レストランをAと共同経営していました。Aは出資しつつシェフでありレストラン業務のプロである一方、私は出資し運営について都度意見を言う立場で現場にはあまり入っていませんでした。この状況下で最近Aと喧嘩になり今後の経営を私がすることになりました。ところがAが私に雇用されていたとして未払残業代の請求をしてきました。どのように反論するべきでしょうか?
共同経営ということは労働契約法2条1項、労働基準法9条の「労働者」ではありません。
「労働者」ではないということは残業代は発生しません。
ただし、Aさんが自分が「労働者」だと主張しているのでそれに対する反論をどのようにするかを検討します。
東京地裁平成29年5月17日判決は、こうした共同経営者であったAのような人が自分が労働者だとして賃金請求をした事案についての判決です。
結論から申し上げますと判決は労働者性を否定しました。
この判決について説明していきます。
「労働者性の有無は、原告の労務提供に関する実態に照らし、使用従属関係が存在したか否かによって判断される」として労働者性の判断基準を示しました。
第1に、業務について具体的に指揮命令を受けていれば使用従属関係が認められますが、原告は指揮命令を受けずに独立して業務を行なっていたと認定されています。
第2に、経費負担の割合は使用従属関係に直接は関係ないとしました。これは、店舗が赤字になったときの補填が原告以外の被告らによってされたことで原告が補填をしなかったことがまさに従属的地位にあったことを示すとの主張がされたので、裁判所は「それは原告と被告の取り決めの問題であって使用従属関係の判断には関係がない。」と原告の主張を退けたものです。
第3に、業務時間について自由裁量がなければ使用従属関係が認められますが、原告の出退勤時刻と休憩時間を管理していた者はおらず、雪の日には出勤を巡って原告と被告が衝突していて、原告には被告の指揮命令に服さなければならないという意識が希薄だとしました。
第4に、固定給ではなく売り上げに応じて報酬が上がる仕組みであり、雇用保険を含む社会保険に加入しておらず、労務提供を前提とした報酬の取り決めがあったとは言い難いと認定しました。
第5に、店舗名を原告の名前に由来する名称としていて通常であれば一労働者の名前に由来する名称を店舗名とするはずがないと認定しました。
第2と第5の事実はこの裁判例の事案独自の事情ですがその他3点はご質問の事案も含めた他の事案にも当てはめられる基準です。
ご質問では、シェフとして腕を振るっていたAさんがご質問者の指揮命令を受けずに独立して業務を行なっており、勤務時間管理がされていたとも思えず、共同経営者であるAさんが固定給で働いていたとも思えませんので、労働者性を否定することができると思います。
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