契約社員への退職金不支給は労働契約法20条に違反しないという最高裁判決が出たというニュースを見ました。この判決はどういうものなのか、また我々の会社にどう影響するのか教えてください。
契約社員は労働契約の期間が定められている有期雇用です。契約社員に退職金を支給する会社もあればしない会社もあります。
もしこの最高裁判決で「契約社員に退職金を支給しないことは違法だ」とされてしまっていたら人件費が高騰して大変なことになっていたと思います。
最高裁判所は2020年10月13日午後、契約社員への退職金不支給が労働契約法20条に違反するか、という争点を含めた判決を出しました。
高等裁判所では違反するとの判決が出ていましたので、いわゆる逆転判決となります。
この事案は東京メトロというかつては営団地下鉄という名前で知られた都内23区及びその近郊における中核的な地下鉄会社の子会社の契約社員が訴えたものです。
その子会社は、「METRO’S」という名称で地下鉄駅構内に売店を出しています。東京メトロの地下鉄利用者なら知らない人はいないでしょう。
ただ、最近はローソンとの提携によりローソン名義での売店が増え、METORO’S名義の売店は減少していてアウトソーシングが進んでいる状況です。
この裁判の原告は2人で、そのMETORO’Sで販売を担当して1年間の期間更新を繰り返して65歳での定年退職に至りました。
さて、労働契約法20条は、有期雇用と無期雇用(正社員)との労働条件の格差について不合理なものを是正することを求めていました。蛇足ですが、今は同条は廃止されパートタイム労働法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)8条に移る形になっています。この事案は労働契約法20条が活きていたときのものなので適用条文となっているのです。
退職金支給の有無も格差の一つですが、それが不合理であるかは「退職金の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮すること」としました。
労働契約法20条は「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」(以下「職務内容」という。)を考慮して不合理な格差があっていけない、としていましたので最高裁は正社員と契約社員の職務内容がどういうものかを明らかにしてます。
そこで両者を見ると、正社員は休暇や欠勤で不在の販売員に代わって早番や遅番の業務を行う代務業務を担当していたほか、複数の売店を統括し、売上向上のための指導,改善業務等の売店業務のサポートやトラブル処理、商品補充に関する業務等を行うエリアマネージャー業務に従事することがあったのに対し、契約社員は売店業務に専従していて両者には一定の相違がありました。
また同条は「職務の内容及び配置の変更の範囲」(以下「変更の範囲」という。)を考慮して不合理な格差があってはいけない、としていましたので最高裁はこの点についても明らかにしています。
そこで両者を見ると、正社員には業務の必要により配置転換等を命ぜられる現実の可能性があり,正当な理由なく拒否することはできなかったのに対し、契約社員には業務の場所の変更を命ぜられることはあっても業務の内容に変更はなく配置転換等を命ぜられることはなく、これについても一定の相違がありました。
さらに同条は上記の「職務内容」と「変更の範囲」に加えて「その他の事情」を考慮するとしています。
ここではMETORO’S周辺の組織再編に関する特殊事情が上げられていてそれは割愛します。
また、契約社員には正社員への登用制度がありました。
最高裁はこれらを「その他の事情」として考慮するとしました。
以上の「職務内容」、「変更の範囲」、「その他の事情」を踏まえると、契約社員らが1年ごとの更新で定年が65歳とされて必ずしも短期雇用を前提とせずに10年以上勤続していたことを考慮しても、労働契約法20条にいう「不合理」とまでは言えないとされました。
この最高裁判決は、正社員と契約社員の職務内容等が異なる会社において退職金を不支給としても良いというお墨付きを与えました。
ただし、アルバイトへのボーナス不支給を認めた同日の最高裁判決の影響と同様、小規模の会社にとっては配置転換をする余裕がなく「変更の範囲」について会社に有利な事情を作れません。
「その他の事情」についても正社員への登用制度を設けることは小規模の会社にとって不可能です。
したがって、小規模の会社は「職務内容」で正社員と契約社員の差を作るしかありません。
この点について差がない会社も見られますが、今後この最高裁判決を踏まえて業務内容を正社員と契約社員とで変えることをお勧めします。
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