停止をするならば就業規則等を改定しなければならないのです。
昇給規程を廃止することは就業規則等の不利益変更に当たります。
就業規則等の不利益変更の有効要件は、その変更が合理的であることと従業員に周知されることです(労働契約法10条)。
不利益変更にも程度の幅があり、不利益の程度が高ければ合理性の判断は厳しく見られます。
昇給規程の廃止は賃金そのものの減額よりも労働者に与えるダメージは少なく合理性の判断がある程度緩やかに見られます。
この場合の合理性判断の要素は次のようなものがあります。
・経営が悪化しこのまま昇給をすれば事業が立ち行かなくなるであろうこと
・経営状態を示す資料を開示していること
・移行期間を数年とし直ちに昇給規程を廃止しないこと(経過措置)
・話し合いを丁寧にしていること
・現在の給与額が同業他社と比べて賃金水準が高水準であること
就業規則等の不利益変更の有効要件は以上のとおりですが、労働条件の不利益変更は労働者個人の同意を得るのが原則であり(労働契約法9条)、以上のとおりの変更はあくまでも例外です。
したがって、可能な限り個別に同意を得ておくのが無難です。
就業規則等の不利益変更の手続きは次のとおりです。
・労働者の過半数以上で組織される労働組合がある場合にはその労働組合の意見を、ない場合には労働者の過半数以上の代表者の意見を聴くこと
労働組合がある場合にはその労働組合に意見を聴けば良いですが、労働者の過半数以上の代表者を誰にするべきかは問題となります。
会社に都合の良い人物を代表者だとして意見を聴いたとしてしまうと後に争いになったときに就業規則等の不利益変更が無効とされる可能性が高いです。
したがって、従業員に代表者の選出を任せて誰にしたかの報告をしてもらいましょう。その代表者に対して意見を聴けば良いこととなります。
あとはその意見書を変更後の就業規則に添付して所轄の労働基準監督署に提出してください。
この回答をご覧になっても解決に至らない場合には、お気軽にお問い合わせください。